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その悪役令嬢、天下無双の武神になりて。  作者: 卑下流
第一章:サレス・レディールは死んだ。
18/36

始まりの卒業式:恋する令嬢




————————


月光の下、王立魔法学校パーティーホール。


ゆったりとした音楽と

豪華な食事に囲まれて

卒業生や在校生の令嬢や貴公子たちが

優雅に卒業パーティーを楽しんでいた。


ホールの真ん中で踊るイデナとレクス様。

身分の差こそあれど、

誰の目から見てもお似合いの2人だ。


「…」


高貴な金髪の2人の周りには

スラヴァ帝国第一皇子のミハエル様と

私の()婚約者のラモラ様を中心に

様々な学友が集まっている。


一方の私サレスはと言うと

こうして会場の端の端で影に紛れて

シャンパンを煽っている。


「何故だか私はイデナをイジメた主犯格として

 彼らに近づかない事を誓わされている身ですから

 当然世辞の一つすら言えないわけですけれど」


自分が悪人…『魔女』である事は十分承知している。

もし人生を最初からやり直せるのならそうしたい。


「こうして人が集まるところにいると痛感します。

 『孤独』を…」


一目惚れだった愛しいラモラ様には


「お前のような魔女と一緒になるなど家名だけでなく

 我が魂と祖霊すら穢す悍ましい行いだ!!

 

 俺の…俺たちの前から消え失せろ!!」


と大変キツイ言葉まで頂く始末。


確かに入学した頃は

平民ながら綺麗な金髪を持ち

婚約中だったラモラ様と

親しげだったイデナが気にくわなくて

ちょっとした悪戯をしたりはしたが。


でも関係ない。

私がやっていなくても()()()()

魔女である私になるのですから。


「因果応報…という奴ですわね」


いじめていた筈のイデナに命を助けられ

その礼に彼女の誕生を祝って

贈り物を届けにいけば


何故か会場が木っ端微塵に消し飛んでおり

私がやった事になっていたりもしましたわね。


「ご機嫌よう、サレスさん」


「…ご機嫌よう、アウレア様」


「ふふ、今日は無礼講ですのよ??

 こんな機会もう無いのですから

 アウレアと呼んで下さってよろしいのよ?」


ミュートロギア公爵の娘、アウレア様。

黄金の長髪を結わえた綺麗なお方。

癖の強い公爵令嬢達の中で唯一の人格者。


皆に恐れられている私に声を掛けるのなんて

この人くらいのものだ。


「では、アウレア。

 卒業おめでとうございます」


「サレス、貴女もよ?

 卒業おめでとう〜!」


グラスを交わし互いを祝福する。

彼女は既に酔いが回っているのか

頬が紅く染まっている。


「婚約の話は残念だったわね…

 魔法の得意でない貴女に

 あんな大規模な破壊は出来ない筈なのに」


「疑われる様な事を仕出かして来たのは

 間違いありませんから」


笑ってはみるが上手く作れているか

自信がない。


「…それに、ラモラ様と婚約されるのが

 アウレアなら私も安心出来ますわ」


ミュートロギア家は300年以上の歴史を持つ

伝統ある格式高い家だ。


ラモラ様のノデュス家とも

決して見劣りする家では無いし

それなりに付き合いの長いアウレア様と

結ばれるのなら大した嫉妬もない。


「でも、好きだったんでしょ??

 本当に良いの…???」


「それは…」


初めてお会いした時から

とても素敵なお方だとは思っていたし

私の事を深く知らなかった頃のラモラ様は

私に惚れている事も見抜いていた。


「良くない…けど…良いよ…

 アウレア…になら…」


ごく短い一瞬ではあったが両想いだったラモラ様。

どこの馬の骨とも知れぬ輩になら

くれてやる道理はないが。


そもそも貴族の娘が恋愛結婚などと

夢幻もいいところだ。


それくらいの事は分かっていた。


「でも、嫌だよぉ…うっ…」


「サレス!!」


初めて人前で泣いてしまった、

アウレアの胸に抱かれながら。


「よしよし…」


「嫌われたく…なかった…

 もっとずっと…お話していたかったぁ…」


もう遅い。

今のラモラ様の中にはイデナへの

叶わぬ恋の残り火があるし


次第にアウレアと1つになるのだから。


文字通り死ぬ程嫌われている身で

どうして普通に会話など出来るだろう?


