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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
リネット・ロレンス殺人事件
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リネット・ロレンス殺人事件⑥

「マーク様。あなたがリネットさんを刺したのですわね?」


 静かに告げるクリスティアの告発を睨むように見上げたマーク。

 その美貌を覆う醜悪な表情の変化に皆、一様に息を飲む。


 そして一瞬、広がった沈黙にはブレイクの後悔のすすり泣きの声だけが響く。


「は、はは……冗談はよしてくださいよ。私が?どうやって?私はリネットが殺された時間はパーシーと共に居たんですよ、まさかパーシーが嘘を吐いているとでも言うんですか?」


 睨んでいた眼を瞼で覆い、次に開いたときは柔和な笑みを浮かべて心外ですとマークは肩を竦める。

 まるで別人のような表情の変化に得体の知れない不気味さを感じながら、その反証にユーリは確かにと頷く。


 マークが20時からホールに居たことは間違いなく婚約者であるパーシーという証人が居るのだ。

 誰の印象でもパーシーはマークという人物に対して好意というものを抱いていない。

 結婚も家同士の繋がりで渋々するのだと語っていたパーシーが殺人の嫌疑が掛かった婚約者を守る嘘を吐くだろうかとユーリの胸に疑問が湧く。

 どうも納得いかないと訝しむユーリを横目にクリスティアはマークから離れホワイトボードの前へと戻る。


「殿下、随分長いことお喋りをしている気がするのですけれど今は何時になるかお教えくださいますか?」


 突如として時間を聞かれたユーリはモヤモヤとしていた自分の思考を停止させ左右を見渡す。

 なんで時間を……と思いながらも腕時計などはしていないので窓際にあるサイドテーブルに置かれた置き時計を見る。


「9時25分だが……」

「ではニール。あなたの腕時計で時刻は今何時になっているかしら?」


 ユーリの視線の先にある置き時計の時間を告げれば満足したような顔でクリスティアは微笑み、今度はニールに同じ事を聞く。


 ニールに聞くならば何故ユーリにも聞いたのか。


 訝しみながらもニールは自分の腕時計を見ると、その驚きで瞼を見開く。


「……10時だ」


 その瞬間、扉の向こう側の廊下で重厚な柱時計の音がゴーーンゴーーンっと鳴り響く。

 その響き渡る音を沈黙と驚愕を持って聞いていた一同をクリスティアは悪戯っ子のような眼差しでゆっくり見回す。


「マーク様はパーシーさんに同じ事をされたのでしょう?」


 ニッコリ微笑んだクリスティアに苛立たしげに足を揺すっていたマークは噤んでいた口を開く。

 しかしその口がなにか音を発しようとする前に部屋の電気が消え、そしてルーシーが窓のカーテンを全て閉める。


『こちらに向かっておっしゃればよろしいのかしら?』

『はい、スロットル様』


 ホワイトボードが光り輝き、集まる視線。


 そこにはパーシーが戸惑ったように椅子へと座る姿が映し出される。

 もう一人の声はルーシーらしく、おそらく魔法道具で録画した映像をホワイトボードに映し出しているのだろう。


『皆様、このような形で真実をお伝えすることをどうぞお許しください。先だって警察の皆様及びクリスティー様に偽りを述べたことを大変後悔しております。あのとき、あの夜会の日、私はマークに腕時計を見せられて時刻が20時であることを確認いたしました。私はそれに少しばかり違和感を持ったのです。マークは手首を締め付けられるのが嫌いだと言っていつも腕時計なんてしません、ドレスコードの件もありましたし、何故今日に限って腕時計なんて見せてきたのかしら?と。それが酷く気になったものですから私、マークがボーイとなにか話しているときに近くに居た別のボーイに時刻を尋ねましたの。そしたら今の時刻は20時20分だと申すのです。マークから見せられた時間と20分ほどズレがあったのです。リネット・ロレンス事件の話を聞いたときに私の頭にはとても恐ろしく残酷な考えが浮かびました。20分以前には私達は共におりませんでしたし、二人が付き合っていたことは知っておりましたから。でも私はそれを考えないようにいたしました。ただただ恐ろしかったのです。ですが今回こうして告白いたしましたのは亡くなられたリネット様に誠実であるべきだとクリスティー様に諭されたからです。彼女は私が感じる以上の恐怖を感じて亡くなられたであろうからせめてその恐怖に報いるためにも真実を述べるべきだと……大変申し訳ありませんでした』


 最後に深々と頭を下げたパーシーの姿は部屋の電気が点けられたことによってホワイトボードから消える。

 ルーシーがカーテンを開き差し込んだ陽の光は影を落としたマークの無表情を照らしだす。

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