第1話 見えない少年
僕は死体を見ることが出来ない。
それに気づいたのは気づいた時から・・・すなわち初めからだ。
子供は残酷である。
小さなアリやバッタ、ダンゴムシ、その他大勢の昆虫を殺すことを無邪気にすることがある。
そして、自分もそうであった。
殺すということの重さを理解しておらず、漠然と生命を奪うことに躊躇が無かった。
(無論、今ではそういうことに嫌悪感を抱くし、思い返せば罪悪感も感じる。)
そんな幼少期であったが、僕にはどうしても理解できないことがあった。今でもだ。
例えば
虫を踏み潰せば、砕けた外殻やら体液やら内蔵やらが地面というキャンバスに広がり、独特の気持ち悪さが描かれる。
と、そういう表現を周囲の友達は口を揃えて言うのだが・・・僕にはそれが理解できなかった。
僕の視点でそれを見ると・・・それが無いのである。
動いている昆虫
それを足で踏み潰す
足を上げると
何も無い
周囲の友達は、皆、踏み潰された箇所を見て各々の感想をぶちまけて共有するが、自分にはそれが出来なかった。
何も描かれていない真っ白なキャンバスを見せられて、そのキャンバスについて『百文字以内の感想を述べよ』というテストを受けているようなそんな感じであっただろうか。
僕はいつも答えに困っていた。
そうなると答えは決まってくる。その答えは『他人に合わせる』だ。
友達が言ったことを覚え、それっぽいことを曖昧に言えば大抵はしのげる。
それで僕は今まで過ごしてきた。
特に深く考えることなく、そうすることが最適だと、そういう考えで僕は過ごしてきた。
幼き少年より数多の経験を経て、青年へと歳を重ねて来た今の今までそうしてきた。
そして今、そのツケが回ってきそうな時に直面している。
僕の彼女が・・・世界で一番の最愛の人が目の前で死にかけてるのである。
―――これは僕と彼女の物語。
呪われた彼女を見送れず、そして僕が呪われるまでの物語。