暫く泣いたら涙も枯れた。


「ありがとうございます

 アウレア」


「良いの良いの…

 人間誰だって泣いていいんだから」


「はい…」


「あら、サレス。

 少しだけ化粧が落ちてしまっているわ」


「本当ですか?

 では少し直して参ります」


一礼して誰もいない化粧室へと入る。


鏡を覗くと

涙で目元の化粧が落ちてしまっている。


「本当に、醜い女ね

 サレス・レディール…」


自分への戒め。

かつては何かを虐げる事でしか

何かを壊す事でしか人と関係を築けなかった

哀れな女。


3mを超える薙刀の巨漢に襲われたあの時、

私を助けたい人なんていない事に気付かされた。


イデナがいなければ

確実に首を刎ねられていただろう。


立場を利用して

好き勝手していた自分に嫌気が差した。

当然、許されないのは分かっている。


「何こんな所で自分の顔なんか拝んでるのよ」


「…!

 ノヴァ様、お見苦しいところをお見せして

 申し訳ありません」


紅いショートヘアを揺らしながら

ムッとした顔をしている少女が

腕を組んで偉そうに仁王立ちしている。


実際、彼女はオムニス家の公爵令嬢で

私より断然偉いのですが。


「別に怒ってるわけじゃないわ。

 あんたがあんたの顔にうっとりしてようが

 あたしには関係ない話じゃない」


怒っていないと本人は言っているが

語気に棘を感じるのは私だけでは無い。


「やっと学校なんて退屈な所から

 抜け出せるのに偉く曇った顔しちゃって

 何か嫌な事でもあった??」


「えぇ、まぁ…」


たかが好きな男が友達と結婚するのを

指を咥えて見てるしかないだけだ。


はっきりしない答え方をしたせいか

苛立ちを露わにするノヴァ。


「…はぁ。

 あんた本当にあのサレスなわけ??

 借りてきた猫みたいに丸くなっちゃって」


「色々ありましたから」


「色々あったとしても人の本質なんて

 そんなに変わらないものでしょ??」


「私もそうだと思います。

 多分、これが本当のサレスなんです」


ノヴァ様は意外そうに目を丸くする。

自分自身、自身の変化には驚いている。


「あっそ…。

 まぁあんたが納得して出した答えなら

 いいんじゃない??」


「心配なさって下さったんですか?」


「ば、馬鹿ね!

