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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
乙女ゲームと遺言書の謎
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図書室の喧騒⑤

「まぁ、挑発だなんて人聞きの悪い。戯れていただけですわ殿下」

「っ!俺は挑発に乗っても戯れてもフラれてもおりません!」


 いや、フラれてはいるだろうという図書室中のツッコミは帯刀許されたその剣で斬りつけられたくはないので皆黙っている。


「いいかいロバート、クリスティーがフラン嬢を使って君を挑発しているのは君が一番嫉妬という魔力にかられてなにかしらの事件を企てようと考えるかもしれないというクリスティーの打算だ。クリスティーはこのラビュリントスで起きた全ての事件に進んで巻き込まれにいって事件を解決したがる大変迷惑な探偵だ、それが自分がきっかけで起きた事件ならば理由も必要なく関われると喜ぶだけだ」

「俺はそのような騎士道に反する卑怯な真似しない!戦うならば正々堂々一対一で勝負を挑む!」

「そうですわハリー、わたくしがけしかけてロバート様に事件を起こさせようとするなんてことございません。なぜならロバート様は体は鍛えられてもなにか複雑な知略を練って事件を企てるなんてことは出来ませんもの。起きるのはきっと推理の必要もない事件ですぐに現行犯逮捕ですわ。ねっ?ロバート様」

「馬鹿にしているのか!?」

「いいえまさか、純粋で単純で忠実なるあなたを称えているのです」


 ハリーの諭すような態度に、そんな単純な挑発には乗らないと豪語するロバートと、そんなロバートを本気で称えている気でいるクリスティア。

 前半は馬鹿にして全く褒められている気のしないロバートは今にも噛みつきそうな顔でクリスティアを睨みつける。


 そんな二人のやり取りを見ていたユーリは頭が痛くなる。


 いつもは毅然とし騎士としての矜持を胸に冷静沈着に振る舞っているロバートだが、フランが絡むとどうしてこう感情を優先させるのか。

 入学時に見た姿に一目惚れをしたのだとロバートからは聞いているが、フランに執着している様子を見るに到底一目惚れとは思えないのだが……。

 フランは過保護な父や兄によってなんの憂いもなく穏やかに育ってきたので他人が声を荒げるだけで怯えてしまうというのに、フランが好きだというのならば何故分からないのか。


 いや愚問だ、分かっていてもクリスティアが挑発するのが悪いのだろう。


 荒れ狂う狂犬と和やかに戯れる公爵令嬢の全く微笑ましくない追いかけっこはクリスティアが飽きるまで続きそうなのでいい加減にしないかとユーリが窘める。


「止めないかクリスティア、ロバートも。もう授業が始まるのだから教室へ行くぞ」


 ロバートが感情的になればなるだけクリスティアが楽しむだけだ。


 共に教室に行く前に少し所用があったので丁度居合わせたフランにクリスティアを任せて図書室に行かせたことをユーリは後悔しながら、静寂が原則のこの場所を騒がしくしてしまったことの謝罪し、今度なにかしらのお詫びをしなければならないなと本来ならばユーリが考える必要のないことを考える。


「行くぞフラン!」

「えっ、あっ、クリスティー様。あの実はあのようなことがあった後で申し訳ないのですが少しばかりご相談したいことがあるのですけれど……お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

「えぇ構いませんわ、では昼食をご一緒にいたしましょう。ルーシーを迎えに行かせますので教室でお待ちください」

「ありがとうございます、お待ちしております」


 ロバートに逆らうことが出来ずにそのまま半歩後ろを走り歩きのような格好で共に去って行くフランに手を振り、その姿が見えなくなったところでクリスティアは呆れたように溜息を吐く。


「あのご様子ではフランさんはどんどんロバート様を恐れてしまいますわね」

「君がロバートを挑発するからだぞ」

「まぁ殿下、わたくしがなにもしなくてもフランさんはロバート様に対して一向に好意を抱くことはございませんわ」

「確かにそうかもしれないが……いつもは真面目で毅然としているんだがな。どうもフラン嬢が関わると緊張してしまい語気が強くなるらしい」

「呆れてしまいますわね。このままあのような態度が続くのならばフランさんにはもっと穏やかで優しくて知性のあるお方をご紹介しようかしら」

「計略もなく推理もない、真っ正面から切りつけられたくなければ止めときなさい」

「ハリーそれは……素晴らしくつまらないですわね」


 事件を起こすのならば計略を、巻き込まれるならば知略を尽くしてくれなければ意味が無い。

 推理をさせてもらえない現行犯逮捕の事件など関わるだけ無駄だろうとハリーの尤もな忠告にクリスティアは深く深く頷く。


「不謹慎な会話を止めないか、全く。さっさと教室へ行くぞ」


 友人を犯罪者扱いするのも事件を面白い面白くないで分けるのも随分と慎みのない会話だ。

 全てにおいて事件というものは起きるべきものではないのだからと不謹慎な二人のやり取りをさっさと切り上げさせてユーリはクリスティアへと腕を差し出す。

 その腕へと手を滑り込ませて確かに不謹慎だと納得しながら歩き出したクリスティアに、とはいえユーリもハリーも教室へ入ればその不謹慎を体現する不躾な視線が注がれるのであろうことに少しばかり憂鬱になるのだった。

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