表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
592/631

魔法鉱石について②

「では、これは彼の宝石なのですか?魔法石ではなく?」

「えぇ、宝石です。そして兄の宝石を黙って持ち出し、呪いをかけたのは妹さんです」

「妹さんというと……オカルトクラブの」

「そうです、アスター・ファニキア。オカルトクラブの顧問をこっそりと引き受けられたことに、殿下が不満を漏らしておいででしたわエヴァン先生」

「おっと、バレてしまいましたか。司祭だった頃の癖で迷える子羊にはつい、手を差し伸べたくなってしまうのです」

「ふふっ。とはいえクラブの子達はリュカオン様のこととなると暴走しがちのようですから、エヴァン先生が悲惨なる儀式を止めてくださったことを殿下は感謝しておいでですわ。それに、救われた羊も感謝していることでしょう」


 教室が一つ、血塗れにならずに済んだことはエヴァンの功績が大きい。

 なのでクラブに肩入れしていたことをユーリに咎められることはないはずだと笑むクリスティアに、魔学クラブの事故の時のような追及に遭わなくて済むことにエヴァンは安堵したように胸を撫で下ろす。


「しかし、兄から奪った宝石に呪いを掛ける妹とはまた……なにやら深い事情がありそうですね」

「そしてそれをわたくしに探して欲しいだなんて……とても興味深い事情だとは思いませんか先生?」


 確かに大変興味深い。

 クリスティアの言いたいことの意味を理解し、頷いたエヴァンに彼女は微笑む。


「では、お聞きしたいのですが。ファニキア令息はクラブではどういったご様子でしたか?」

「うーーん、そうですね。元々はそれほどやる気を持ってクラブに入ったというわけではなく、友人に紹介されたから覗きにきたという感じだったように思います。貴族の方は卒業後のことを考えると、クラブに入って他の家門の子と交流を広げようとなさる方が多いので、彼はそういったことが目的だったのでしょう。クラブ内のグループを見学と称しては転々としていましたよ」


 本当に魔学クラブの活動に興味を持って、入りたいと切望していたのだとしたら、初等部からクラブに入っていたはずだ。

 高等部のエネスが今更クラブに関心を持ったのは、クラブの内容ではなく交流が目的であることは明らかであった。


 特に急に、跡継ぎとして決まったのだとしたら……今まで関心の無かった交流を広げなければと焦り、クラブを頼ったのかもしれない。

 魔学クラブは所属人数も多かったので、交流が目的であれば丁度良いクラブであるのだから。


「彼がやる気を見せたのは魔法鉱石の研究グループを見学してからだったと思います。魔宝石の提供後は皆さんから一目置かれるようになり、鉱石加工のグループのリーダーを務めるようになりました」


 組んだ腕の手に顎を乗せながら、エヴァンは思い出すように視線を横へと向ける。


「とても積極的にカット方法などを研究されていましたので、最初は便利な装飾品としての価値を見出そうと、意力的に取り組まれているのかと思ったのですが。彼はなんというか……その魔宝石がカットすることによってどういった反応を示すかに、大変興味を持っていたように思います」

「どう反応するのかを?」

「えぇ。実は、提供いただいた魔宝石に関してですが、完全に安全という訳ではないことが分かったのです。なんというか、魔力に敏感で思わぬ不安定さがあったのです」

「不安定さですか?」

「はい。それ自体を魔法道具にすることは問題はなかったのですが、特定の魔法道具と同じ場所で使用するとよくない反応を示したのです。例えば割れて壊れたり、能力が増大し小規模の暴発を引き起こしたりするものもありました。なので結局は魔法鉱石を既存の方法以外でカットするのは危険である、という結論に到ったのです」


 魔宝石の加工実験を行ったのは全てエヴァンで。

 様々に起きた不具合に、やはり魔法鉱石は宝石のようには出来ないのだと、改めて思ったのだ。


「彼は後学のためにと、どのカット方法によってどういった結果になったのか、そういったことを熱心に聞きいてきていました。もしかすると彼は、最初からそれが目的だったかもしれません。悪用の可能性もありますから、実験結果を詳しくお伝えはしなかったのですが……随分と食いさがって聞き出そうとしてきましたよ」


 思わしくない結果だったので、今回の実験をこれ以上、行うことはできませんでした。

 グループの顧問が生徒達にそう伝えれば大抵は納得し、肩を落とすものの諦めてくれるのだが。


 エネスはどのカットにどういった反応があり、どう駄目だったのかを詳しく聞き出そうとしてきていた。

 それは、顧問だけにではなく実際、実験を主導したエヴァンにも聞き出そうとするほどで、どことなく必死さを感じてエヴァンは戸惑った。


「これは恐らくなんですが、その結果の書類を魔法学室に保管していたのですが。それを覗き見た者がいるようなのです」

「まぁ、そうなのですか?」

「魔法学室には様々な魔法関連の道具や書類を保管していますから警備が他より厳重なんです。その一つに、入り口に設置している姿見の鏡には侵入者を録画するという防犯カメラの役割があったのですが、それが割られていたのです。そしてそれ以降、彼が実験結果を聞きに来ることはなくなりました」


 その鏡は魔学クラブで作り出したものであるので、クラブに入っている者ならば誰もがその用途を知っている。

 誰かが侵入したという形跡があり、姿を映す鏡だけが割られていた。

 そしてその後、姿を現すことのなくなった一人の生徒。

 点と線は繋がっていたが、その生徒を有罪とする証拠は見付からなかったので、追及をすることはできなかった。


「事故の件でクラブが無期限の停止処分となったので、結局のところ魔宝石の件はうやむやとなりましたが。彼の実験に対する執着心は少し、違和感を覚えるほどでしたよ」


 それほど自信のある代物だったのかもしれない。

 もしくはそれは、彼にとっては家門へと自らの能力を証明する機会だったのかもしれない。

 期待していない者達を見返すチャンス。

 だからそれほどまでに、結果に必死になったのだろうかとクリスティアは考える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