 人に心配して貰えるような人間じゃないって

 自分で分かってるでしょ??」


「それもそうですね」


口とは反対に私の肩を抱くノヴァ様。

本当にお優しいお方だ。


「あぁ、そういえばミハエルに媚びて来いって

 お母様達に言われてたんだったわ!」


相変わらずこの方は恐れ知らずだ。


「じゃあね、サレス

 …卒業おめでと。

 黒魔法の研究手伝ってくれてありがとうね」


「こちらこそ、ありがとうございました。

 ノヴァ様も卒業おめでとうございます」


ノヴァ様はさっさと化粧室を後にした。


魔法適正Eの私とペアを組んで

適性の関係ない黒魔法を研究してくれたお優しい方。


魔法適正はABCDEの五段階で

私はその中でもドベのEランク。


ノヴァ様はDランクで

本来は簡単な赤魔法が使えるが

召喚術や占いなどの黒魔法を

使いたいらしいという事だった。


実際の真意は分かりかねる。


その後化粧を終え

賑わっているホールに戻ろうかと

歩みを進めていたが


今アウレアの顔を見たら

また泣き出してしまいそうだ。


「少し外の空気を吸おうかな」


ここ王立魔法学校には

巨大な薔薇庭園がある。


何でも理事長であるユスティ大公が

巨大な魔法陣の一環として作り上げたのだそう。


暫く庭園を歩いて回り

薔薇に囲まれて激しいキスなどしてる

男女なんかと通り過ぎながら

庭園中央に佇む玉座のある広場に着いた。


どうやら先客がいるらしい。


月光に照らされて玉座に君臨する美女。


足元まで伸びる蒼く長い髪が特徴的なその美女は

1人でありながらまるで

親し気な誰かと話している様子だった。


「…ふふっ、そうなの!!

 もうレクスったら本当におかしかったのよ??」


「こんばんは、サフィラ様」


私に呼ばれた女性は会話?を止め

此方に不思議そうな笑みを浮かべた。


「まぁ!!

 サレスさん、こんばんは~

 パーティーの方はもうよろしいのですか??」


「えぇ、私にはどうにも眩しい場所でして」


「分かります~!!

 あのような賑やかな場は私も()()()

 好ましいと思えないので〜」


そういって膝にいる()()を撫でるサフィラ様。

この方は校内でも有名な不思議ちゃんである。


本人曰く、彼女のそばには

子猫のルーちゃんがいるのだそう。


「あぁ婚約者様との事で一悶着あったんですの~??

 目の下が赤くなっていますわよー」


「はい、お恥ずかしい限りです」


「また社交界でのサレスさんの

 話題が増えてしまいますわね~」


クアエダム公爵の1人娘、サフィラ・クアエダム。


実は彼女は第一王子のレクス様の元婚約者だった。


「失礼ながら

 今はサフィラ様が話題の中心のようですよ」


平民の出であるイデナが

王子であるレクス様に正式に結婚を申し込まれ

これを受けた。


貴族達の猛反発があるだろうと思われていたが

裏ではレクス様が熱心に説得して回っていたそうだ。


実際、イデナが人格者でお人好しなのは

王国民全員の知るところとなっており

今最も王女に近い女だと言われている。


クアエダム家の反発も無かった事を考慮すれば

サフィラ様も了承済みだと見るべきではあるが。


「あぁ〜!!

 そういえば私もレクスにフラれたのでしたね」


「…あれ?

 ご存知なかったんですか?!」


「知らなかったわー!

 お父様がショボくれた顔していたから

 何かお家に不利益な事があったのは

 知っていたんですけどね〜」


フフフとお淑やかに笑うサフィラ様。


「その…サフィラ様とレクス様は

 長い付き合いだと聞いていたのですが…??」


「そうですよ〜?

 確か2才と3ヶ月の頃からの付き合いなので

 15年とちょっとですね〜」


「それだけ深い仲の方でしたのに

 残念ですね」


「いえいえ〜?

 むしろレクスとは兄妹の様なモノですから

 婚約と言われてもピンと来なかったのですよ」


「なるほど、兄妹…」


愛も形が色々あると学んだ。

恋や色恋だけでなく

友愛や兄弟愛といったものも当然愛だ。


「実を言うと〜

 兄の様に慕っていたレクスが

 良き女性と結ばれたい事に

 喜びすら感じているんですよ〜??」 


「そう…なんですね。

 悲しいとかっていうのは無かったのですか??」


「無いですよ~!

 レクスとの婚約はお家や王様が決めた事ですので

 そうしろと仰られたらそうするだけですしー??」


流石公爵令嬢様だ、肝が据わっている。


「…私もそう割り切れたら

 良かったのですが」


「割りきれずとも

 弁えているだけで十分立派な事ですよ~?」


「そうだと良いのですが…

 サフィラ様、卒業おめでとうございます。

 それでは」


「ルーちゃんもおめでとうと言っていますよ~!!

 バイバイ、サレスさん」


一礼して広場を後にした。


そろそろ落ち着いて来たし、

アウレアに礼を言いにホールに戻ろう。









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