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始まってしまった物語
「私、知ってるんだから!」
その日もし少女が現れたのが午前中もしくは友人から話を聞く昼休み前だったら彼女はその少女の言葉を戯言だと聞き流し、取り合うこともしなかっただろう。
「あなたが転生者だってことをね!」
だがそれは放課後の学園。
全ての話を友人から聞き、面白そうだと興味をそそられた彼女の一日が終わりそして始まろうとしたときに少女は現れたのだ。
「この悪役令嬢!」
まるで犯人を指し示す探偵のように細く長い指を彼女へと指し示し、自信と確信を持って彼女を見据える少女。
窓から差し込む陽光を浴びて小さく可愛らしいその頬を昂揚に染めた少女に、飛んで火に入る夏の虫とはこのことではないかと堪えきれずに歪みそうな口角を誤魔化すように紅茶を一口飲んだ彼女は、捕らえた獲物をどうやって逃がさないでおくべきかと算段しながら金の髪の毛を揺らし緋色の瞳を細め警戒されぬよう少女へと誰もが魅了される極上の微笑みを向けるのだった。