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青の離宮での捜査②

「実はクリスティー様が事件に興味を持たれるのではと思ったので、なにかお役に立てればと最初の事件があった中庭へと行ってみたのですが。生憎と警備兵がいて、近寄ることはできませんでした。現場を調べてクリスティー様の助手として立候補をしたかったのですが……今回は諦めたほうが良さそうですね」


 事故か自殺かはたまた殺人か。

 少しでもクリスティアの側に居る口実ができればと事件の調査に乗り出したというのに、彼女が探偵ではなく助手であるならばその席に座ることはできない。

 残念そうに肩を落とす雨竜に、クリスティアはクスクス笑う。


「いずれまた、別の機会にお手伝いをお願いいたしますわね雨竜様。では、大ホールの事件現場でなにか気になることはございましたか?」

「そうですね……私はパートナーがいませんでしたので比較的早く、30分程前に会場に到着したのですが。私より先にペルボレオ王国のネモイ国王が来ていました」


 思い出すように視線を俯かせて、雨竜は語る。


「彼は私の姿を見ると飲み物が置いてあるスペースから離れて、広い会場を見回るように歩きだしたのを覚えています」


 ペルボレオ王国はディオスクーロイ公国より北に位置する国で、一年中雪が降り積もっている気候から農作物等々の生産性の低さを補うために魔法道具が発達しており、それを取り扱う魔具師が多く在籍している。

 雨竜としては多少なりとも交流をして、魔法道具に関しての知識を得られればと思っていたのだが。

 なんとなく気まずそうに。

 逃げるように距離を取られてしまったので、挨拶するべきが悩んでいた雨竜は距離を詰めることをしなかった。


 当代の王であるレア・ネモイは信仰心の無い者には辛辣だとの話しを聞いていたが。

 一国の主が私的な理由を重視し、あからさまに交流を避けようとするとは。

 黄龍国から得られる物は何一つもないと言わんばかりの態度に、多少なりともムッとしたのだ。

 雨竜は彼が離れた飲み物のあるスペースへと向かい、グラスを一つ持ち上げた。

 そこには既に銅の杯が置かれていたのを記憶の片隅に覚えている。


「次に会場に現れたのは公国の王太子でした。すぐに飲み物を取りにこちらにいらしたので、少し話しをしました」


 それは他愛の無い会話だった。

 来て早々に起きた不幸についての愚痴のようなもので、お陰で妻が体調を崩してしまったから部屋で休んでいる、こんなことならば一人で来るべきだったと肩を落とす彼を雨竜は慰めた。


 公国夫妻はクリスティアの友人だ。

 優しくして損はない。


「公国の王太子と話している間に、大司教達やマザー・ジベルが来ました」


 その頃には静かだった会場にウエイター役の修道者達が増え、ジベルが彼らに指示を出し、大司教達も忙しく動き回っていた。

 アメットとは暫く会話をし、彼がレアに挨拶をしに行くと言うので別れ。

 雨竜は忙しく動き回る者達を、ホール端の柱に身を預けてただ見ていた。

 思い出してみても、なにか怪しい動きをしている者達はいなかったように思う。


「そしてクリスティー様とユーリ殿下がいらっしゃいました」


 パーティー開始の10分前であった。

 見惚れるほどに美しいドレスを揺らし現れたクリスティアだったが、ユーリと衣装が対比であったので珍しいなと訝しんだことを覚えている。

 二人はまず一番近くにいたレアと簡単な挨拶を交わして、次にアメットと親しい話しをしていた。

 そして一番遠くにいた雨竜の元へと来て、たわいない会話を交わした。


「一番最後に、リュビマ王国の女王がいらっしゃいましたね」


 時間を少し過ぎた辺りで来た彼女の第一声は、音楽一つなくて辛気くさい!これがパーティーだって?勘弁しておくれ!だった。

 静かだった会場が一気に騒がしくなり、皆の視線が集まった。

 そして彼女は真っ先にクリスティアの元へと行くと、酒が恋しいと彼女を抱き締めて泣き言を言って皆を苦笑いさせたのだ。

 そうして皆が集まったのを確認して、すぐにお開きとなるパーティーが始まった。


「それからは正直言って、聖女様に気を取られていましたので……周りを見ることはありませんでした。クリスティー様、これは本当に黙示録に関わりのあることなのですか?無差別殺人ではなく?」

「何故、そう思われるのですか?」

「イーデス大司教が飲んだ聖水は、水差しから入れられていました。同じ水差しから他の大司教達の杯にも注がれていたので、毒は渡された杯に最初から入っていたと考えるべきです。銅の杯はテーブルに無造作に置かれていました。どれに毒を入れるかは犯人の思うがままだったでしょうが。誰がどの杯を選ぶかは犯人はもちろんのこと、死んだイーデス大司教すら分からなかったはずです。私達が受け取ったのも銅の杯でしたから、毒を飲む可能性は等しくあったということですよね?」

「まぁ、素晴らしい推理ですわ」

「僕より探偵っぽいです」


 ニッコリと笑むクリスティアに、詠美とアリアドネが凄いというように拍手をする。

 雨竜は少し照れくさそうに、頬を染める。

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