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マーキスカットのエメラルド①

「というわけで、マリンダ先輩の話しは以上よクリスティー」


 ラビュリントス学園の図書室のいつもの席。

 クリスティアの向かい側に立ち、パーティーで仕入れた情報を意気揚々と披露するアリアドネは褒めてと言わんばかりに、クリスティアへと見えない尻尾を振る。


「ファニキア家のメイドとすっかり仲良くなったのね」

「そうなの!マリンダ先輩すっごく苦労してて!お父さんのアルコール中毒が原因でお母さんが蒸発したらしくて!働いた給料をお父さんに取られるから家には戻れないから、住み込みで働ける所を転々としてるんだって……前に勤めた所の雇い主はセクハラが酷かったから、転職するなら気を付けるように言われたわ」


 あの後、両親に苦労をしている点、貧乏を経験しているという共通点からすっかり意気投合して、お互いの身の上話を語り合ったアリアドネとマリンダ。

 ファニキア家の話しより、そちらの話しのほうが盛り上がってしまい、後ろで聞き耳を立てていたはずのルーシーは呆れたのか、いつの間にかその姿を消していた。


「って違う違う!マリンダ先輩の苦労話を聞かせたいわけじゃないの!ファニキア家よ、ファニキア家!やっぱりあの兄妹は両方とも問題有りなのよ!メイドに塩をぶちまける厨二病の妹に、婚約してから恋人を作る浮気者の兄。全く、設定が盛りだくさんで何処の異世界転生の話しよ。はっ!もしかしてアリッサ様は私達と同じ転生者で、自分が悪役令嬢であることに気付いて、逆にエネス様を断罪しようとしているとか?」


 いやいやいや、まさかそんなはずはない。

 それに悪役令嬢と言えば平民ではなく貴族の令嬢と相場(?)は決まっている。

 それに、こんな話しはアリアドネの糸(メインストーリー)にはなかったわけだし。

 だからエネスはただの浮気くそ野郎でしかないと、一人百面相をしながら納得したアリアドネは、机の上に並べられた呪われているかもしれない宝石候補達を眺めているクリスティアの横顔を見つめる。


 彼女こそがザッ・悪役令嬢。

 正真正銘の悪女。

 私達はいつだって彼女を追いかけていた。

 追いかけて、追いかけて、追いかけ続けて、そして……。

 蓋の閉じられた試験管の中に入っている記憶がゆっくりと揺蕩い、蓋を押すように撫でる感覚に息苦しさを感じながら……はたと気付く。


「そういえば、呪った宝石を探すのになんでファニキア家のことを調べてるの?」

「呪った相手のことを調べればより、呪った宝石を見付けやすくなるでしょう?それにアスター嬢は呪った宝石を探して欲しいのではなくて、既に呪われている宝石を探して欲しいのでしょうから」

「既に呪われた?」


 一体どういうことなのか。

 分からずに小首を傾げたアリアドネに、クリスティアは楽しげに微笑む。

 彼女の灰色の脳細胞は、既になにかを掴んでいるのだ。


「それがどういう意図を持っているのか、一体どういった呪いなのか……今はまだわたくしにも分かりませんけれど。このまま呪われた宝石を探し続ければ、きっと答えは分かることでしょう」

「謎解きは順調に進んでいますか?」


 その時不意に、その存在を気付かせるように声を掛けてきた雨竜が、コンコンと机を軽くノックをする。

 謎解きに夢中で近寄ってきていたことに気付いていなかった緋色の視線。

 その視線が絡まったことに満足してニッコリと微笑み、机の上の宝石の一つであるエメラルドのジュエリーケースを指し示した彼に、クリスティアも口角を上げて向かい側の席を視線で示せば、雨竜は座ることへの許可の下りたその席へと着く。


「えぇ、雨竜様。皆様のご協力のお陰で少しずつですが進んでおりますわ」

「それなら……」

「それ、エネス様から盗んだ宝石なら返してもらってもいいですかクリスティー公女?」


 是非、その推理を聞かせて欲しい。

 そんな風に会話が続くはずだった二人の間に突然、一人の少女が割って入ってくる。


 邪魔をされたことに雨竜が眉間に皺を寄せてそちらへと視線を向ければ、空色のリボンで縛った赤茶色のツインテールを揺らし、両手に腰を当てて挑むようにクリスティアだけを茶色の瞳で見据えている少女。

 全体的なフォルムは小さく、庇護欲を掻き立てるような幼さのある可愛らしい顔立ちで、薄いピンク色に染まる頬はぷっくりと膨らんでおり、怒っていますと可愛らしくアピールしている。


 彼女はクリスティア達が座っている席から少し離れた本棚の間から本を読んでいる振りをして、こちらの様子を窺っていたのだが。

 雨竜の登場を見てから、にんまりと笑みを浮かべて、見ていなかった本を閉じたのをクリスティアは横目で確認していた。

 だからクリスティアは雨竜が近寄っていることに気が付かなかったのだ。

 彼女の狙いを把握すると、懲りない子だと……薄く笑みを浮かべてクリスティアは視線を彼女へと向ける。

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