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問題のある後継者①

「良い情報を仕入れてきたよ。エネス・ファニキアは悪名轟かせるあの魔学クラブに所属していたみたいだね」


 レイテと入れ違いに入ってきたハリーが、手に持っているタブレットをヒラヒラさせながらクリスティアの前へと差し出す。


「まぁ、調べてくださったのハリー?」

「シャロンに頼まれたからね。ファニキア家が関わることだから絶対になにかあるって怪しんでて。調べてくれたらデートしてくれるっていうから頑張ったんだ」


 受け取り見たタブレットにはアスターとエネスの交友関係や、学園での様子が事細かに調べられている。

 ご丁寧に隠し撮りらしき写真まで。


 うっきうきとご機嫌なハリーは最優先で迅速に、シャロンが考える以上に抜かりなくこの件を調べ尽くしたらしい。


「ですが、魔学クラブに所属していた者は停学処分になったのでは?」

「停学になったのは問題を起こした一部の生徒だけね」

「あのクラブは所属人数が多かったせいか、何個かのグループに分かれてたからな。しかもグループの中でも過激派と穏健派があったりとで……複雑だったんだ」


 だから誰に処分を下すのか下さないのかで、ユーリの調査も随分と難航した。


「エネス・ファニキアが所属していたのは魔法鉱石の加工に関わるグループで、魔法鉱石がどういった加工でどう性質が変わるのかっていうのを調べていたみたいなんだ」

「加工によって?ですがそれは、無駄ではないのですか?」

「能力を最大限に生かすっていう点では無駄ではあるけど。魔法鉱石にもね切れ端っていうのが存在してるんだよ雨竜様。魔法道具に使用されなかった切れ端。その切れ端を加工して、新しい魔法道具を作ろうっていうのが今、王国で研究されてるの。無駄を無くそう的なね。学生の研究テーマには丁度いいだろうし、そういった魔法道具はまぁ、能力が低いわけだから。安い価格で平民にも多く売れるってなわけで期待もされてんの」


 ハリーはそう言うと肩を竦ませる。


「とはいえ学園で実際に、魔法鉱石を加工することは危険だから、理論を組立てているだけみたいだけど。問題がなければスカーレット先生が加工して、試しに魔法道具にしているみたいだよ」

「エヴァン先生が?」

「うん、次のページにほら。魔学クラブの技術的な顧問の一人はスカーレト先生だからね。ま、顧問はあと他に3名ほどいるけど」


 クリスティアが言われたとおりタブレットをスライドさせれば、エヴァンが魔学クラブの顧問の一人に名を連ねていた。

 どうやら何処かのグループを担当しているというわけではなく、魔具師として魔法道具を使った実験をする際に危険がないように監督する役目のようで。


 魔法道具を製作する魔具師としては、魔力を研究する魔学クラブの活動は大変興味深い題材だったのかもしれない。


「ファニキア令息は、グループの中ではリーダーでしたのね」

「そうだね、最近の評判はあんまり良くなかったみたいだけど。彼は魔法鉱石の提供もするくらいに、研究熱心だったらしい。興味があるなら実験がどういったもので結果がどうだったのかは、スカーレット先生に直接聞いてみて」


 流石にそこまで調べるにはもっと時間が必要であったし。

 直接聞く方が又聞きより正確だろうとハリーは判断し、わざわざ調べなかった。


「彼ね、宝石を見る目に関しての才能は無かったみたいだけど、加工やデザインに関しては才能があったみだいだよ。とはいえそれはファニキア家が期待しているものじゃなかったみたいだけどね」


 ファニキア家にとって重要なのは宝石を見ることの出来る眼だけ。

 どれだけ優れたデザインを産み出したとしても、一族にとっては無価値であるようで。

 価値ある能力も認められず蔑まれれば、あのような性格になるのも仕方がないとハリーは憐れむ。


 エネスが作ったという皇女のティアラは本当に、素晴らしい作品であった。

 クリスティアはその能力が認められていないことを残念に思いながら、タブレットをスクロールする。


「まぁ、あなたラニア・ラティウスについても調べてくださったの?」

「勿論。調べるなら徹底しないと」


 スクロールする手を止めたクリスティアが驚いた声を上げる。

 少し遠目からだが、赤茶色のツインテールの髪を揺らす横顔の少女の写真。


 つい先程知ったエネスの恋人だという少女。

 ニヤリと口角を上げたハリーが知っているということは、エネスとラニアの噂は思った以上に広まっているらしい。


「二人に付き合いがあることは同学年の貴族の子なら誰もが知ってることだよ。令息はファニキア家が主催するパーティーには婚約者ではなく、彼女を連れて行ってるからね。相当、惚れ込んでるみたいだ」

「そのことを婚約者は知っているのか?」

「同じパーティー会場にいたこともあるらしいから、知らないってことはないでしょう」

「……酷い男ですね」


 ユーリが眉間に皺を寄せ、雨竜が吐き捨てるように嫌悪を表す。

 ハリーでさえ、婚約者の居る場に恋人を連れて行く心境は分からないと呆れ気味に溜息を吐く。


「ま、でも憐れな男でもあるのよ。ほら」


 クリスティアの持っているタブレットを横から操作したハリーが指差す先、そこにはラニアの広い交友関係が書かれている。

 その誰もが地位や、お金のある貴族や商人の男性の名前だ。


「ここに書かれているのは全員、彼女のスポンサーであり恋人だと名乗っている男達だ」

「恋人ではないんですか?」

「エルくん。ハーレムを築くつもりがないのならば、彼らは恋人ではないということだ。それにラティウス嬢は新しいスポンサーには必ず、恋人はいないって言っているからね。候補者はいるとは言ってるみたいだけど」


 彼らはミツバチだ。

 女王に気に入られなければ巣から追い出されるミツバチ。

 捨てられないように他のオスと競い、贈り物を捧げて価値を示すしかない憐れな男達に、そうまでして縋り付きたいほどの価値がラニアにあるのかとエルがどん引きした顔をして、資料に並べられた男達の名を見つめる。

 この名の者達とは絶対に関わり合いを持つまいと、目に焼き付ける。

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