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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
リネット・ロレンス殺人事件
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馬車の告解⑥

「……ですね。ロレンス卿?」


 赤く染まるシャツに慄き絶望に捕らわれた真っ白な思考を遮られて、少女が心配そうな眼差しを向けている。

 どうやらなにか会話を投げかけられていたらしく、白に埋め尽くされて聞いてはいなかった話に取り繕うような微笑みを向ける。


「あぁ、なんですかな?」

「いやですわまたぼんやりなされて……わたくしに魅力がないからってあまり心ここに在らずですと拗ねてしまいますわ」

「あっはっはっ、いやはやすまないすまない……レディの美しさに見惚れて会話が耳に入ってこなかったのですよ」

「まぁ、取って付けたようなお世辞ですこと!」


 それでも外見を褒められて嬉しいのか少女らしく両手で両頬を押さえてはにかみ微笑む姿に、こちらも照れくさくなる。

 普段あのような歯の浮くような台詞を言ったりはしないせいもあり少女に喜ばれると気恥ずかしさもあるが嬉しくもあり自分の自信にもなる。

 汎愛される麗しい貴公子にでもなったような気になりながら問われた問いに素晴らしい回答をしてみせようと内容を問い返す。


「それでなんの話でしたかな?」

「えぇ、実はご相談したいことがございますの。ロレンス卿は教会のチャリティーなどに大変熱心なお方だとお伺いしたことがございますが……事実ですの?」

「えぇ、そうですな……熱心過ぎて牧師からは代わりに悩み多き者たちの告解を受けみてはどうかというお声をかけられたことがありますよ」


 だからどのような心配事、秘め事の告白だろうと心配は無用。

 他言はしませんという意味を込めて少女を強い眼差しで見つめれば、少女はその眼差しを獲物を狙う肉食動物のように細めて見返す。


「実はわたくしこちらに来る前に罪を犯しましたの」


 精々されて恋愛事の可愛らしい悩みだろうと高を括っていれば突然の茶化しようのない冗談ではない真剣な眼差しの告白に、催眠を掛けられたように動けなくなる。


 罪とはなんだろうか?


 一体どんな罪なのだろうか?


 きっとどんな罪でも私の罪より罰は軽いはずだとなんに対しての自分の罪なのか分かりもしないのに渇いた口に唾を飲み込む。


「つ、罪……とは?」

「実は母が大切にしている陶器の食器を割ってしまったのです、えぇあれは食堂で。わざとではないですのよ?うっかり手を滑らせてしまって……でも全ての子供ってきっとわたくしそうだと思うのですけれども頭が真っ白になってそういうことを隠したがるものでしょう?だからわたくしきっと人が見たら真っ青な顔をしていたでしょうにそれを隠してしまったのです」


 なんだ。


 なんだそんなことかと安堵して引きつり笑う。

 食器一つでそんな大仰な反応をされると犯された罪が大変な……後戻りの出来ない出来事ではないかと勘ぐってしまったではないかと額に流れる冷たい汗を服の袖で拭う。


「でもご存じの通りわたくしの邸はそれほど広いものではないので隠してしまうといっても場所は限られてしまいます、わたくしはまず食堂を出て通路を挟んだサロンに行きましたの、そこには壺とかそういった物がございますので最初はその中に隠してしまおうと考えたのです」


 少女が話しながらちらりちらりと怖気た視線を向けてくる。

 子供が親に叱られまいとするようなその怯えた視線に神妙な面持ちで少女の話を聞いていた気持ちがその視線に同調して、戸惑い、怯え、私の身を震わせる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ポエムのような語り口は、文章全体にいい味を出しています。読んでいて、高揚感が高鳴る感じがしました。
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