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鐘塔②

「こちらのショートヘアの男性だけ、お会いしたことがないのですが。お名前は?」

「あぁ、それは白の大司教のゼスさんです。大司教の中では一番、気の弱い人ですね」

「そうなのですね。出入りは鍵をお持ちの方達だけだったということですね。皆さんは自由にこちらへと出入りをされていましたか?」

「いえ、この四人は食事の時に順番にここに来ていました。朝はイーデスさん、昼はゼスさん、三時のおやつにアレスさん、晩はアルテさんの順番です。唯一、ジベルさんだけが毎回皆さんと一緒について来ていました。食事の配膳は主にジベルさんがしてて。他の人達は初代聖女とはこういった人だったとか、聖書はこういった内容だとか、そういったことを話していました」


 四人は食事をする詠美の傍らに立ち、熱心にこの世界の宗教観を語り聞かせてきたが。

 うんうんと返事はしていたものの神様なんていう姿の見えない存在に興味はなく、詠美は右から左へと聞き流していたので詳しい内容は全く覚えていない。

 多神教であり、元々信仰心の欠片もない者に宗教の話しをされても、梨の礫である。


「真面目に聞いていないのが分かったのか、ジベルさんが過去は過去であって今とは違うのだから、大司教達の話しは聞き流すくらいが丁度いいですよっと言って笑ってました」


 次になにを描こうか、そのことばかり考えて生返事をしていた詠美を見て。

 ジベルが大司教達に聞こえないようこっそりと囁いていたことを思い出して、フッと笑う。


 修道女というともっと敬虔なのかと思っていたが、そうでもないようだ。

 聖女様、聖女様、と言って詠美になんとか取り入ろうする大司教達のことをジベルはいつだって、邪魔をしてはなりませんと言って追い出してくれていた。

 ジベルとの軽口は詠美の気持ちを随分と、楽にさせていた気がする。


 彼女が毎回付き添ったのは詠美が女性ということで気を遣ったのもあるだろうが、誰かが抜け駆けしないように見張る役目だったのかもしれない。

 ジベルは大司教達より立場は下だがイオンの世話係でもあるので、イオンと直接話せる数少ない修道女であった。

 大司教達は彼女を敬っていた。


「教皇聖下はあまりこちらには来られていないのかしら?」

「全く」


 今日、久し振りにその姿を見たせいか一瞬誰か分からなかったくらいには、詠美はイオンの姿を見ていない。


「それよりもクリスティーさん。時間もないですし、礼儀作法が上手くできているか一度流しで見てもらってもいいですか?アリアドネさんは手を貸して」


 話は一旦置いておいてと詠美が掌を差し出すので、不思議そうな表情を浮かべながらアリアドネはその上に手を重ねる。

 その手を軽く握った詠美はニッコリと笑む。


「本日はこのような機会を与えてくださいましたことを神に変わり、感謝を申し上げます」

「ひゃーー!」


 アリアドネの手を持ち上げて、優雅に深く身を屈めたカーテシー。

 手を握られたアリアドネは照れくさかったのか、変な悲鳴を上げる。


「どうです?合格ですか?」

「ふふっ。えぇ、もちろん満点だわ。手を握り深く身を屈めるのが最敬礼のご挨拶です。教皇聖下の前でなさったらお喜びになり、すっかり騙されることでしょう。わたくし達のように他国から来た者達はあなたに挨拶をする立場だから、挨拶をされたらそれと同じかそれより浅いカーテシーをいたします。男性は軽く頭を下げるだけとなるでしょう」

「はい」

「良いですか。皆様に挨拶をされたときもそうですが、教皇聖下から詠美さんの自己紹介をされるでしょう。その時にも絶対に、あなたからお辞儀をすることのないように気を付けておいてくださいね。真っ直ぐ前を向いて自分が皆より立場が上なのだと示すのです」

「挨拶に縛り(マナー)があって大変だね」

「そうなの、私だったら絶対にぺこぺこしちゃう。日本人の性だよね。面倒でしょ?」


 早々に脱落したアリアドネと、深く頷いた詠美がクスクスと笑い合う。

 共に苦労を分かち合ったお陰か、すっかり仲良くなったようだ。


「会場であなたに無礼な態度を見せる方はそう、居ないと思います。一つ懸念があるとすれば、ペルボレオ王国のレア・ネモイ国王は信仰心が厚くていらっしゃるので、あなたが本物かどうかを怪しむかもしれません」

「まぁ、偽物なので仕方がないかと……どうすればいいですか?」

「そうですわね、アリアドネさんに手伝っていただきましょう」

「私?」


 事件を解決するまでは、詠美は聖女でなければならない。

 自身の指先の治った傷を見てニッコリと笑んだクリスティアに、アリアドネと詠美は不思議そうに顔を見合わせた。

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