ヒューゴ・クインリイ①
「お待ちしておりました」
ヒューゴ・クインリイは年齢のわりに折り目正し少年だった。
いや、少年というより青年というものに無理にではないもののどうにかしてなろうとしているような……歳を取ることに憧れというか、若いということに負い目のようなそんなものを感じている大人ぶった背伸びをしている少年だ。
金に近い薄茶色のショートを七三に分けた髪、黒い丸めがねを掛けた水浅葱色の瞳という、タブレットで見た写真と変わらない姿でニール達を応接室へと案内する。
ニール達が伺うことは予め通信機を使って邸の者に連絡を入れていたのだが、灰色のジャケットを着たヒューゴは外出をするような格好なのでこの後、出掛ける用事でもあるのかもしれない。
その丸眼鏡の奥の鋭い睨みつけるような強い眼差しに皆、なんだか急き立てられているような気持ちになる。
「この度はお時間をいただきまして申し訳ございません。早速なんですがリネット・ロレンス事件の件で……」
革張りの一人がけのソファーが二脚ずつが隣同士で並び、机を挟んで向かい合うようして四脚並んでいる。
促されて椅子に座ったニールが来た理由を改めて説明しようとするとそれを制するようにヒューゴは手を上げる。
クリスティアとユーリは少し離れた壁際に設置された一人がけの椅子にそれぞれ静かに腰を下ろしている。
「私が殺しました」
「えっ?」
「私がリネットを殺したと申したのです」
突然のヒューゴの告白に、しんっと辺りが静まり返る。
今、ヒューゴ・クインリイは殺したと……リネット・ロレンスを間違いなく殺したとそう言ったのだろうか。
茫然とする一同の一瞬の沈黙はしかしながら流石、警部とだけあってニールがすぐに気を取り直し声を出すことで切り裂く。
「動機は?」
「妊娠を告げられ動揺したのです。リネットは私より年上でしたので結婚を強く望んでいたのですが私はまだ結婚をしたくなかった」
淡々と予め用意していた台詞を吐き出すようなヒューゴの態度にニールもだがラックさえも違和感を感じる。
殺人という罪を自白しているわりにはあまりにも淡々としすぎているのだ。
罪の告白というのは大体にしてもっと興奮したり、自分が犯した罪を自慢したりするものなのだが……ヒューゴにその様子はない。
「あぁ、思い出しましたわ。確かクインリイ様と親戚関係の方が元々リネットさんの婚約者でしたわよね?」
ヒューゴの顔をじっと見つめていたクリスティアが思い出したような声を上げる。
ユーリのような王太子殿下という特別な立場がなければ通常婚約というのは学園にいる15歳から卒業するまでの間に相手を決めるというのが一般的な流れだ。
本人の意思なく親が婚約者を決めることはラビュリントスでは法律で禁止されており、それなりの罰則もある。
学園の門をくぐった者はその背にかかる全ての地位を捨てるべしという校訓がある学園では貴族と平民が共に学ぶ学び舎で出会い婚約者となることもままある。
とはいえ身分差の結婚は親としては手放しで喜べることではないので多くの貴族達は暗黙の了解として自分の令息や令嬢には地位に見合った相手を保険として幼い頃から選んでおり、学園に入ればすぐその者と婚約をさせている。
確かリネットもそうだったとお茶会の席で聞いた噂話を思い出したクリスティアにピクリっと眉を動かしたヒューゴはクリスティアを燃えるような激しい憎しみを持った瞳で見つめる。