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オカルトクラブ④

「む……申し訳ない。リュカオン様を魔獣と言われついカッとなってしまった」

「いえ、私も口が過ぎました」

「信仰とは時が過ぎれば過ぎた分だけ変わっていくものですわ。ではクラブの方が直接、リュカオン様からの啓示を受け取るなんてことはあり得ないのですね?」

「勿論です」

「リュカオン様からお力を授かるなんてことは?」

「聖女でないのならば、あり得ぬ」


 なにを聞きだしたいのか分からない。

 レイテは眉間に皺を寄せて、クリスティアをじっと見つめる。


 リュカオンの話しに興奮して忘れていたが……そういえば、どうしてここに呼び出されたのか理由も定かではない。

 オカルトクラブのことを知りたいなどというのは建前だと、レイテでも分かっている。


「でしたらアスター嬢がリュカオン様の名を騙り、魔眼を授かったと吹聴していることは、事実ではないと?」

「偽りですぞ!何故、我を此処に呼んだのかと思っていたらアスター氏の魔眼の件か!アスター氏は自らの揉め事をリュカオン様の名を使って収めようとしておるだけなのです!騙されてはなりませぬぞ!」


 アスターの名を聞いた瞬間、瞼を見開き、眉尻を上げたレイテは声を荒げる。


「身分が高い者に認めてもらい、話しを広めようとしているだな!リュカオン様の御名を使うことを改めるようにと説得したというのに!アスター氏は我らの話に聞く耳を持たなかったので、休部してもらっております!なにを語ったのかは知りませぬが、彼女と我らの部は今やなんの関係もない!」


 リュカオンの力は崇高なるもの。

 魔眼などという、まるで呪いであるかのような力の噂を広めて貶めようとするのは止めよとレイテは再三、忠告したというのに。


 退部ではなく休部の措置を取ったのはレイテの温情だったのだが、クリスティア達まで巻き込んで更に噂を広めようとしているとは。

 嘘、偽りを流布することはオカルトクラブの信条とは異なる。

 可愛がっていた後輩に裏切られた気持ちになり、レイテは怒りに身を震わせる。


「自らの揉め事とはなんのことかしら?レイテ嬢はなにかご事情をご存じなの?実はわたくしも、アスター嬢が魔眼を使って呪いをかけているというのには懐疑的で。揉め事を抱えていらっしゃるのならば、その助けになれたらと思っているのだけれど……」

「それは……!」


 それは実に私的なことだ。

 怒りで口を開きそうだったレイテだったが、人様の事情を軽々しく口にすべきではないと即座に理性が働き、口を閉ざす。


「レイテ譲。わたくしがアスター嬢の問題を解決できれば、リュカオン様のためにもなるでしょう」

「う、うむ。しかし、我も詳しくは知らぬのであって」

「えぇ、構いませんわ。ご存じのことだけお教えください」

「うーーむ。あの実は今、アスター氏のご実家は少々揉めておるらしいのです」

「まぁ、そうなの?」


 優しい言葉を掛けられて少し考える素振りを見せたレイテは、それがアスターのため、そしてリュカオンのためになるのならばと頷くと重い口を開く。


「後継者であるアスター氏の兄が婚約者のいる身でありながら、同学年に恋人がおるのです。見てくれだけの性悪女に騙されて、どうにか婚約を破棄しようと躍起になっておるそうなのです。アスター氏はそれに酷く怒っておりまして……兄を呪ってやりたいとクラブの者に言っておりました。恐らくそういったことから皆を巻き込み。呪いに真実味を持たせ、兄を怖がらせて、恋人と別れさせたいのでしょう」

「レイテ嬢は、恋人が何方かご存じなのかしら?」


 一瞬、言うべきか悩むように口を閉じるレイテだったが。

 高等部では誰もが知っていることなので、どうせすぐに知られることだろうと溜息を吐くようにその名を告げる。


「ラニア・ラティウスという子爵家の令嬢です」


 それならばクリスティアも知っている名であった。

 ユーリにも心当たりのある名であったので、少し嫌な顔をする。


「そうなのですね、どうもありがとうございますレイテ嬢。オカルトクラブの活動にはとても興味がございますので、いずれお邪魔させていただきますわ」

「うむ。我がクラブの活動場所は日によって変わるゆえ、居場所はスカーレット先生に聞くとよい。それと、もしアスター氏にその茶番を終わらせるつもりがあるのならば、クラブに戻ってきてもよいとお伝えくだされ」

「えぇ。レイテ嬢が心配なされていたと、お伝えいたしますわ」

「し、心配などしておりませぬ!リュカオン様の配下が減るのが嫌なだけですぞ!ではもう用件がないのであればこれで失礼する!」


 オカルトクラブの地位を引き上げるために、アスターが一芝居打っている可能性もあるかと思ったのだが。

 レイテとアスターが反目し合っているのならば、そういうわけではなさそうだ。


 声を荒げ去って行くレイテの後ろ姿を見送り、ユーリが真っ先に溜息を吐く。


「ラニア・ラティウスとはまた……ファニキア家の令息は面倒な者に捕まったのだな」

「えぇ、そうですわね」

「宝石もですが、人を見る眼もないみたいですね」

「問題のある人なんですか?」


 ユーリとクリスティア、そしてエルにまで面倒な相手だと認識されているらしい令嬢。

 雨竜だけがその実態を知らないので小首を傾げる。


「わたくし達が学園に入学した頃に、殿下へと積極的にアプローチをなされていたご令嬢ですわ」

「君が家出をしたときにも懲りもせずにな」

「節操が無いんで、僕にも擦り寄ってきたことがありますよ」

「まぁ、そうなのエル?大丈夫だった?」

「問題ありません。二度と僕に近寄って来ないようにとよく、言い聞かせましたから」

「なら安心だわ」

「……随分と向こう見ずなご令嬢なのですね」


 それがどんな言い聞かせであるのか、誰も分からないが、きっと耳を塞ぎたくなるようなものだったはずだ。

 現にラニアがエルに近寄ることはそれ以降なかった。


 ゲンナリするユーリを見るにその付きまといは激しいものだったのだと推測した雨竜は、同じく地位ある者として苦笑いし、同情するのだった。

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