異世界にやって来ました
拙い文章ですがよろしくお願いします。
「まさか全員が異世界に転移するとは」
「丁寧に我らが『逢魔ヶ時』のアジトまで用意されている」
「その名前は恥ずかしいからやめてくれ」
「全会一致で決まった名前だぞ」
「徹夜テンションで決めた名前だから恥ずかしくてかなわん」
「何か代案はあるのか?」
「『インサージェンシー』はどうだ?」
「却下」
「ねえ君たち、チーム名のこと話してる場合?」
僕が声をかけると一気に静かになった。素直に言うことを聞いてくれるのはいいね。
最初に誰かが言ってたけど、僕たちは異世界へ転移したらしい。それもチームの拠点とメンバー全員で。みんな一緒なのを喜ぶべきか、僕らのような存在がやってきてしまったこの世界に同情するべきか悩む。
「チーム名のことで議論するのは構わないけど、今は誰かにこの状況を説明してほしい」
「無理だな」
「だろうね」
分かってはいたけど、まだ少し混乱している。ゲーム内でチームのみんなで拠点に集まってたらいつの間にか異世界に転移していた、ということぐらいしか分かっていない。
僕ら『逢魔ヶ時』のメンバーは世界中でブームを巻き起こしたとあるフルダイブ型のVRMMORPGのプレイヤーたちであり、全員がトップレベルと言われるプレイヤーだった。僕らのチームは少数精鋭のチームとして有名で時には配信者が取材に来ることもあった。悪い意味でだけど。
僕を含む全員に共通すること、それは『どこかがずれている』または『ゲームでやらかしたことのあるプレイヤー』の二つだ。前者はサイコパスじみているといった主に精神や性格面で、後者はアカウント永久凍結などの処分にされたことのある人が含まれる。
『逢魔ヶ時』はそういった訳アリだったり上手く馴染めないプレイヤーが集まってできた少数精鋭チームなのだ。似た者同士でお互いに理解できるから連携は強いけど、統制ができなかったりしたらみんなが好き放題やりだすので指揮系統が滅茶苦茶になり何もできなくなる扱いずらい集団だ。
話を戻そう。
「ちょっと整理しようか。みんなが拠点に集まったらいつの間にか異世界にアバターに憑依したまま転移、ステータスも異常は無く拠点も何も変化が無い・・・ってことは暮らすのに何も問題はないね」
「そうだ。だが・・・」
「だが?」
「せっかくの異世界だ。俺は好き放題やりたい」
「私も。これだけの力があれば大体のことはできるわ」
「なあなあ、闇の組織として暗躍するとか面白そうじゃね?もともとオレたちは善人じゃねぇし、ゲームでも違反行為まがいのことなんてよくやってただろ。闇の組織になれそうじゃねぇか?」
誰かが言った、「暗躍したら面白そう」という言葉。全員がその言葉に興味を惹かれ、すぐに結論を出した。
「「「面白そうだ」」」
このまま行くと暴走しそうなので釘を刺しておこう。
「別にいいけど、人の道は踏み外さないようにね?」
「「「善処する」」」
僕もそうだけど、彼らは「面白そう」という理由だけで小国一つ滅ぼしかねない。実際にニ、三人いれば出来てしまうのだから冗談にならない。一応僕は彼らの中でも実力は上位に入るから言うことは聞いてくれる。でも変なスイッチ入ったらもう耳を貸さなくなるから、話を聞いているうちに言いたいことは言っておいた方が良い。
「しかし闇の組織と言っても何をするんだ?それにもともとこの世界にあった犯罪組織かなんかに目を付けられたり国に目を付けられたら面倒だぞ」
「うーむ・・・とりあえず邪魔な組織は消して一大勢力を築き、そう簡単に手出しできない存在になるのはどうだ?」
「それいいね。地球でもヤのつく職業の人と警察が良い関係とは言えないけどそれなりの関係を持っているって聞いたことあるし、国とは持ちつ持たれつぐらいの関係になるのが現実的かな?」
「じゃあ決定でいいか?」
「ああ」
全員が頷く。
今のところの方針は「闇の組織としていろいろやってみよう、但しやりすぎない」かな。異世界ものの作品って大体中世~近世ぐらいの文明で盗賊とか魔法とか騎士団とか学園とか面白そうな要素いっぱいあるし、うまくやれば楽しむことはできそうだ。
その後も少し各自の行動方針を言ったりして話し合いは終了となった。
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言い忘れたけど、僕の名前はケセト。勿論ゲーム内の名前だ。容姿は平均的な男子高校生ぐらいの身長、髪は真っ白で目は紅い。服はどことなく中二病感漂うコートを着ている。
僕の職業は「魔剣士」という、闇属性攻撃と妨害に特化した職業だ。強そうだけど敵が闇属性や状態異常に耐性を持っていると途端に使い物にならなくなってしまう。しかし僕は単純な火力でゴリ押しできるほどの攻撃力があるので「闇系無効」や「物理無効」などの敵が来ない限り負けることは無いと思う。
次は僕の仕事とやりたいこと。僕の仕事は何らかの方法・・・とりあえずは盗賊狩りで資金を集めることで、やりたいことは学園に通ってみること。
拠点近くの大きな町に来てみるとどうやら国の王女様が国一番の学園に入学するらしい。貴族たちは王族とのつながりを持とうとして動き回り、平民は王女をこの目で見られるということで賑わっていた。
町の奥に大きな白い城が見えるのでおそらくここは城下町、城下町と言えば学園。学園と言えば事件。事件に介入してみたい。
ちなみに町に入る時に身分証明ができなかったので大金を取られてしまった。聞くところによると冒険者カードで身分証明ができるらしいので今はギルドに向かっている。学園に入学する時も冒険者カードが身分証明になるので取っておこう。
ギルド・・・荒くれどもが主人公にいちゃもんつけて返り討ちにされる場所。どう返り討ちにしてやろうかな?
