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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
リネット・ロレンス殺人事件
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リネット・ロレンス殺人事件④

「えぇ、そうです。その危険なことが起きたのです。殺人犯人はリネットさんを殺したあとすぐにアリバイを作るために夜会へと戻ったのでしょう。ですが戻った夜会でなにか避けられない事情があり現場に戻らなければならなくなったのです。リスクを冒さなければならない理由があった、ではそれはなにか?」


 一同をゆっくりと見回したクリスティアは話を聞く容疑者の顔をそれぞれ見つめる。


 マークは平然とした我関せずの顔。


 ブレイクは真っ青で今にも倒れそうな顔。


 ヒューゴは険しく苛立った顔。


 その三者三様の表情をクリスティアは興味深げに見つめながらそのうちの一人、ヒューゴの顔で視線を止める。


「ヒューゴ様が夜会の会場におられたからです」


 クリスティアの言葉の意味が理解出来ず、皆一様に瞼をぱちくりと瞬かせる。

 そしてヒューゴ自身も、呼ばれた自分の名に意味が分からないという困惑の表情を険しいなかに浮かべる。


 だがその中で一人だけ顔を引き攣らせている人物を見付けたクリスティアは自分の推理が間違っていないことを確信し口角を上げる。


「リネットさんを殺した殺人犯人はとても用意周到に事件を計画しておりました。殺人を犯す場所を選び、短剣を準備し、着替えも準備していたのでしょう。そして濡れ衣を着せる犯人さえも準備するため睡眠薬を入れた飲み物を用意した。おそらくそれはヒューゴ様を眠らせるために準備したものです、殺人犯人はヒューゴ様を偽の殺人犯人に仕立てるおつもりだったのです。ヒューゴ様はリネットさん殺害時にはアリバイを作らせないよう眠らされる予定だったのです。ですが睡眠薬入りの飲み物はわたくしが飲んでしまった。恐らくヒューゴ様が睡眠薬入りの飲み物を飲んでいないことに気付いたのはリネットさんを殺害した後だったのだと思います。殺人犯人はヒューゴ様が飲み物を飲んでどこかのゲストルームに入るところまでは見ていたか案内をしたのでしょうが、その先の出来事はリネットさんを殺害しておりましたので見ておられなかったのでしょう。飲み物を飲んだあとで少し夜会の会場から席を外しましたのでしょうヒューゴ様?」

「……えぇ、確かに。ロレンス卿のことがあったというのに帰ろうとしないリネットと言い争いになって……どうしようもなく腹が立ったのでテラスに出られるゲストルームで一人、頭を冷やしていました。ほんの5分位でしたけど」


 そしてホールに戻ったときにはリネットの姿が何処にもなかった……。

 こんなことになると分かっていれば喧嘩なんてしなかったのにと心の底から後悔し自嘲するヒューゴにクリスティアが深く同情心を持って頷く。


「そうなると話が変わってきます。すぐに夜会の会場に戻られたヒューゴ様はリネットさん殺害時にはホールに居たということを誰に見られているか分かりません。もしかしたら誰かと話をしている可能性もあります。それがアリバイの証言として出てくるかもしれない方に殺人を擦り付けるのは些か難しい状況となるわけです。ですがリネットさんを殺害した部屋にはおそらくヒューゴ様に罪を着せるような物的証拠、イニシャル入りのハンカチを置いていたのでしょう。それを回収しなければならなくなりました」


 クインリイ邸のメイドであるミリーが言っていた無くなったハンカチはヒューゴに罪を着せる証拠として予め盗まれていたのだ。


 俯いて考え込んでいたニールがハッとした顔で弾かれたようにクリスティアに向かって顔を上げる。


「そのときに、お前が寝ていることに気付いたのか!」

「そうです。夜会の会場から殺害現場へと再び戻ってきた犯人はそのときになって初めて殺人が起きたその現場でわたくしが眠っていることに気が付いたのです。殺人は入り口近くで行われました。血液の状況からみてわたくしが眠っていたソファーより先へリネットさんが逃げた痕跡はございません、先にあったのは引き摺った血の跡だけでしたから。殺人犯人はソファーの背で隠れていたわたくしに気付かなかったのです。犯人はヒューゴ様の証拠を隠滅に来てわたくしが居ることに気が付いたときにはそれはそれは驚きお慌てになったことでしょう。場所も二階だったので滅多に人が来ることのない場所で、入り口にメイドもボーイも居なかったというのにわたくしが眠っているのです。余談ですがわたくしはクレイソン夫人の薦めで二階のゲストルームに眠い体を引き摺っていきましたの。犯人はさぞ混乱したことでしょう。殺人を犯して時間が経っていない部屋に人がいる、しかも血塗れの部屋で平然で寝ているのです。まさか殺人が起きているときも部屋に居たのか?では何故起きないのか?まさかまさかと頭で考えたことは、この令嬢が睡眠薬を間違えて飲んでしまったのではないかという疑問。起きる気配がないのだからきっとそうに違いない、では好都合ではないのか?いっそのこと罪を擦り付けるのはどうだろう、ヒューゴ様に罪を着せるのはもう無理に決まっているのだからそうしようっということで眠るわたくしに短剣を持たせ、リネットさんの遺体をわたくしが起きたときにすぐ見えるよう入り口からソファーの下へと移動させたのです」


 リネットの遺体を目覚めて最初に見ることとなる普通の令嬢ならばその凄惨なる光景に悲鳴の一つでも上げるだろう、その声を聞きつけた使用人か客かが短剣を持つ彼女を発見すれば、紛れもない新たなる殺人犯人の出来上がりだ。

 カツカツと靴音を響かせながらホワイトボートの前を歩くクリスティアはそのまま前列を通り過ぎ後列の椅子の背もたれへと回る。


 犯人の目論見通りとはいかず、悲鳴の一つも上げることなく静かにリネット・ロレンス殺害事件を発覚させたクリスティアは一つの椅子の後ろで立ち止まるとそっとそこに座る人物の肩へと触れる。

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