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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
リネット・ロレンス殺人事件
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ヒューゴ・クインリイ②

「そうです、学生時代に友人にそそのかされて娼婦に手を出し妊娠させて責任を取った馬鹿な従兄弟です。あんなことがなければリネットは幸せになれるはずだったのに……婚約を破棄されたリネットは社交界で傷物として扱われましたよ」


 どちらに有責があろうともそんなことは関係ない貴族の間で醜聞というのはどんなものでもタブーなのだ。

 面白おかしく騒ぎ立てられたリネットの末路はそれはそれは孤独以外のなにものでもなかったとヒューゴが乱暴に吐き出す言葉は同情ではなく怒りに似た感情だとクリスティアは思った。


 結婚を拒んで殺したというわりには心の内ではリネットに対して押さえられない恋慕の激情をその怒りに乗せている、そんな声音だ。


「夜会に一緒に来てわざわざ何故、人の邸で殺したんです?」

「夜会のときに妊娠を告げられたのです」

「凶器は覚えてますか?」

「短剣です」

「何回刺しましたか?」

「分かりません、動転していたので」

「その短剣は何処で手に入れたのです?」

「護身用に持っていたんです」

「刺した後はどうしました?」

「さぁ、刺したままにしていなければ机に置いたのだと思います」


 あまりにも淡々とした殺人の告白を怪しんでいるのか、矢継ぎ早に質問するニールに詰まることなく返答するヒューゴ。

 その素早い返答はまるで予め用意していた台詞のように一貫していて怪しいところはない。

 だがそれはすべて今朝の新聞を見ればどの紙にでも載っていることでもあるのでなにか決定的な証拠はないだろうかとニールが考えあぐねているとそれを察したようにクリスティアが口を開く。


「ロレンス卿の事件はいつ知りましたか?」

「夜会の場で……何故あのような場で暴き立てたのですか?」

「わたくしとしましてもあのようなことはしたくはなかったのですけれども、ロレンス卿は奥様のご遺体を隠そうとなさったので仕方なく……」


 責めるようにクリスティアを見つめるヒューゴの眼差しは、まるでロレンス卿のことがなければリネットの事件も起こらなかっただろうと考えているようだった。

 自分で罪を犯したと言っているのにおかしな眼差しだとクリスティアは訝しむ。

 ロレンス卿の事件がなくてもリネットは殺されていただろう、現に短剣は準備されたものなのだから。


「号外のギャゼはご覧になりまして?」

「ギャゼ?いいえ、あれは大衆紙ですよね?私のところでは取っていませんから号外も届いていませんが……」

「ではあの事件現場に人が居たことはご存じではない?」

「人……が?」


 初めて、その水浅葱色の瞳が動揺したように揺れる。

 しかしその動揺を悟られないようにかヒューゴはすぐに眼鏡を上げて瞼を閉じ、開く。


「えぇ、その男性のお話ではリネットさんに誘われて部屋に来たらしいのですけれども丁度テラスで風に当たっているときに悲鳴が聞こえたらしく怖くて震えていたそうですわ。ギャゼはその男性が犯人ではないかと書いていましたけれども……気付かれなかったのですか?」

「気付きませんでした、テラスの方までは行かなかったので。本当にその人が犯人だと書いていたのですか?」

「あなたが犯人でないのなら可能性は高いと思いますわよ」


 ヒューゴの話を聞きながら隣のユーリが訝しんだように眉を寄せる。

 ギャゼに書かれていたことと全く違うことをクリスティアは口にしているのだ。

 テラスには誰も居なかったはずだしそれに部屋に居たのはクリスティアなので男ではなく女だ、ギャゼにも令嬢だと書いていた。

 何故こんな間違いをわざわざ口にするのか分からないが、横やりは入れないほうがいいということは分かっているのでユーリは口を噤みヒューゴへと視線を向ける。


「刑事さん、怪しければその人も捕まりますよね?」

「あぁ、参考人として話を聞くことにはなるだろう」

「分かりました……僕にもまだ大切な話があります。それは警察署でお話しします。あの……リネットの葬儀はどうなるんですか?父親があんなことになって母親も……一体誰が彼女を弔うのでしょうか?」

「それは親戚にでも頼むことになると思います」

「……そうですか」

「では、任意同行という形でご一緒に警察署へご足労いただいてもよろしいですか?」

「はい」


 ギャゼの件でヒューゴが嘘を吐いていることは明白だが犯行を自供している者をそのまま置いて帰ることは出来ないのでそこら辺の話も詳しく聞こうと警察署へ向かうためニールが立ち上がることを促す。


 ヒューゴはこれを見越して外行きの格好をしていたのだろう。


 ジャケットを取りに行くこともなくそのまま共に邸の外へと出て行く。

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