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マーキスカットのエメラルド③

「ていうかクリスティー公女はそんな話し、信じているんですか?」

「えぇ、勿論。これは遊びではなく、事実なにかの呪いがあるのだと思っておりますわ。それにこれがあなたのお好きな宝石なのだとしたら、アスター嬢は強く呪ったかもしれませんわね」


 クリスティアはそう言うと、机の上のエメラルドのケースをラニアへと向かって押し出す。

 そして視線を、ラニアの胸と腕へと送る。

 そこにはエメラルドのブローチとエメラルドのブレスレットが輝いている。


 この呪われた宝石とは違う、それなりに等級の高い高価な宝石。

 だがクリスティアの知るラニアならば持つことの出来ない宝石の輝きに視線を向けられて、ラニアは不愉快そうに眉間に皺を寄せる。


「ラニアの家は貧乏だから、こんな良い宝石は持てないですもんね。そうです、確かにこれはエネス様から贈られた宝石です。でもラニアは別に、エメラルドが好きってわけじゃないんですよ?愛が成就するようにって願いを込められてエネス様から贈られたんです。ほら、ラニアって可愛くてモテるから」


 悪びれた様子もなく、腕のブレスレットを見せつけるように触れながら、にんまりと笑うラニアは子爵家の令嬢であるので貧乏というわけではないのだが、お金持ちというわけでもない。


 両親は信仰心の強い倹約家であり、弟も然り。

 過度な贅沢を好まず、日々の食事に困らない程度の生活をすることが美徳だと考えており、ラニアにもその生活を強いていた。


 流行の過ぎた衣装を人から貰い、有り難がる両親。

 それを疑問にも思わず身に付ける弟。

 浅ましいと陰口を叩かれ、笑われて。

 好きなドレスや宝石を好きなように買えない生活。

 人より欲が強い質のラニアには合わない生活。


 同年代の子がドレスを新調する度に、どうして自分には新しいドレスの一着も好きに買うことが出来ないのかと、怒りに似た鬱憤は溜まっていった。

 そうして満たされない気持ちはいつしか、ラニアに異性から欲しい物を買い与えて貰う術を身に付けさせていた。


「えぇ、そうね。あなたは可愛くて積極的で。魅了という呪いでも振りまいているかのように、異性を引き寄せますものね。しかも最近は、婚約者のいる男性ばかり」

「ラニアはもう馬鹿じゃないんです。ユーリ殿下にちょっかい出していた頃みたいに、誰彼構わずに媚びを売るのは止めたんです。ラニアね、気付いたんです。満たされない人って他のなにかで満たされたがってるって。特にプライドが高くて政略的な婚約者が優秀な人って、狙い目なんですよ。ラニアを下に見て、心の均衡を保ちたい人達。ラニアはそういった人達のプライドを保たせてあげてるんです。優しいでしょう?」


 ラニアは本当にお馬鹿さんだな。

 ラニアには難しい話しだから分からないだろう?


 自分に集まる平々凡々な異性達にどれだけ馬鹿にされても、ラニアは気にもならない。

 お望み通りに、ラニアには分からないから難しい話しはしないでっと頬を膨らませて愛嬌を振りまいてあげる。

 そうすれば、欲しいドレスや宝石を買い与えて貰えるのだから。

 ギブアンドテイク。

 互いに足りないモノを満たし合っているのだ。


「あなたと結婚するために、婚約破棄を望んでいる方もいらっしゃるとか」

「あはっ、そんなのラニアには関係ないですよ。でもラニアはそういう人とは絶対に結婚はしないって決めてるんです。一生、買い与えられるだけのペットになるだなんて御免だから。だから今回のユーリ殿下の婚約破棄の噂は期待したのに」


 結婚するならば自分のプライドくらい自分で保てる人がいい。

 少なくとも誰かのせいにして、自分の境遇を嘆くことの無い人。

 だからお金も地位も、自尊心も自立心もあるユーリは本当に、完璧な結婚相手。


 なので二人の間に流れた婚約破棄の噂に、チャンスが巡ってきたのだとラニアを含めた令嬢達は色めき立ったのだ。

 結局はただの噂でしかなく、戻ってきたクリスティアによって無残にも狩られることになったのだが。


「では、ファニキア令息のことに責任はないと?」

「エネス様?婚約破棄ってもしかしてエネス様のこと?ふーーん、そうなんだ。言っておきますけど、最初にラニアに近寄ってきたのはエネス様ですからね。ラニアのこと前から好きだったって言って、ルビーのペンダントをくれたんです。ラニアすっごい悩んだんですけど、贈り物をお断りするのは失礼でしょう?」


 ラニアは基本、狙った獲物には自分から近寄るようにしている。

 相手がどういう人物であるのか、ラニアの希望をどれほど叶えてくれるのかをしっかりとリサーチをして、十分満たしてくれる人でなければ相手にしないようにしている。


 散々、相手をさせられて、なにも貰えませんでしたでは意味がない。


 逆に好意を持って近寄ってきた相手は警戒するようにしている。

 そういった相手はラニアが望む物を多く与えてくれるだろうが、好意が強くなって執着されてしまうリスクがあるからだ。

 他の獲物を攻撃して、ラニアを自分一人だけのモノにしようとする。

 そうなると面倒なので、最初から相手にしないようにしている。


 だからエネスの告白に対しても最初は警戒していたのだが……話しをしてみれば、そのリスクを犯してでも彼の持つ宝石商という肩書きは魅力的であった。

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