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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
リネット・ロレンス殺人事件
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ヒューゴ・クインリイ③

「わたくし達は邸へと帰りますわ、経緯はまたお聞かせ下さい」

「あぁ、分かった。気を付けて帰れよ」

「失礼しますクリスティー様!」


 流石に警察署まで付いては行けずヒューゴを連れて去って行くニール達の馬車を見送り自分達も新しく手配した馬車に乗ろうとユーリがクリスティアへ手を差し出したところで慌ただしい足音と共に一人の少女が息を切らして現れる。


「あの!あの!ヒューゴ様は何処へ行かれたのですか!?」


 三つ編みの髪を揺らしそばかすの散らばった幼い顔立ちのその少女はメイドの格好をしているのでクインリイ家の小間使いなのだろう、酷く動揺した様子で馬車が去った方角がどちらかを探すようにキョロキョロと辺りを見回す。


「ヒューゴ・クインリイは今、リネット・ロレンス殺害容疑で任意同行された」

「そんな!そんなこと!」


 ユーリの言葉に膝から崩れ落ちた少女は泣きそうな声を上げて頭を左右に振る。


「そんなことあり得ません!ヒューゴ様がリネット様を殺すなんて!そんなの嘘です!」


 少女のあまりの剣幕に圧倒されユーリとクリスティアは顔を見合わせる。

 断定と確信を持って叫ぶその少女の言葉にクリスティアは興味を持ったのかユーリから離れるとその肩を優しく掴んで立ち上がらせる。


「どういうことかお教えくださる?もしかしたらわたくしクインリイ様のお力になれるかもしれませんわ」


 クリスティアの優しい微笑みに嗚咽を漏らしながら涙を流し始めた少女は絶え絶えに話し始める。

 それは先程、ヒューゴが言っていた内容と真逆の、全く真逆の事実だった。


「ヒューゴ様はリネット様を愛しておられました!旦那様に結婚を許してくれるよう頼んでおられたのです!」

「結婚を……?」

「だが彼はリネットに結婚を迫られ殺したと……」

「嘘です!私、聞いたんです!リネット様が大変なことになったって二、三日前に邸に来られてそれで急にヒューゴ様が結婚を申し込んだんです!旦那様のことはどうにかするからって!なのにリネット様は頑として受け入れられなかったんです!絶対に幸せには()()()()からって!」

「幸せには()()()()から?」

「そうです!間違いありません!そうおっしゃってたんです!」

「なにをしている!」


 可哀想なヒューゴ様っとわんわん泣き出した少女に気付いた執事が慌てて駆け寄り、立場を弁えずユーリ達を引き留めた無礼を詫びる。

 その蒼白な顔にクリスティアは気にしないようにっという意味を込めて頭を左右に振り少女の頬を流れる涙をハンカチで拭ってやる。


「酷くショックを受けているようだからゆっくり休ませてあげてくださいな。事情が事情なのだからどうぞ咎めはしないで。あなた、お名前は?」

「ミリー、ミリーと申します」

「ミリー、一つお聞きしたいのですけれどもこの邸に出入りしている業者でゴールデンという名はあるかしら?」

「ゴールデン……ですか?」


 言っていいのだろうかと支えてくれている執事を見れば問題ないというように頷くのでミリーはゆっくりと頷く。


「はい、奥様の御用達がゴールデン家です。昨日公爵家で開かれた夜会に出席するためのアクセサリーを見せに来ていました」

「ではもう一つ、ヒューゴ様の持ち物でなにか無くなった物はございません?」

「あります!イニシャル入りのハンカチです!リネット様が刺繍してくださったのでヒューゴ様はとても大切にしていらしたんですけれどそれが見当たらなくなっているんです!」

「そうなのね……ありがとうミリー、安心しておいて。わたくしが必ず真実を突き止めてみせますから」

「はい!はい!どうぞよろしくお願いいたします!ヒューゴ様を助けてください!」


 執事に支えられる可哀想なミリーは何度も何度もクリスティアとユーリに向かって頭を下げて去って行く。

 その姿が見えなくなって漸く馬車に乗り込んだ二人は顔を突き合わせてどういうことだろうかと悩み合う。


「おかしなことになりましたわね」

「あぁ、ミリーが言っていることが真実だとしたら結婚をしたくないので殺したと語ったヒューゴの動機は嘘になる」

「メイドである彼女が分別も弁えずわたくし達の前に願い出たのです。幾ら主人を慕っていたとしても厳しく叱られ、最悪の場合職を失うかもしれない状況で嘘を言う必要は彼女にはないでしょう。むしろクインリイ様のほうが嘘をおっしゃられていたのだと確信いたしましたわ」


 ミリーの心を砕いた叫びを聞いて確固たる確信を持てたと頷いたクリスティアの言葉にユーリが驚いた顔をする。


「どうしてそう思うんだ?君が聞いたゴールデンと無くなったハンカチの件となにか関係があるのか?」

「もしかしたらというだけで確証はありませんが……それにもしクインリイ様が殺人犯人ならば殺害現場に居たのがわたくしだということをご存じでなければなりません、短剣を持たせるくらい近くまで来たのですから。でも彼はわたくしではない男性がテラスに居たという話を信じたのですよ。彼の話は嘘以外の何物でも無いということでしょう?」

「では何故殺したという嘘を……?」

「……それは、分かりませんわ」


 ヒューゴの辻褄が合わない自白。


 リネットを愛していたというメイドの証言。


 殺したと嘘をついた理由は一体何なのか……クリスティアは流れる車窓の景色を考えるように眺めていた。

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