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オカルトクラブ③

「しかしながらこの度!我らがオカルトクラブは、リュカオン様の片鱗を感じる出来事と遭遇することが出来たのです!魔法学室の姿見の噂はご存じか?」

「いいえ、存じ上げませんわ」


 頭を左右に振るクリスティアに、レイテは嘆かわしい顔を向ける。


「深夜にその姿見を見た者は、鏡に映るもう一人の自分と入れ替わるといわれておるのです。我らはそれはリュカオン様が人の世を観察するために、仮の姿を求めて鏡に映った者と入れ替わっておると推測しておるのです!」

「待て。つい数日前にその姿見が割られていたという報告があったのだが……まさか」

「誤解だ!我らが夜中に魔法学室を覗き見た時には既に割られていたのだ!恐らく我らより先にリュカオン様に選ばれた依り代がおるのだろう!是が非に我が身を依り代に選んでいただきたいと思っておったというのに、口惜しいことだ!」

「夜に学園に忍び込んだのか?」

「あっ!忍び込んだというか、潜んでいたというか……スカーレット先生から良い隠れ場所を提供していただいて。我らとて一度でも見付かったら止めようと思っていたのだが」

「一度でもということは、何度も潜んでいるのか?」

「いや、その。他の色々な噂の調査もせねばならぬし……そ、それよりも!敷地内に潜んでおれば簡単に中に侵入できてしまうという警備体勢をもう少し見直す必要があるのではないか!」


 ユーリの咎める眼差しを受け、視線を泳がせるレイテは弁明するように進言する。

 確かに最もな意見ではあるが、盗人猛々しいというか……。

 言われなくても今後はこの学園を蟻の一匹も侵入出来ないほどの堅固な要塞にしてやると、ユーリは腹立たしい気持ちと共に固く誓う。


「殿下、疑わしきは罰せずです。それにリュカオン様がこの世へと参るための出入り口となる鏡を彼女達が割ることはないでしょう」

「そう!そうなのです!鏡が割れたことは重大なる悲劇でもあるのです!リュカオン様は自らの世界にお戻りになることが出来ず、困っておるはずなのです!一体誰と成り代わったのか、調査をせねばっ!」


 クリスティアがレイテの無実を訴えるようにユーリの腕へと手を触れれば、それに便乗してレイテはそうだそうだと言わんばかりに必死に頷く。

 鏡が割れたのはリュカオンのせいでもなんでもなく、物体として犯人がいるはずなのだが。

 腕に触れた手の温もりに、ユーリは溜息と共に罪を追求する口を閉ざすしかない。


「……そのようだな。で?結局のところ、リュカオンの片鱗は感じられたとして、そなた達は何一つとして七不思議とやらの解明はしていないように思うのだが。なんらかの成果はあるのか?」

「馬鹿にしないでいただきたい!リュカオン様のお力を感じることのない噂は嘘、偽りであるということ!そういった偽りの事象の一部を我らは解明しておるのです!よく聞くがよい!放課後の人気のない音楽室からメロディーと共に鳴り響く不気味な声!その正体はあの悪名高き魔学クラブの仕業であったのだ!我らの調査結果をスカーレット先生にご報告したのだが、ご存じないか!?」

「……そういえば、そのような報告があったな」


 まるで鬼の首を取ったかのように声を張り上げるレイテ。

 魔学クラブは所属人数が多い分、他のクラブからあまりよく見られていなかった部分もあり、事故を起こした際には、各方面からここぞとばかりにクラブについての様々な悪い報告がユーリの元へと集まっていた。

 その中の一つに、魔法鉱石の欠片を用いた実験を音楽室で行っていたという報告があったのだ。


 なんというか感情表現豊かに書かれた報告書は随分と見難かったが、端的に言えば魔法鉱石を本来とは別の方法で加工する実験を密かに行っていたというもので。

 危険を伴うその実験は、時には小規模な爆発を伴っており、その音を誤魔化すためにメロディーを流し、微かに聞こえる爆発音が不気味な声として広まっていたのだという。


 それは魔法鉱石の取り扱いの雑さが露呈された報告でもあったのだが、その情報があろうとなかろうと事故の重大さからクラブは停止処分を下すつもりだったので。

 ユーリは魔法鉱石の管理を徹底するようにと指示を出したことを思い出す。


 どうだ見てみろと言わんばかりに胸を張るレイテ。

 解決している事象があるのであれば、しっかり調査はしていることにユーリは多少なりとも見直す。

 まぁ見直したからとて、正規のクラブにするつもりはないが。


「皆が不安に思っていることを調べ、解明するだなんてとても素晴らしい活動なのですね。偽物を暴くなど、リュカオン様もきっとお喜びになられていることでしょう。もしかするとレイテ嬢の前にそのお姿を現されているのではなくて?」

「我のような一配下の前にそのお姿を現すなどと恐れ多い。リュカオン様は自由で、気高く、何者にも屈しない壮麗なるオオカミ!その毛をモフりたい!じゃなくて!我らの活動はあくまでも、噂のある超自然的な事象にリュカオン様との結びつきがあるのかを調査し、その片鱗を感じることのみ!第一、リュカオン様と交信出来るのは聖女のみであるぞ!我ら凡人には到底無理なことなのだ!」

「でしたらリュカオン様がそのお声やお姿を、クラブの方々に直接お見せすることはないですか?」

「勿論だ!聖女でもあるまいし!王国では聖女信仰が根強いが、我らにとってはリュカオン様こそが真なる神!聖女はあくまでリュカオン様がこの世で力を振るうための媒体に過ぎぬがな!」


 そう言われるとなんだか寄生虫みたいで嫌だな。

 その聖女であるアリアドネは思わず自分の掌を見つめて微妙な顔をする。


「黄龍国では聖女信仰はそれほど根強くないのですが。その中で、リュカオンとは魔獣であると記されています。やはりこちらの聖女信仰とは少し違う形で伝わっているようですね」

「なんたること!だからそなたの国の者達は容姿を黒く染められたのだ!黒とは穢れの色!リュカオン様を貶めた罰をいまだに受けているのだ!」

「レイテ嬢」


 黒い色を忌避する傾向が強いラビュリントス王国。

 雨竜は特に傷ついてはいないのだが、レイテの心ない言葉にクリスティアが咎めるような声でその名を呼ぶ。


 口角を上げているが笑んでいない視線。

 雨竜がこの場に居るということは彼女の友人であるということ、その無礼を分かっているのか。

 問うようなその視線を受け、うっと息を詰まらせたレイテは叱られた子供のように眉尻を下げる。

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