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透明な君を見送りたい  作者: ダメ人間
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第13話 占い師

秋になって、紅葉が出始めた頃。

少し肌寒くなってきた日々。

僕と彼女はイチョウ通りを歩いていた。

どちらが誘導したのか覚えてはいないが、手を握って歩いていた。

はたから見ると普通のカップルのように見えていたに違いないだろう。

しかし、僕らは普通であって普通ではない。

普通を装っている普通のカップルだ。


「将来何になりたい?」


クシャリクリャリと地に落ちたイチョウの葉を踏みしめながら彼女は尋ねた。

・・・答えられなかった。

自分が何になりたいかなどと考えたことがなかった。

ただ漠然と自分は生きて来た。余裕がなかったというのもあったのかもしれない。

彼女ほどではないが、僕が自分が人と違うということに気持ちが割かれていたのだ。

知らず知らずのうちに余裕がなくなっていた。自分の知らないうちに。

僕が答えられずにいると、


「私もなりたいものが見つからなかった」


それは君が・・・自分が死ぬと分かっていからかい?と聞き返そうと思ったが止めた。

綺麗な瞳が僕を見つめる。


「私は何になればよかったと思う?」


さらに答えに詰まる質問だった。

自分のこともろくにわかっていないのに、他人のことなどわかるわけがない。

とはいえ、これ以上答えないわけにはいかないので、僕は


‟占い師などはどうだい?”と返した。


すると彼女は一瞬、怪訝な顔をしたが、笑いながら


「面白い未来だけど、それだけはないかな」


「当たるかどうかわからないからこその占い」


「そこが魅力で刺激的。100%当たる占い師なんていたらつまらないよ」


アハハハハハと気持ちよく笑うと、彼女は笑いを抑えて


「それはそうと気を付けてね。次の曲がり角で女子高生がパンを口にくわえて、君に向かって小走りで駆けてくるから」


「ちゃんと避けてね」


「わりかし美人でかわいこちゃんだから、ぶつかって君と触れ合うなんてしたら、私・・・嫉妬しちゃうかも」


彼女の顔から前方へと目線を移す。

曲がり角。僕らが曲がろうとしている曲がり角がそこにあった。

僕は


「『随分と変なタイミングで未来を見るんだな』」


言う前に彼女に僕の言葉を言われた。


「ならなかった占い師に、今、なってみようと思ったの」


「100%当たる占い師に」


「ささ、遠慮なく角を曲がって結果をみてみようか」


一歩、一歩と曲がり角へと近づく。

奇妙だった、一種の恐ろしさと好奇心がそこにはあった。

ドキドキとワクワクを胸に、いざ、僕と彼女は曲がり角を曲がった。

すると、そこには・・・いた。


目と鼻の先で女子高生がパンを口にくわえて、小走りで駆けて来ていた。


彼女の占い通りだった。ただ一点を除いて。


向かっていたのは僕ではなく、彼女の方であった。


僕は握っていた手を引き、そして余っていた手で彼女の上腕を掴むと、グッと自分の体の方へと彼女を引き寄せた。

やさしく、赤ん坊や小さな子犬を扱うように彼女を抱きしめた。

走ってきた女子高生は、申し訳なさそうに走りながら僕らに一礼すると、何事もなかったかのようにその場から離れて行った。


「・・・外れちゃったね」


僕の腕の中で彼女は小悪魔的に笑った。

苦笑いで返すと、


「でも・・・当たらない占いも良いモノでしょ?」


秋になって、紅葉が出始めた頃。

少し肌寒くなってきた日々。

僕と彼女はイチョウ通りを抜けた曲がり角で抱き合っていた。

抱き合うように彼女が仕向けたからだ。

僕は思う。


100%噓つきだ。

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