そんなことを考えながら木造の酒場みたいな冒険者ギルドに入る。そこには昼間から酒を飲む荒くれどもがいて僕を見てくる・・・ということはなく、平和な雰囲気漂う酒場だった。受付の人以外誰もない。
「冒険者登録したいんですけど」
「かしこまりました。ではギルドの説明をさせていただきます」
受付の人は愛想のいい笑顔で説明してくれたけど、一般的なファンタジーのギルドの説明そのまんまだったから途中から聞き流した。登録したら依頼を受け条件を満たしたらランクが上がり恩恵も増える、冒険者の争いにギルドは基本的に介入しない、何があろうと自己責任など。
自分の名前は「ケセト」と書く。武器は片手剣、得意技・・・闇系全般でいいか。
提出すると受付の人が顔を顰めた。どうも闇系統の使い手は好まれないらしく、場合によっては差別されるとのこと。受付の人は心配になったから顔を顰めてしまったと言うけれど、絶対に差別者でしょ。仕事じゃなければ露骨に差別していたに違いない。
確かに闇系統の技と言えば相手に苦痛を与えるのに特化していたり呪術が多かったりとマイナスイメージになるのはしかたがないけど、差別はやりすぎだと思うな。
変更するのも面倒なのでそのまま発行してもらい、ランク上げと資金集めを兼ねて盗賊を中心に狩りまくった。この辺の盗賊はかなり派手にやっていたらしく金銀財宝がザックザクで数人が一生豪遊しても余るほどの大金を手に入れた。美術品関連は今は捌けないから資金に変えるのは時間がかかりそうだけど、これだけあればしばらくは持つだろう。
その日は最終的にベテランと言われるCランクまで上がり終了となった。
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「今日の報告を聞きたいな。僕は盗賊狩りで大金をゲットして身分証明として冒険者ランクをベテランのCにしておいたよ。町の外は盗賊が結構派手に暴れてたみたいだけど、僕がだいたい消したからしばらく盗賊は寄り付かなそうだね。盗賊以外の収入源も考えておくよ」
「俺はすぐ近くの町だな。あそこは城下町でこの国・・・『リスカス王国』って名前だそうだ、その国で最もレベルの高い学園があってもうすぐ王女が入学するらしい。一応身分関係なく受験できて入学後も区別はないらしいが入学式の後はどうせアホな貴族がギャーギャー身分のことで喚き散らすんだろ、ファンタジーの学園のお約束だな。学園へ誰かが行っていろいろするのも面白そうかもな。で、国全体としては安定していて善政を敷いているそうだ。町のやつらの身なりもそれなりだし健康そうだったからヤバい国というわけではない。ちょっとぐらいヤバイ方が俺らも楽しめたんだがな。他にもいろいろあったが今日はこの辺にしておく。いっぺんに言っても覚えられんからな」
「私は宗教のことを調べたわ。そしたら私たちが今いる大陸のほとんどで信仰されてる『創神教』っていう一神教のことがいろいろ分かったわ。大きな組織で町や村のほとんどに教会が設置されてるって。布教もかなり熱心で他の宗教を認めないから一部では嫌われているみたい」
他の報告は文明レベルとか一般的な魔法のレベルなど、なかなか役に立つ情報を知ることができた。
宗教か・・・裏できな臭いことやってたら嬉しいな。オモチャにできるから。
最後までお読みいただきありがとうございました。