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ペアシェイプカットのアメジスト④

「今、アスターは初等部一の有名な嘘つきなの。誰もアスターの言うことなんか信じない、家族ですら……信じてない。まさにアスターの思惑通り。後継者からも外されたわ。ほんと、頭の良さを無駄に使ってるんだから」

「お友達のことが心配なのね」

「べ、別に!心配じゃないよ!それに友達じゃないし!ランはただ、責任を感じてるだけだもん!」


 クリスティアへと視線を戻し、むぅっと眉間に皺を寄せる素直でないフランシスに、笑みを浮かべたところで……コンコンとガラスをノックする音が響く。

 見ればユーリがバルコニーへと続く窓枠に身を寄せて立っている。


「随分と楽しそうだな」

「なにしに来たのユーリお兄様!」

「クリスティアが来てると聞いたからな、会いに来た」

「クリスティーお姉様はランに会いに来たの!ユーリお兄様に会いに来たんじゃないわ!女子会なのよ!女子会!」


 だからあっちに行ってとばかりに手を払うフランシスを意に介さず、近寄ったユーリはテーブルに出されたジュエリーケースに手を伸ばす。


「フランシスの鉱山で取れたアメジストか?なんだ、渡すならもっと良い物を渡せばいいじゃないか」

「いいえ、そちらはランのアメジストではなく。わたくしがお預かりしている呪われているかもしれないアメジストですわ」


 直接アメジストに触れようとしていたユーリの手が、呪われていると知りスッと離れる。

 あの例の宝石かと眉間に皺を寄せる様に、フランシスがニヤニヤと笑う。


「ユーリお兄様、怖いんだ」

「得体の知れない物はなんでも怖いものだろう。というかクリスティア、そんな物を王宮に持ち込むんじゃない。城が呪われたらどうするつもりだ」

「皇族は浄化の瞳をお持ちなのですから、問題はございませんでしょう?それにこの王宮が大いなる呪いに覆わるだなんて、それはそれで素敵なことではございませんか」


 紡ぎ車の針を指に刺し、100年の眠りに就いたお姫様のように。

 自分は是非とも呪いを解く王子様になりたいと。

 呪いなど恐れる様子もなく、クリスティアはユーリの手からジュエリーケースを取り上げるとアメジストを持ち上げる。


 城の奥に誰が眠っているのかに興味はなく、どうやって眠りに就いたのか、誰が犯人なのかの推理を始めるであろう王子様の何処が素敵なのかとユーリは呆れる。

 犯人を見つけたことに満足した王子様はお姫様を助け忘れて、更に100年ほど眠り続けることとなるはずだ。


「そう考えるとアスターは呪われちゃったのかもね」

「呪われた?」

「アメジストって人を選ぶ宝石なの。波長が合わないと逆に体調が悪くなっちゃうんだって。アメジストに呪われて、あんな馬鹿なことを始めたのよ」


 はぁ……と深い溜息を吐いたフランシス。

 数えるほどしかいない友人の一人を失いそうなのだ。

 今、その心はすっかり憂鬱に曇っている。

 そんなフランシスを、ユーリは心配そうに見つめる。


「ラン。やはり、あなたの鉱山で取れたアメジストでアクセサリーを作ってくれるかしら?折角だし、あなたか殿下のどちらかとお揃いで作ってくれると嬉しいのだけれど」

「ほんと!?ユーリお兄様とお揃いだなんてテンション上がらないからランとお揃いにしましょう!絶対絶対、身に付けてねクリスティーお姉様!」

「えぇ、勿論よ」


 アメジストをジュエリーボックスに仕舞い、蓋を閉じたクリスティア。

 先程は断られたというのに何故、気が変わったのかは分からないが、お揃いのアクセサリーなんてこれ以上ない広告になると、フランシスは両手を挙げて喜び、どんな形にするかを楽しそうに思案し始める。


 ここ暫くフランシスの攻撃性が高まっていた。

 分かりにくくて、捻くれている表現だがそれはつまりなにかで傷つくことがあったということ。


 暫く見ることの無かったフランシスの本当に嬉しそうな表情に、ユーリは安堵したような微笑みを浮かべる。

 そんな二人を見て、クリスティアも笑みを深めるのだった。

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