小さな騎士
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誰かに抱き抱えられている。
さっきまでのゴリラみたいな大きい悪党に
痛めつけられた傷と痛みも無い。
眼を開けると
目の前には黒髪に紫色のキラキラした目の
綺麗な女の人の顔があった。
「魔女…さま…?」
僕は思わず呟いた。
もしかしたら怒られてしまうかも。
「目覚めたか、少年。
聞いたぞ、騎士団が駆けつけるまで
盗賊達をたった一人で足止めしていたんだって?
その若さでよくぞ勇敢に戦ったな」
女の人は抱えていた僕を降ろすと
僕の頭を優しく撫でて来た。
目線だけ上げて
その人の顔を見つめると
僕に優しく微笑んでくれていた。
誰かに優しくされたのは
生まれて初めてだ。
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「いや!
先程はすまなかったね。
お嬢さん!」
装いのみすぼらしい少年を撫でていると
背後から白馬に乗った騎士が来た。
オレンジを思わせる爽やかな青年ながら
喋りはどこか暑苦しい。
「改めて、俺はクラヴィス!
白耀騎士団団長…だけど代理だ!!
俺の代わりに皆を守ってくれてありがとう!」
暑苦しい台詞を叫び
白馬から飛び降りて
直角90°にお辞儀するクラヴィス。
「お名前を聞いても?
是非お礼をさせて欲しい!
辺境伯様なら何でも叶えてくれるはずだ」
「礼は要らん。
それにお父様は出奔していると
伺っているが?」
「お父様…何ぃ!!?
その美貌はもしやと思っていたが!!
やはり君がサレスお嬢さんか!!
まるで気付かなかった!!
ハハハハハ!」
むしろ出会って3秒くらいで分かるだろ。
「我ら白耀騎士団は
辺境伯様と直結する連絡網を持っていてね!
連絡自体は毎週定期的に行っているんだ!!」
なるほど、領主としての責務は
放置していないという事か。
やはりサレスの事を避けていると
見るのが妥当だろう。
「そうか。
使命を放棄したわけでないのなら
別にそれで構わないんだ」
「血の繋がった親子だろう!!
我らの城までお連れしていいなら
親子水入らずで会話も出来るぞ!!」
「特に話すこともないし…あぁ、そうだ。
公爵家の息子との婚約は破棄したと
伝えておいてくれ」
公爵家の筋から聞くよりは
ショックは小さいだろう。
「そうか!
伝えておこう!!
ではこれにて失礼させて貰うよ!!」
白馬に再び跨ると
クラヴィスはマントを豪快にはためかせながら
事後処理へと向かった。
「あの…」
未だに頭を撫でられている少年が
恥ずかしそうに声を掛けて来た。
「あぁ、すまない
髪がクシャクシャになってしまったな」
「それは別にいいけど…
汚い僕なんかに触って…その…
はやく洗った方が良いよ…」
俯く少年。
「…そうか
では洗いにいくぞ、少年!」
「え!?
ちょっ…」
再び少年を抱えてヴァルに跨り
街道を駆け抜けていく。
「隣街のインベルには温泉があるらしい
そこでゆっくりとしよう」
「速い!!速すぎるよこの馬!!
止めてってー!!」
慣れていないからか
怖がって私に抱き着く少年。
「アハハハ!
勇敢ながら同時に臆病だな
これでもかなり抑えてる方だが。
怖かったら目を閉じて
俺につかまっていな、少年」
ゆっくりと(※当社比)森の中を抜けていき
春風に吹かれている内に
湯煙が至る所から立ち上る街に着いた。
「少年、もう着いたぞ」
「嘘…まだ30分くらいも経ってないのに?
フルーグナからインベルまで
20kmくらいあるよ…?
まるで魔法みたいだ」
この世界には信号が無いし道も広いので
ヴァルムの速さで駆け抜ければそんなものだろう。
「いざ温泉!…と行きたいところだが
少年の着替えの事をすっかり忘れていた」
「いや、僕はお金無いからいけないし
服なんて持ってないよ…」
んん?と思って少年の装いを見ると
ボロ布に袖となる穴をあけているだけの
粗末なモノだったのに改めて気付いた。
「ではまず、仕立て屋だな」
「した…て?」
ヴァルを近くの馬屋に預けて
最低限の荷物を持って小綺麗な仕立て屋に入った。
「いらっしゃい」
「どうも、この少年に服を仕立てて欲しい」
「うお…なんじゃこりゃ。
追剥ぎにでもあったか、坊主?」
「…」
「仕立ててやるのは構わないが
先に身体を洗ってきた方が良いと思うぜ
兄さん??」
突っ込むのも面倒なので流すことにする。
「そうしたいのも山々なんだが
替えの服がなくてね。
仕立てて貰うのとは別で
適当な服を3着ほど頂けるか?」
「それならそれで構わねぇや。
待ってな坊主、今よさげな奴持ってきてやるから」
店主は合点がいくと
店の裏へと引っ込んでいった。
「ま、魔女様??
僕お金無いよ…??」
泣きそうな顔でこちらを見つめてくる少年を
跪いて撫でてやる。
「金の心配なんてするな。
俺が出してやる」
「そ、そんな…
悪いよ、捨て子の僕なんかに!」
「捨て子だろうが関係ない。
私は君の勇敢さが素晴らしいと思ったから
君に良くしたくなったんだ」
「僕が、勇敢…?」
分からないと困惑した表情の少年。
「あの大男に勝てると思っていたのか?」
「ううん、勝てるわけない」
「逃げておけば
君は痛い目に合う事は無かったんじゃないか?」
「そうしたら、街の皆が痛い目に…
きっと殺されてた」
「もしかしたら君が殺されていたかも」
「それでも、少しでも時間を稼げたらと思って…」
「それをな、『勇敢』っていうんだ」
「…!」
少年は目を見開いて驚愕する。
「私はサレス・レディール。
レディール辺境伯の娘だ
君は??」
「…ラウル」
「ラウル、私の騎士となって
私を守ってくれ」
「!?」
ラウルは慌てふためき目が右往左往する。
しばらく考えたのか
やがてゆっくりと口を開いた。
「本当に…僕で良いの?」
「あぁ、君が良い。
君じゃないと嫌だ」
真っ直ぐと迷う少年の瞳を見つめ
俺が冗談で言っていない事が伝わる。
「なる…僕は魔女様の騎士になる」
「そうか!
よろしくな、ラウル」
「よろしく、魔女様」
魔女とその小さな騎士は固い握手を交わした。
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