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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
リネット・ロレンス殺人事件
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幸せを願った者達①

 リネット・ロレンス事件から二週間後。

 教会の墓地の一角で黒いヴェールを被り黒い喪服のドレスを着たクリスティアは設置された真新しい白い墓石に白い菊の花束を備えていた。


「立派な式をあげてくださりありがとうございます」


 後ろから響いた穏やかな声と芝生を踏む足音。

 立ち上がったクリスティアのその隣に静かに立ち止まった影、喪服姿のヒューゴは疲れきった悲しみを携えた瞳で同じく白い墓石を見つめる。


 虚偽の証言をして事件を混乱させた罪に問われ掛けていたヒューゴだったがクリスティアからの嘆願もあり今朝方無罪となり、リネットの葬式へと参列していたのだ。

 ロレンス家の葬式は母娘そしてその子共々盛大に行われ、その全てをクリスティアが手配していた。


「当たり前のことですわ、ロレンス卿の件はわたくしも配慮がなかったと反省しておりますし……それにリネットさんはわたくしの命の恩人ですもの」

「えっ?」


 どういうことだとクリスティアの横顔を見つめるヒューゴに視線を墓石から外さずにクリスティアは語る。


「リネットさんの血液はわたくしが眠っていたソファーの背もたれにも付いておりました。刺したときに飛び散ったにしては量が多く、ブレイク様が遺体を動かした過程でそんなところに血が付くなんてこと、あり得ませんでしょう?リネットさんはマーク様からの一撃から辛うじて逃げた際に駆け寄ったソファーの先で眠るわたくしの姿を見付けたのです。そして咄嗟に思ったのでしょう、もしわたくしが彼らに見付かれば殺されてしまうっと。痛みを抱えながらもそう思ったのです。だからこそリネットさんはわたくしへ助けを求めずにマーク様へと逃げずに立ち向かったのです。それはマーク様の供述から明らかになった事実でもあります。一度逃げたのに自分達に向かってきたと……その身を挺してわたくしを守ってくださったのです」


 抵抗し一度逃げられたのであろう跡は血液の痕跡からも推測できる。

 最初の一撃でブレイクが押さえるはずが逃げられ、ソファーの先へとある窓へとよろめく足を踏み締めて向かおうとしたリネットはそこにクリスティアの姿を見付けて窓から逃げることを諦めたのだ。


 そしてマークへと立ち向かった。


 自分勝手で我が儘でどうしようもない性格だったというのに最後の最後になって人を助けようとするなんて……どんなことになったとしても生きていて欲しかった自分にとってはどこまでも身勝手な人だと、ヒューゴは喉を詰まらせたような声を上げる。


「リネットはあなたに憧れていました……王太子殿下の婚約者で、誰からも好かれていて……自分が手にできなかった幸せの中にいるあなたが眩しくみえたんだと思います。お茶会のときにあなたに愛称を呼ぶことを許されたときはとても喜んで舞い上がっていましたよ」


 クリスティアという存在はリネットにとって憧れの情景だったのだろう。


 震えるヒューゴの声を聞きながらこのときになってクリスティアは漸くリネットと出会ったあのお茶会でのことを完璧に思い出す。

 あの噴水の下でクリスティアにとって挨拶のような呼び名の変更を少女のようにはしゃいで喜んでいたリネット。

 ベンチに座って婚約を破棄されたことなどの会話をしていると、私幸せになりたいんですっと思い詰めたようにでも照れたように子供みたいでしょっとはにかんで笑った彼女の姿を。

 赤毛の髪を寂しげに揺らし、灰色の瞳を諦めたように細め、悲しみを背負い小さく窄めた肩があまりにも憐れで……あなたの幸せはあなたが間違えなければすぐに手に入りますよっとそう華奢な手を握って励ましたクリスティアに泣き出しそうな顔で頷かれたことを今、鮮明に思い出す。


「彼女は……幸せを間違えてしまったのね」

「えっ?」


 強く吹いた風にクリスティアの言葉を聞き取れなかったヒューゴは聞き返すが、クリスティアはなんでもないというように頭を左右に振る。


 今更そのような言葉に意味がないことをクリスティアは分かっているのだ。

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