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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
乙女ゲームと遺言書の謎
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図書室の喧騒②

「ふふっ」

「クリスティー様?」

「あら、変に笑ったりして申し訳ございません。本日わたくしが学園に現れたときの皆様のご様子を思い出して可笑しくなってしまいましたの」


 今日はクリスティアが濡れ衣を着せられそうになったリネット・ロレンス殺人事件後の初の登校の日である。


 王太子殿下でありクリスティアの婚約者でもあるユーリ・クインにエスコートされて馬車からクリスティアが現れたときの広がった場の空気と皆の表情を今日一日思い返すたびにクリスティアは何度でも笑みを溢してしまう。


 フランのように心からクリスティアを心配していた者達は良い、ユーリにエスコートされながら現れたクリスティアの変わることのない地位と品格、無事な姿を見られて安堵と喜びに溢れていた可愛い天使達をクリスティアはこれからも可愛がるだろう。


 だがそうではない者達。


 まるで悪魔が戻ってきたかのように驚愕と絶望の瞳を持って迎えた者達は最早生け贄にされる子羊の気分。

 これからの先の学園生活は楽しい青春を諦めるしかないと噂を信じた愚かなる自分を恥じる者達は一様に暗い表情を浮かべていた。


 そしてその中には更に怯えを含ませ逃げるように校舎へと入っていった者達もいる。


 きっとロレンス家の事件でクリスティアの不利になるようなあらぬ噂を広めた者達だろう。

 そんなに怯えなくても噂を故意に広めた者達のことは義弟であるエル・ランポールからリストとしてクリスティアは既に受け取っているので逃げても逃げなくても処遇は同じこと。

 そういった者達はこれから先、学園で肩身の狭い思いをしながらクリスティアが望むときに望むように動いてもらうための傀儡となるので、良い買い物をしたときのようにクリスティアの笑みが溢れてしまうのも仕方が無いというものだ。


「幾人か無責任に噂を広めておりましたから気まずかったのですわ、目に見えてあらぬ噂を流していた者達は学園の風紀を乱した者として厳重注意が下るそうです。その中には警察署にまで足を運んだ者がいるという噂もありますわ……」


 常日頃は穏やかなフランが心外ですと怒る姿を、可愛いらしい子犬が主人の為に敵に向かって精一杯の威嚇をしているようなそんな微笑ましい気持ちでクリスティアは受け止める。


 そういえば対人警察の刑事であるラック・ヘイルズがリネット・ロレンス殺人事件の折りに警察署に学園の制服を着た者がクリスティアが犯人だと証言しに来たと言っていたことを思い出す。

 そのとき既にラックはクリスティアによって籠絡された後だったので相手にもされず追い返されたようだったが……その人物はエルが調べた学園の要注意人物のリストの中に居るかもしれない。


 リストを渡されたとき、度を超した嫉妬や嫉みを抱く者達はなにをしでかすか分からないので十分に注意するようにとエルからクリスティアは口酸っぱく言われている。


 遠巻きに見て人の噂に乗りかかるような者達はクリスティアにとって安全な場所から威嚇はするものの相手の牙が届かないよう距離を取り近寄って来ることはない子猫のような存在で安心しているのかもしれないが、その中でも一定数は自ら進んで行動を起こす者達もいるのだ。

 自分が牙を向けていることは棚に上げて、相手の牙が降りかかってくるとは思いもしない愚か者達は、思い通りにいかなかったことに苛立ち過激な手段に出ることもあるのだからとエルは義姉に何度となく伝えてはいるもののいまいちその心配する気持ちは伝わらない。


 なぜならばそういった者達を傷一つ負うことなく追い払ってきたクリスティアは、困った子猫達だと思いながらも期待をして放置しているからだ。


 ごく稀に、ほんの一部だけれでもそういった者達の中には思慮深い策略を立てる者達がいる。


 そういった者達はクリスティアを事件に巻き込み推理という謎を解き明かす楽しみを存分に与えてくれるので、皆が心配する気持ちとは裏腹にクリスティアは警察署にまで行った子はどんな子かしらと新しい玩具を見付けた子供のようなわくわくとした気持ちで紅茶を飲めば……図書室の静寂を裂くようにカツカツカツと苛立たしげな足音が辺りに響き渡る。

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