青の離宮での捜査③
「ですが無差別、というわけではないのかもしれませんわ。大司教達に配られた銅の杯は、わたくし達に配られた杯よりサイズが異なる大きさのものでしたし。置き場所も明らかに違う場所にありましたから。狙われたのはイーデス大司教であったのでしょう」
「そうなんですか?」
「えぇ」
クリスティアはハッキリと覚えている。
四つの銅の杯はテーブルの端、小さな銅の杯とは別の、金と銀の杯と並ぶようにして置かれていたことを。
銅の杯ということだけに気を取られて、差別なく愉快犯的に皆が狙われたのだと考えていた雨竜は、まだまだ彼女を助手をするには足りないなと肩を落とす。
「ということは、その銅の杯がイーデス大司教に渡されることを知っていた人物が、犯人ってことですね」
「そうです。そういったルールを知らなければ、まさに無差別殺人となったはずですから。つまり雨竜様は無実ということですわね」
悪戯っぽく笑うクリスティアに、早々に犯人候補から外れた雨竜は安堵ではなく、もっと長く尋問を受けていたかったと残念な気持ちになる。
だが食い下がるような真似をして、捜査の邪魔をするつもりはない。
「この後はどうするつもりなのですか?」
「そうですわね。あの会場に居た皆様に、一通りお話しをお聞きしたいと思っております。来賓者や他の大司教、修道者達にも」
「でしたら役割を分担しませんか?一人一人の話を皆で聞きに行ったら時間が掛かりますし」
詠美の提案に、確かにとクリスティアは頷く。
「そうですわね、でしたら詠美さんは大司教のお二人からお話しをお聞きするのがよろしいでしょう。聖女様であれば、お話ししやすいでしょうし。ルーシーを連れて行って……」
「あの、それってアリアドネさんが一緒でもいいですか?」
「えっ?私?」
「うん、アリアドネさんが一緒だと心強いかなって。それにメイドと一緒に居るところを見せたほうがいいかなって」
心強いといったって、アリアドネはルーシーのように超人ではない。
クリスティアのメイドとしてそれなりに訓練はしているが、武術なんて実践経験のないど素人だ。
なにか起きても詠美を守れるかどうか怪しいのだが。
窺うようにクリスティアを見るアリアドネに、彼女は少しだけ考える素振りを見せるが、了承するように頷く。
「そうですわね。教皇聖下の件もありますから、そういたしましょう。でしたらそちらはお二人でお願いいたします。あまり大人数で行っても警戒されるだけですから。アリアドネさんのことをよろしくお願いしますね詠美さん。アリアドネさんも、詠美さんのことをしっかりお守りしてね?」
「心配しないでください、なにか起きたらアリアドネさんのことは僕が守ります」
「心強い!でも私、メイドだからね!」
殺人犯人が跋扈しているかもしれない現状では、自分の力で詠美を守れる自信はまったくないアリアドネと、力強く自信に溢れた声で任せて欲しいと言わんばかりに胸に手を当てる詠美。
これではどちらが守られる立場であるのか、分からなくなってしまう。
「ふふっ、どちらにせよ怪我がないようにね。ルーシーは修道者達にお話しを聞いてきてくれる?」
「かしこまりました」
「クリスティー様はどうするんですか?」
「わたくしは来賓者の方々にお話しをお伺いいたしましょう」
でしたらその聞き込みに自分が同席しようと雨竜が名乗りを上げようとしたが、入り口から響いた声に遮られる。
「ならばそれには私が付き合おう」
「まぁ、殿下。警備の采配は終わりまして?」
「あぁ。君が余計なことばかりしでかしてくれるから、ライル卿が仕事が増えたと愚痴を溢していたぞ」
「あらですが、それが彼らの仕事ですわ」
ヅカヅカと部屋に入ってきたユーリが乱暴に、雨竜の隣に座る。
聖女がこの離宮に泊まることとなったので、誰を中心に警備を置くかをユーリとジョーズが改めて話し合っていたのだ。
騎士はなにかを守るのが仕事なのだから、守る者が増えたのならば仕事が増えるのは当たり前のこと。
ライルには昨日、存分に飴を与えたのだから今日は鞭である。
「では、殿下はわたくしと共に。雨竜様はもしよろしければ、ミサと昨日の現場を撮影してきてくださいませんか?」
共に来たがっている雨竜には申し訳ないが、ここら辺でユーリのご機嫌を取っておかなければ後々、面倒なのだ。
共に居られないことに残念そうに頷いた雨竜は、クリスティアからミサを受け取り。
それぞれがそれぞれの役割を果たすため、青の離宮から出掛けて行った。




