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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
リネット・ロレンス殺人事件
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マーク・ガイルズ③

「ちなみにブレイク・ゴールデンという名前はご存じですか?」

「ゴールデンという名ならうちに出入りしている商家の一つがそうです、でもブレイクは知らないな……誰です?」

「ゴールデン家の令息なんですけど」


 ラックがタブレットに映し出したブレイクの写真をマークへと見せる。


「いえ……見覚えはありません。うちに来たことあったとしても対応するのは執事か、両親なので分かりませんね」

「夜会にいたそうなんですけど、お気づきになりませんでしたか?」

「さぁ、色々な人と話す社交の場ですから。もしかしたら言葉を交わしたのかもしれませんけど覚えてないですね」


 肩を竦ませたマークにニールは結構ですと手帳を閉じる。


「他にはなにかありませんか?」

「特には……お役に立てず、すいません」

「そうですか、お時間を割いて頂きありがとうございます。またなにか他に思い出したことがありましたらご連絡をお願いいたします」


 差し出したニールの名刺を受け取ったマークのその腕の袖口に赤く一筋の線が入っているのに気付きクリスティアが声を上げる。


「お怪我をされたのですか?」

「えっ?」


 クリスティアに指を差されてマークも今気付いたというように袖口を見る。


「あぁ、本当だ。気付きませんでした」


 白いシャツに滲んでいる一筋の血の線。

 薄らと浮かぶそれはあまり深い傷ではないのだろう。

 隠すように押さえたマークは取り繕うように微笑む。


「庭に猫が出るのでそいつに引っ掻かれたんでしょう、父に内緒でたまに餌をやってるんですよ」


 困ったものですとウィンクをして戯けてみせるマークにクリスティアは両手を合わせて期待するような声を上げる。


「まぁ、わたくし猫って大好きですのよ。帰りにお庭を拝見させていただいてもよろしいでしょうか?」

「あーー多分、もう居ないと思いますよ。使用人が水を掛けて追い払っていましたから」

「そうなのですね、残念ですわ」


 猫ちゃんっと意気消沈してあまりにも残念がるクリスティアの様子に、王太子殿下の婚約者というのは気位が高くて矜持だけ生きているようないけ好かない性格なのかと思っていたのだが……年相応の天真爛漫な好感の持てる少女の姿にマークは心やすく、ははっと笑う。


「良かったらこちらのテラスへ通じる窓から庭を望んで帰ってください。うちは猫の溜まり場ですからもしかしたら新しい猫に出会えるかもしれませんよ」

「まぁまぁ素敵ですわ、お気遣いありがとうございます。喜んで拝見させていただきますわ」


 テラスへと続く窓はそのまま庭へと続いているらしく立ち上がって窓を開いたマークにクリスティアはソファーに座ったままお礼を告げる。

 ユーリがまず立ち上がり、そして差し出された腕をクリスティアが取り立ち上がる。

 そしてそのままマークによって開かれた窓へと歩み寄る。


「あぁ、今ひとつ。リネット・ロレンスではなくロレンス卿の事件はいつお知りになりまして?」

「夜会で。あなたが卿を連れてくる姿をばっちりと見ましたよ」

「お恥ずかしいですわ。あまりお噂をお立てにならないでくださいませね」

「勿論です」

「ありがとうございます。では失礼いたしますガイルズ様、また近いうちに」


 クリスティアが微笑みそのまま別れを告げて庭へと出る。

 暖かい日差しを受けた眼前に広がるのはよく手入れのされた庭で、テラスはそれを見渡せる最高の位置にあるらしい。


 フッとみたテラスに設置された白い三脚テーブルの上に新聞が置かれている。


 マークがニール達が来る前に見ていたのだろう開かれたままの新聞の見出しを横目に見ながらその近くや、生け垣の隙間など猫が居そうな隙間を探すように期待に胸を膨らませてクリスティアはキョロキョロと見回す。


 もっとあれやこれやとマークに質問を浴びせかけるかと思っていたのに思ってるより大人しいクリスティア。

 大人しいに越したことはないけれどもユーリは嵐の前の静けさのような不気味さを感じる。


 そんな二人の後ろをニールとラックはあれこれと話ながら付いて歩く。

 マークの話の裏付けをする気なのだろう、通信機を使って警察署へと連絡をしたりと忙しげにしている。

 そして馬車の待つ玄関先まであと少しのところ。

 一匹の猫も見付からず残念がるクリスティアの耳にこそこそと囁くような声が聞こえる。


「また死んでたって」

「あぁ、今月入って四匹目だ」


 生け垣と生け垣の間、二人の使用人が隠れるようにして立っている。


「あの愚息にも困ったもんだ、最近特に酷くなったな」

「まったくだ……警察も来てたみたいだから八つ当たりされないよう猫を見付けたら水でもかけて追っ払えよ」

「へーーい」


 一人はスコップを持ち穴の空いた生け垣の地面へと砂を掛けている。

 その穴から覗く白い布へと向けてもう一人の使用人が手を合わせて瞼を閉じる。

 そこになにかを埋めている最中なのは確かなのだろう。


「どうやらお痛をなさるのは子供のようですわね」


 そんな会話を耳に入れながらにっこりと口角を上げたクリスティアに、使用人達の会話が聞こえていなかったらしいユーリは訝しがっていた。

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