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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
リネット・ロレンス殺人事件
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リネット・ロレンス殺人事件⑦

「恐らく子供の件について話があるといってマーク様が20時にゲストルームへとリネットさんを呼び出したのでしょう。そのとき示し合わせていたブレイク様が部屋までのご案内をされたのだと思います。ブレイク様が着用されておりましたボーイの格好は皆、帽子を被っておりましたから目深に被ればリネットさんはそのボーイがブレイク様だとは気が付かなかったのでしょう。そして部屋に入るなりマーク様が一撃を持ってリネットさんを刺す!」


 クリスティアがまるで短剣を握っているかのように拳を振り上げるとそのままなにかを刺すように空を切る。

 その裂け目から覗いたのはまさしくリネット殺害時の幻影。


 ボーイに扮したブレイクがゲストルームの扉を開き中へと誘うとリネットが入る。

 そしてマークが中に入り扉が閉められた瞬間、ボーイが出ていないのに何故扉を閉めたのかしらと不審に思ったリネットが振り返り見るとそこには短剣を振り上げた冷徹なマークの姿が眼前に広がる。


 きっと一撃は躊躇うことなくリネットの肌へと突き立てられたのだ。


 突き立てられ、抜かれた短剣の痛みと溢れでる血の色。

 驚いてボーイに助けを求めようとするリネットだがしかし、それは共犯者であるブレイクの姿で……悲鳴を上げさせないよう背中から口を顎を押さえられる。


 そんな残酷な光景がまざまざと思い浮かべられてユーリは顔を顰める。


「ブレイク様が抵抗するリネットさんを押さえていたからこそ背中に刺し傷が無かったのでしょう。暴れ逃げようとする彼女を押さえつけ何度も何度もその短剣で体を刺し貫く!とはいえその抵抗の力は凄まじくマーク様の腕を引っ掻いたようですけれど。それは猫に引っ掻かれた傷ではないのでしょう?」


 空を弾くように傷のある腕を指したクリスティアの指に、シャツで見えないはずの腕の傷がそこにあるのだとわざわざ示すようにマークは手で隠すように覆う。

 その無意識の行動はクリスティアが示したことを是としているのと同じことだった。


「そしてリネットさんが完璧に動かなくなったことを確認してヒューゴ様へと罪を着せる証拠を残した。そのとき着ていた服は血で汚れているでしょうから着替えたのでしょう。ゲストルームにはドレッサーがございましたからそこにブレイク様が着替えを隠していたのだと思います。血で汚れたお召し物はブレイク様が21時の時点で持って帰られたのでしょう。20時20分には夜会に戻りパーシーさんに自身のアリバイを証言してもらうために今の時刻が20時だと錯覚させるため先程の時計のトリックを使いました。ブレイク様が共犯者と知らなかったのでパーシーさんはブレイク様のことに関しては真実の時間を述べたのでしょう。些細な違和感を見逃さないパーシーさんのほうが一枚上手でしたわね。そして20分以降にヒューゴ様へと罪を着せるはずだった証拠の品を取りにブレイク様はもう一度殺害現場に戻り、遺体を動かしわたくしに短剣を握らせ、50分にそこから帰る姿を殿下に見られたのです」


 まさか殺害現場にもう一度戻ることになるとは思ってもいなかったのだろう、二度目の着替えなど準備をしていなかったはずなのでユーリが見た逃げ去るブレイクの手が血で染まっていたのと同じようにあのコートの下は赤く染まっていたはずだ。


「なぜ……なぜそこまでしてリネット・ロレンスを殺すことにしたのだ?」

「簡単な事実ですわ殿下、リネットさんのお腹の子の父親はマーク様だったというだけのことです。婚約者のおられる彼には十分な醜聞で動機ですわ」

「そ、そんな……そんな!」


 ブレイクが驚いた声を上げて椅子を揺らして立ち上がる。

 クリスティアの言葉を静かに拝聴していた一同はその音に驚き視線を向ければ、そこには瞼を見開きマークを見て体を震わせるブレイクの姿があり……その瞳には驚愕と戸惑いと、怒りが渦巻いている。


「う、う、嘘を吐いたのかマーク!?」

「……れ」

「僕の子供だって!リネットが責任を取れって言い出してるって!だ、だからだから僕は!」

「そう言って彼を巻き込んだのですのね。ヒューゴ様に罪を着せる証拠を調達する者やクレイソン邸へと入り込む者が必要でしたから」


 良いように利用されたのだとそう告げるクリスティアに怒りの色を濃くした瞳でブレイクはマークを震える指で指し示す。


「僕じゃない!僕じゃないんです!僕はただ押さえていただけだ!」

「黙れ」

「マークが!マークが刺したんだっ!」

「黙れっっ!!」


 騙された怒りに任せて叫び、リネットを殺したのはマークだと告発したブレイクに、マークは忌々しげにその姿を睨みつけて怒鳴りつける。

 その殺気だった声音と視線にビクリと怯えてしまい口をハクハクと開閉させるブレイクに、マークは台無しになってしまった舞台への苛立ちを落ち着かせるように深い溜息を吐くと髪を掻き上げる。

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