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魔法鉱石について①

「お時間をいただきまして、ありがとうございますエヴァン先生」

「いいえ、いいえ。なにか新しい事件にでも関わっているのですか?」


 ラビュリントス学園の一角。

 魔具師であり、教師であるエヴァン・スカーレットの元へと訪れたクリスティアは、差し出された紅茶のカップを受け取ると軽く頭を下げる。


「お二人も、どうぞお座りになられてください。紅茶もいかがですか?」

「あっ、じゃあ……」

「いいえ、私達は結構でございます」

「えっ!?」

「おや、そうですか?」


 入り口で待機するように立つアリアドネとルーシーを気を遣い、エヴァンが空いている席を示す。

 アリアドネは是非ともソファーに座り、紅茶を飲みたかったのだが……ルーシーの拒否によって連帯的に立っているしかなくなり、肩を落としす。

 だがそれはある意味で、アリアドネを救う拒否でもあった。


 エヴァンの入れる紅茶は不味くて飲めたものではないと学園内では有名で、飲んだ者達は一様に保健室送りにされる、恐ろしい毒物のようなものだ。

 それを美味しいと好んで飲むのはクリスティアだけ。


 ルーシーはクリスティアのメイドになりたての頃、そうとは知らずにその紅茶を飲んで、味わったことのない苦しみを味わわされたことがある。

 あまりの不味さに毒物を混ぜられたのだと判断し、地面に片膝を付きながらも咄嗟にエヴァンに短剣を投げつけたルーシー。

 自らが毒に犯されながらも(実際はただの紅茶なのだが)クリスティアを守るためにエヴァンを仕留めようとしたルーシー。

 結局は失敗に終わり、エヴァンの頬を掠めたそれは壁に突き刺ささっただけで、ルーシーは無念の中で意識を失い、情けなくも保健室へと運ばれることとなった。


 クリスティアの護衛メイドとして、なんたる不覚。

 クリスティアが飲んでいたので問題ないと判断した己の浅慮さ。

 ルーシーは全てにおいてクリスティアを崇拝し崇め奉っているがそれ以降、完璧で完全なるクリスティアの味覚に関してだけは、許容出来ないほどの音痴なのだと……悔しくも認めざるを得なかった。


「実はエヴァン先生に、魔学クラブについてお聞きしたいのですけれど」

「いやはや、なにかの尋問ですか?」


 クラブの名を聞いて思わず、両手を上げるエヴァンは事故の件で多くの人達から随分と責められた。

 顧問なのに何故気付かなかったのかとか。

 一体どういう管理体制だったのかとか。

 事故後には色々と詳細を聞かれたりもしたが、エヴァンは魔学クラブの顧問として所属はしていたけれども、どちらかといえば技術の提供や審査側としての役割であり、特定のグループの受け持ちをしていなかったので正直、なにが起きたのか分からないことのほうが多いほどに関わりがなかった。


 なのでただクラブの顧問というだけで、色々と聞いたり責めてくる者達にはエヴァンも戸惑うばかりで、ただ申し訳ないと謝ることしか出来なかった。

 漸く事故の調査とクラブの処分が終わり、落ち着いてきた頃だというのに。

 また新たな問題が浮かび上がってきたのかと金色の瞳を困った様に垂らす。


「ふふっ、尋問ではございませんわ。新しく事件の依頼を受けたのですけれど、どうやら魔学クラブに関係のある方が関わっているようなのです」


 そう言ってクリスティアがルーシーに目配せすると、彼女は机にジュエリーケースを4個並べる。

 そしてその蓋を開く。


「綺麗な宝石達ですね。ですが、君が使うには家格が釣り合わないかと」

「まぁ、エヴァン先生は宝石の審美眼もお持ちなのですね。ですが先生、宝石に輝きがなくとも、わたくしが輝いているのですから問題ございません。価格がなくとも自ずと宝石は輝きますわ」

「ははっ、確かに」


 胸に手を当てて、ニッコリと微笑んだクリスティアの揺るぎない自信。

 宝石以上の輝きを持つクリスティアならばどんな宝石を身に付けようとも、その全ては霞んでしまうのだろう。

 エヴァンは楽しげに笑い、納得したように頷く。


「それにこれはわたくしの宝石ではなく、この中のどれかに呪いがかけられているそうですわ」

「呪い……ですか?」


 赤色のルビーに黄色のトパーズ、紫色のアメジストに緑色のエメラルド。

 どれも呪いがかかっているようには見えない美しい宝石達に、手を伸ばしていたエヴァンは困惑しながらも。

 ルビーの宝石へと躊躇いなく触れ、その宝石を持ち上げる。


「えっと……何故そのような物騒な物をお持ちなのでしょう?」

「実はご依頼いただいた内容が、この宝石の中から呪われた宝石を見付けだすというものなのです。どうですエヴァン先生?呪われている宝石がどれか、お分かりになられますか?」

「そう言われましても……私にはただの宝石にしか見えませんが」


 悪戯っ子のような微笑みを浮かべてエヴァンに問うクリスティアに、自身の目の前まで持ち上げて表と裏を交互に見てみるルビーは、ただのルビーにしか見えない。

 可愛い生徒に問われても、それが呪われているのかいないのかなんてエヴァンには分からないので、更に困惑した様子で苦笑いし、ルビーをジュエリーケースへと戻す。


「見付けて欲しいと依頼をしてきたのが魔学クラブの生徒なのですか?」

「いいえ、依頼人は別です。この宝石の持ち主が魔学クラブの生徒なのです。エネス・ファニキア、ご存じですか?」

「エネス・ファニキア……あぁ、宝石の子ですね。覚えていますよ」


 所属していた人数の多かった魔学クラブだったが、エヴァンは生徒のことを全員覚えていた。

 特にエネスのことはグラブの活動にちなんだ渾名があったので、エヴァンの記憶にも十分に残っていた。


「宝石の子?」

「えぇ、魔学クラブに入ったのは半年ほど前でした。彼は魔法鉱石の提供をしてくれていたのですが、その提供された魔法鉱石の加工に宝石のカット方法を提案してきた子なんです。通常であれば既存のカット方法以外は能力の低下を招くので、魔法鉱石には好まれないのですが。不思議なことに彼が提供してくれた魔法鉱石に関しては能力の低下はなく。一部の方法であればまるで宝石のような加工も出来、アクセサリーのように身に付けられたのです。彼はそれを魔宝石と称していましたよ」

「魔宝石」


 これは自分が見付けた特別な魔法鉱石なのです。

 そういって自慢気にエネスがエヴァンに披露した魔宝石と呼ばれた魔法鉱石。

 これを自分が言うとおりに加工してくださいと願い出てきた彼に、エヴァンは半信半疑で言われた通りの加工を施してみれば事実、能力の低下の無い特別な魔法道具が出来上がりとても驚き、感心したことを覚えている。

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