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その悪役令嬢、天下無双の武神になりて。  作者: 卑下流
第一章:サレス・レディールは死んだ。
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サレス姉様




「くたばれクソガキィィィ」

「死ねよやぁぁぁぁぁぁぁ」


「待てお前ら!距離を取れと…」


短剣を大きく振りかぶりながら

下っ端らしき2人が此方に突っ込んでくる。


「勁刃…《双角》」


「え、消えた…?あれ、身体が動かな」


下っ端2人は水音を立てながら

胴体を斜めに切られ絶命した。


俗に言う袈裟斬りと逆袈裟斬りを

それぞれに見舞ったのだ。


「や、やっぱり魔法を使ったんだぁぁ!?

 いつの間に2人の背後に回ったんだ!!?」


「俺が知ってるのとは随分毛色が違うが

 ありゃぁ何かの魔法だ」


「馬鹿なッッ!?

 サレスは魔法適正Eの落ちこぼれの筈…!」


魔法とは何だろうか?

今のはただの縮地功と袈裟斬りなのだが…


「空間を移動するか身体を加速する魔法…

 いや、何かのスキルだろうな」


「(坊っちゃま、逃げますぜぇ)」


「(ふざけんな!!

 あの女を今ここで殺すんだッッ)」


「(あんなの勝てるわけねぇですって!

 一旦逃げて、次の機会を伺いやしょう)」


「分かったよ」


「坊っちゃま…!」


「今!ここで!

 あの魔女を殺したら

 報酬を3倍にしてやるよ!!」


「!?

 な、何を言って…」


「ボス!やるしかねぇっすよ」


「そこまで言われて引き下がるなんて

 ボスらしくもねぇ!

 かつてはAランクの冒険者だった割には

 臆病が過ぎるってもんだぜ〜??」


「お前らまで…!

 クソが…やるしかねぇか」


Aランクの冒険者??

魔法といい、聞き慣れない言葉が多い。


「お前ら、時間を稼げ!!

 一気にケリをつける!」


「任せとけボス」


「やってやるぜ」


「汝、火の精霊よ…御名の下において、サラマンドラの焔を顕現せしめられよ…」


覚悟を決めたのか

ボスと呼ばれた男は短剣を横に構えると

何かの呪文か祝詞(のりと)を詠み始めた。


「あれが、魔法という奴か?」


「クソッ、このガキ!

 背中に目玉でもくっついてるのか!?」


「なんで見てもねぇ

 攻撃を躱せるんだよぉ、クソッぉ!!」


短剣という得物の利を捨てての

大振り…未熟極まりない。


そんなヤワな剣筋に当たる方が難しいというもの。


俺は足の踏込む音や剣の風切り音だけで

盗賊2人の攻撃を躱しながら

何かを仕掛けようとしている頭領の動きに

注意を向ける。


「ヘタクソぉ!!!

 なんでその距離で殺せないんだよぉ?

 お前らにいくら出してやってると

 思ってんだ!!恩知らずのクズめ」


「坊っちゃま、下がって下せぇ

 そこだと()()()()じまいます」


今までに無い圧と火焔を纏う頭領に

怯んだのか、少年は無言で後ろに下がった。


「お前ら、ガキの足を止めろ」


「「へぇ!」」


俺に斬り掛かってきていた盗賊は

いきなり飛び退くと何かの小瓶を投げてきた。

中には何かの粉末が入っている。


俺は刀を頭上に放ると

空手になった両手で小瓶をキャッチして

それぞれに投げ返した。


「なッッッ!?」


「速過ぎッッ!!」


小瓶が盗賊に炸裂すると

飛び散った粉末を吸った途端に

全身が弛緩して不恰好に地面に突っ込んだ。


中身は麻痺性の毒だったようだ。


「ッッッ!

 喰らえ、バケモノ女が!!

 《火焔剣舞(フレイム・ブレイド)》!!」


部下の失態には目もくれず

頭領は火焔を纏った短剣を2本上段に構えて

まるでダンスの様な連撃を放ってきた。


俺は1つ1つの剣戟を最小限の動きで躱し

絶妙にタイミングをずらして

相手の動揺を誘う。


「ハァ…ハァ…これで!

