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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
リネット・ロレンス殺人事件
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馬車の告解⑦

「ですからね、一つわたくし賭けにでましたの」

「か、賭け?」

「えぇ、先も申しました通りわたくしの邸にはメイドというものがおりません。掃除などは自分達で致しますのでこれほど都合のいいことはございませんわ。でも勘違いなさらないでくださいな、お客様がいらっしゃるときにはメイドを雇うんですのよ。両親にも多少の見栄はございますから」

「み、見栄というのは矜持と密接ですからな、貴族という特権の中に身を置いているのだから多少の矜持を持っていなければ……いつでもその地位を狙う獣によって癒やしがたい傷を付けられるというものです」

「えぇ、内輪のことが外へと露見することほど恐ろしいものはございませんものね」

「そうです……そうなれば自死することすら躊躇いはしないのです」


 分かっているというように頷いた少女は自分の置かれている地位がどれほと危ういものか十分に理解している。

 理解しているからこその宝石でありドレスなのだと身を固める武装に触れる。

 これならば傷を付けようと狙ってくる獣も多少は怯むだろう。

 あとはそう内輪の醜聞を知られなければ良い、それが一番恐ろしい凶器なのだから。

 妻のヒステリーが知られたとき私がどれだけこの身を社交界で切りつけられことか。


 何度この身を地獄へと落とそうと思ったことか。


 娘の縁談も破断し色々と言われていた時期に妻ときたら婚約を喜んだ自分のほうが傷ついた被害者であると私に訴え、同情し得ない悲劇に浸り続けていた。

 いまだにそのときのことは私にも娘の胸にも深い傷跡を残し、思い出しては何度となく血を流している。

 そう、だから邸を出る前にヒステリックに騒ぎ立てた彼女を怒鳴りつけたのは正当な行為だったのだ。

 血に塗れた私の傷を抉り続けた彼女は報いを受け、私はもう二度と彼女のために一滴の血を流すことはないと誓ったのだ。


「それでですね、わたくしここなら絶対に見付からないという場所を見付けましたの。ほらよくおっしゃるでしょう灯台もと暗し、身近なものほどかえって気付きにくいと。ですからね……ふふっ、ロレンス卿はわたくしが何処に隠したとお思いになりますか?」


 エマのことを考えたくなくて、悪戯っ子のような瞳で私を見つめる少女の期待に答えようと考える必要のない問いの答えを考える。


 私だったら壊れたモノを何処に隠すだろうか。


 階段下の隙間?

 いやそこは普段メイドが使う掃除道具を置いている。


 化粧室はどうだろう?

 いやあそこは娘と母親が使っている。


 書斎、書斎は?

 私が一人で使うに決まっている書斎は普段から鍵を掛けているので隠しやすいが、最近は娘も妻に似てきてヒステリックに私を責めるようになったので、そんなときの逃げ場であり唯一の安らげる場所に壊したモノは隠さないだろう。


 では、では何処だろう。


 いや、違う。


 本当は心当たりがある。


 でもあそこではない。


 きっとあそこではないから他の場所を考えるんだ。


 私の邸に隠されたモノは一体何所にあるのだろうか。

 ブツブツと思いつく限りの場所を呟く私の声に黙ったままの少女は静かに耳を傾けている。


「い、衣装室とかかな?」

「まぁ、ロレンス卿ったら!衣装は部屋のクローゼットに全て入るくらいしか持っておりませんの、わたくしの家にそのような専用のお部屋はございませんわ」

「あ、あぁ……すまないすなまい。君の説明がつい我が家のような間取りを言うものだから想像してしまったのだ」

「いいえ、構いませんわ。とは申しましても元々衣装室だったところを今は化粧室にしておりますの。毎朝場所取りで母と喧嘩ですわ」


 そうだ、なにを勘違いしているのか。


 少女の小さいお城を馬鹿にしているわけではない……あまりにも、あまりにも私の邸と似ている間取りを言うものだから勘違いしてしまったのだ。

 しかもその改装した間取りもすっかり同じなのだ。

 どんどんと曖昧になっていく少女の邸と私の邸にとうとう探す場所がなくなり、追い詰められた小動物のように出せない答えに口をハクハクと開いて閉じていれば少女は弱った私を嘲笑うかのように鋭い牙が覗く唇を開く。

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