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青の離宮での捜査①

「事件を捜査するのですかクリスティー様?」


 翌朝、青の離宮の客間。

 朝食もそこそこに訪ねてきた雨竜が向かい側に座ったクリスティアを見て、開口一番に尋ねる。


「えぇ。教皇聖下から許可を得ましたので、捜査をするつもりです。まずは昨日会場に居らした皆様から、お話しをお伺いしようと思っております」

「やはり。クリスティー様ならそうするだろうと思っていました。ではまず、私から話しをお聞きするのはいかがですか?」

「雨竜様のですか?」


 一番最初のアレスの死に関して、明確なアリバイのある雨竜のことは最初から疑ってはいないのだが。


 散歩を期待する子犬のように。

 頷いた雨竜にクリスティアは不思議そうに小首を傾げる。

 雨竜としては自分の尋問をさっさと終わらせて、こののちの事件調査に自分を連れて行って欲しいのだ。

 ユーリに邪魔をされる前に。


「では今回、主に捜査をなさる探偵をご一緒させてもよろしいでしょうか?」

「探偵?」

「えぇ、どうぞ。隠れていないでお入りになられて」


 どちらにせよ事件の時になにか気になることがなかったか、聞きたかったのでいいかと。

 雨竜の意図はくみ取れずに、ルーシーからの耳打ちを受けて微笑みを浮かべたクリスティアは、扉の方向へと視線を向けて声を掛ける。


 探偵とはクリスティアではないのか?

 疑問を抱えたままその視線を追うように、雨竜が後ろを振り返れば、開かれた扉の横からバツが悪そうに、アリアドネが顔を覗かせる。

 その後ろからは詠美が、堂々と姿を現す。

 今、アリアドネは詠美付きのメイドとして彼女と行動を共にしていた。


「なんで私がここに居るって分かったの?」

「あら、わたくしのルーシーが優秀なのはご存じでしょう?」


 クリスティアの後ろに控えているルーシーが、アリアドネの愚かな行いを鼻で笑うように息を吐いて見下すように顎を上げる。

 アリアドネは気付いていなかったが、隠れるようにしてこちらを覗き見ていたときに、焦げ茶色のその髪の毛が揺れるように見え隠れしていたのだ。


 自分のうっかりで見付かったとは思わず。

 壁を透視する能力を持っていると言われても信じてしまう超人侍女にあっさりと見破られてしまい、アリアドネは頬を膨らませる。

 悪巧みで隠れていたわけではない。

 アリアドネはただ、雨竜とクリスティアの間に流れる恋愛要素(フラグ)を楽しみたかっただけだ。


「聖女様にご挨拶申し上げます。黄龍国の雨竜と申します」

「あっ、いえ、そんな堅苦しい挨拶はいりません。クリスティーさんの友達なんですよね?」

「えぇ、親しい友人です。どうぞ、雨竜とお呼びください」


 アリアドネの後ろに立つ詠美を見て、立ち上がった雨竜が頭を垂れる。

 そのかしこまった姿を見て、詠美は焦ったように手を振る。

 外から二人の気安い様子を見ていたので、友人であろうことは十分に理解できた。

 親しいという言葉に強さを込め自己紹介をする雨竜に、詠美は若干の圧力を感じながらも。

 クリスティアには色々と助けてもらっているので、彼女の友人ならばと信用する。


「あのようなことがございましたので。警備の観点から聖女様を一時、青の離宮で保護することにしたのです。そして事件の性質的に、彼女が事件を解決するのが望ましいとも思っております。わたくしは細やかながらそのお手伝いをするつもりです」

「マザー・ジベルがおっしゃっていた黙示録の件ですか?」

「まぁ、ご存じなのですか?」

「ラビュリントス王国に居た頃に、王宮の図書室から聖書を借りてよく読んでいましたから」


 一人寂しく異国の地で過ごさなければならなかった頃、その寂しさを埋めてくれるのではないかと神様という存在に心の拠り所を求めるように読んではみたものの。

 黄龍国は多神教であったせいか、一つの神に縋ることに違和感しかなく。

 結局、雨竜にとっては長い読み物でしかなかった。


「そうなのですね。では、友人が第一容疑者として名乗りを上げてくださったので。詠美さん、尋問をいたしましょう」


 入り口近くに立ったままの詠美に向かって、隣の席をポンポンと叩いて示した楽しげなクリスティア。

 詠美はおずおずしながらもそこに座る。

 アリアドネはルーシーの隣に控える。


「では、まずはイーデス大司教が亡くなられた日のことについてお伺いいたしましょう」

「その日はなにをしていましたか?」

「取り立てて特別なことはなにも……兄である皇帝陛下に神聖国へと無事に付いた旨の手紙を送り、あとは散歩を少ししておりました。ふふっ、鐘塔からの見晴らしはいかがでしたかクリスティー様?」

「あら、ご覧になられたのですね。とても美しい景色でしたわ。とはいえ飛び降りたくなるほどではございませんでしたけれど」


 飛び降りられては困る。

 恐れなく鐘塔の屋上から下を覗き込むようにして身を乗り出すクリスティアの姿は、雨竜をハラハラと心配させ。

 その身が引っ込んだときには、心底安堵したのだ。

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