 終わりだぁぁぁぁぁぁぁ!!」


今までの小振りな連撃を終えたのか

再び上段に剣を大きく構え

剣の纏う火焔と頭領の気迫が最大になる。


「死ねぇぇぇぇぇぇぇ」


「はぁ…」


俺は先程放っておいた刀が丁度落ちてきたので

キャッチしたままの姿勢から

頭領を一刀両断した。


「あっ…があッッ」


「その様な大振りは相手の隙を作ってから

 放つべきだったな」


唐竹に両断された頭領の骸は

豪快に地面へと零れた。


俺は刀に僅かについた

鮮血や血脂を振り払うと

刀を絢爛な鞘へと戻した。


「み、見えなかった…!!

 いつの間に刀を抜いて…振っていたのか?

 なんで左目が仄かに光っている??

 お前、本当にサレスなのか!?」


少年は頼みの頭領が死んだからか

尻餅をついて失禁していた。


頭領の屍が握っている短剣を拾い上げて

麻痺して身動きが取れない

盗賊2人の首筋に向かって放り投げると

気道と頸椎を損傷し嗚咽を漏らしながら

絶命した。


「これで後は君だけだ、少年」


「ヒィィィィ!!?

 やめろ!!僕に近づくなぁぁ!!

 アッチ行けよッッッ!!!」


少年は顔をクシャクシャにしながら

辺りに落ちている小石やガラスの破片を

健気に投げつけてくる。


その悉くが明後日の方向へ飛んでいっている。


「左眼をくり抜いて!

 右腕をぐちゃぐちゃに砕いて!

 最後には僕の命までも奪うのか!?

 実の弟なんだぞ僕は!!!」

 

左眼は兎も角として、他は間違っていない。


「関係ない」


「…え?」


「例え父母であっても

 想い人であっても戦友であっても」


「…」


「互いが刃を向けたなら

 どちらかだけが残るまで」


「…」


「覚えている事は少ない

 だが、そうしなければならないんだ」


「…姉様ぁぁぁ」


少年は自らの死を回避できないと悟ると

泣きながら()()で俺へと縋り付く。


「ごめんなさいサレスお姉様ぁぁぁ

 も、もうじません!!はん、反省じまじだぁ

 まだ、しに、死にたく、ないですぅぅ…

 痛いのも死ぬのも嫌だぁ…

 わあああああん!お姉様ぁぁあ!!」


「安心しろ、少年」


俺は顔の()()少年を抱き締めると

頭を撫でてやり、背中をさする。


「もう終わっている」


「え…?」


少年が手首や太ももに違和感を感じて

そちらに目線をやると

いつの間にか斬られており

動脈が切れたのか大量の鮮血が湧き出ている。


「痛くない…?」


「そうだ

 もう君を傷つける悪いお姉様はいない

 安心して眠ると良い」


少年の涙を拭ってやると

彼は落ち着いた穏やかな表情を浮かべる。


「誰かに抱きしめられたのって

 初めてだ」


「そうか」


「…サレス姉様」


「何だ、少年」


「あの頃みたいにプラヌって呼んでおくれよ」


「プラヌ」


「…ありがとう」


少年は胸に顔を埋めたまま、冷たくなった。


「本当に女になっている…」


足元の血溜まりに

反射している俺の姿は


肩まで伸びた黒い髪に

柴水晶のような輝く双眸

端正な顔立ちに華奢な柔らかい身体

黒を基調としたドレスに

装飾されたオペラグローブと


左目の揺らめく輝きと

返り血さえ浴びていなければ

物語に出てくる貴族令嬢さながらだ。


「…」


記憶にある限りではサレスは

己が悪行が巡り巡って

凄惨な結末を向かえる。


「俺は死んではいけない…」


 誰かが俺に言った


『神を斬るまで死んではならん』と———







いつからブックマークといいねと

高評価ボタンを押していないと錯覚していた??

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