魔法学校とデビュタント
というわけで今は
ムルと書斎で紅茶を飲んでいる。
「うっま!!
この紅茶って
この屋敷で一番お高い奴じゃないですか!!」
「褒美で粗茶を出すわけがなかろう」
「お茶請けの
このスコーンもめちゃうまですぅ~!
こんな美味しいの
生まれて初めて味わったっす~!!」
ムルは泣きながらスコーンを頬張り
紅茶を流し込んでいる。
本当に犬なのか、アイツは。
「そんなに焦らなくていい
ジャムや生クリームを塗って食べても美味いぞ?」
「んぅ~~~~!!!
至福の一時とはコレの事をいうんすね~!!」
尻尾が生えていたら
ブンブンと大振りしている音が聞こえてきそうだ。
「それにしてもこのスコーン
フローゼさんがいつも焼いてる奴とは
形が違うみたいっすけど」
「私が焼いたからな」
「えっ」
「そんなに意外か?」
「意外っす!」
生クリームの方を気に入ったのか
しまいには生クリームの皿を舐め出すムル。
「太るぞー?ムル」
「ぅげぇ!!?
それを言われるとモグモグッ…
でもモグモグッ…」
「リスかお前は。
こんなに頬張って口も汚れているぞ」
ハンカチでムルの口を拭いてやると
ムルはまた意外そうな顔をして固まる。
よくもこんなにコロコロと表情が変わるものだな。
「お嬢様、本当に別人みたいっす
というか年上…じゃないっすよね??」
「14だろ、確か」
「ですよねー?
3つ下のはずなのに
お母さんみたいだな~というか」
「中学生に母性を求めるな」
「は、はい!
(チュウガクセー…?)」
自分で食べる用に作っておいたスコーンだが
このままだと全てムルの腹に収まってしまいそうだ。
後でまた焼くか。
「ぷはー、紅茶おいしい」
「お嬢様がストレートティーなんて珍しいっすね
というか飲んでるところ初めて見たっす」
「好き嫌いは良くないって気付いただけさ
にしても、やってくれたなサレス…」
やたら美形の双子メイドが言っていた通り
俺を囲む立派な作りの大きな書斎は
その棚のほとんどが空っぽであり
残っている書物はムルが寛いでいる
テーブルの隅に積まれた5、6冊だけだった。
「私立学校の体育館並みに広いのに
蔵書がたったのこれだけとは…
しかも悲恋でドロドロした小説だけ。
全く嘆かわしい」
「お嬢様のお気に入りじゃないっすか」
「流石に飽きるわ」
「えぇええええ!!?
一生大事にするって
常々言ってたじゃないっすか??」
「人は誰だって時間と共に変わるものだぞ」
「は、はぁ…
なんか難しい話始まった感じっすか!?」
「ムル…
お前がそんな話に付き合ってくれるなんて
微塵も思ってない」
「っすよね~!!」
この世界について知る糸口があると思ったが
どうやらそう上手くはいかないらしい。
「歴史書や魔法に関する書物を中心に集めていくか…
そういえばシニスとデクスは
どういった本を求めているのか
聞くのを忘れてしまったな」
「あー、あの2人なら選り好みしないで
なんでも読んでるっすよ~
ただ…」
「ただ?」
「確かー…あっ!!
下級貴族の幼い少年が
性欲の強い上級貴族のお姉さんに
メチャクチャにされるシリーズを
読んでいる時は凄く楽しそうだったっしゅ!!」
「だったっしゅか…」
「嚙んじゃったところ
真似しないで下さいっす~!!」
官能小説の一種だろうか?
恋愛結婚とか身分さのある恋なんかの方が
民衆の食いつきが良さそうだと感じるが。
「ありがとう、ムル。
取り敢えず蔵書の件は
そのシリーズと歴史書や魔法に関する文献を
中心に収集しておくように
フローゼへ伝えておいてくれ」
「分かりました、お嬢様!」
「メモ取らなくて大丈夫か?」
「安心して下さい!
自分、記憶力だけは
人に誇れるっすので!!」
「ふーん」
あとでフローゼに直接言っておこう。
「それから私の今後の予定は?」
「大まかなに言うと今年から魔法学校に入って
社交界デビューするとかっすね~」
「魔法学校?」
「方々の貴族の子息や令嬢たちが集う
大きな学校っすよ!!
3年間魔法について学ぶ他に
色々なお家や上格な貴族と繋がる
チャンスでもあって
成績優秀なものは将来を
約束されるんだとか!」
なるほど。
学校とはいいながら
様々な思惑が蠢く
魔窟というわけか。
「それで、
学校と社交界はどう関係しているんだ?」
「それは一体どういうボケなんすか、お嬢様??
魔法学校の理事長であるユスティ大公が
主催なされるデビュタントは
社交界の登竜門って有名じゃないっすか~!!」
となると
魔法学校そのものも
社交界と捉えて
問題なさそうだな。
「くれぐれも学校では
土下座とかしちゃダメっすからね?」
「そうだな、その場では抑えて
帰って来てからムルに八つ当たりしよう」
「ひっぃぃぃ!!?
せめて傷跡が目立たないところで
お願いするっす…」
「冗談だ
そもそもそんな事態を回避出来ないようでは
3年と持たずに孤立するさ」
実際、サレスは社交界でも孤立していたらしい。
イデナという令嬢を
集団でイジメていた事が原因だろう。
「あと、魔法学校にはここから通うのか?
それとも下宿先が??」
「下宿って…
一応今現在はサレス様の婚約者である
ラモラ様のお屋敷でお世話になる予定です」
あぁ、サレスを殺した元婚約者か。
「一応というのは?
没落でもしそうなのか??」
「まさかっすよ~!
お相手はあのノデュス公爵家のご子息ですよー?
没落なんて後50年は無理っすよ~!!」
家柄としては申し分ない。
「もしかして私か?」
「うぅ、そうっす…
ラモラ様がお嬢様との結婚には大反対というか
奴隷と結婚した方がマシって騒いでるらしくて」
当然だな。
サレスなんて招けばどんな厄災が降りかかるか
分かったものではない。
「良識的で勇ましい性格のようだな」
「結構なイケメンらしいっすよ~?」
それは割とどうでもいい。
「明日話しに伺ってみよう」
「ま、マジっすか!?」
結婚するにしろしないにしろ
実際に会って話をつけるのが最善策だろう。
「朝方に1人で行ってくる」
「1人でってどうやって行くつもりっすか!?」
「馬くらいいるだろう?」
「ええぇ!?
いるにはいるっすけど…」
「なら問題なかろう」
「いやー
その馬が問題というか…」
「怪我でもしているのか?」
「そういうわけでもないっす!!
あー、見た方が早いっすよね??
お嬢様、ついてきて下さいっす」
まるで分からんので
駆け足で先行するムルを追いかけるとしよう。
『あぁ…クソ。
こんな下らねぇ事で死ぬたぁ
思っても見なかったぜ…
こんな事ならあの時読んだ…なんだったか?
名前も出てこねぇが内容はよく覚えてる話、
アレ、ブックマークしとくんだったな…』
なんて事、よくありますよね?
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お待ちしております。
パワー
卑下 流