オカルトクラブ②
「まぁ、ごめんなさいレイテ嬢。停止処分となった魔学クラブの事故のことがありますので、殿下は神経質になっているのです。クラブの顧問はエヴァン先生がお務めになられているのですか?」
「う、うむ。顧問……というわけではないのだが。スカーレット先生は我らの話しを真剣に聞いてくださる数少ない良き教師なのです。悪しき魔学クラブの顧問であることが惜しまれます」
顧問は言い過ぎた。
エヴァンはあくまでオカルトクラブの活動を応援し、融通を利かせてくれているだけ。
いい加減なことを言って迷惑はかけたくない気持ちが勝ったらしく、レイテはもごもごと口籠もりながら弁明をする。
「エヴァン先生はきっと皆様を心配して、手助けをしてくださっているのですね?」
「そうなのです!この間も空き教室でリュカオン様の配下となるべく契約の儀を執り行おうとしたのですが。リュカオン様はそのようなことを望んでいないと、そのお声を我らにお聞かせくださったのです!我らは感動し、そのお声にひれ伏し、儀式を中止したのです!」
「……君達が考えていた契約の儀とは?」
「床に生け贄の羊の血で契約の証を書くというものです!」
レイテにキラキラと輝く眼差しで見つめられて、ユーリの頭が痛くなる。
純粋な信仰心ほど恐ろしいものはない。
エヴァンが止めなければ、次の日に登校してきた生徒達が血だらけの教室を見て、悲鳴を上げていたことだろう。
どうやってリュカオンの声を聞かせたのか分からないが、どうやらエヴァンがオカルトクラブの暴走を止めているらしいことをこの場にいる全員が悟る。
「あの、宜しいですか?あなたがここでユーリ殿下に良い印象を与えれば、正規のクラブになれるかもしれませんよ?そうなれば予算の割り当てもあるでしょうし……皆さんの活動もしやすくなるのではないのでしょうか?」
対立してもクラブにとって良いことはない。
ならば友好関係を築くべきだと示す雨竜に、クリスティア達に不信感を抱いていたレイテの瞳がキラキラと輝く。
「コホン。そ、そうであればリュカオン様もご満足いただけるであろう。先程は興奮して我も言い過ぎてしまった、申し訳ない。して、我らがクラブのなにを聞きたいのであろうか?」
確かに雨竜の言うことには一理ある。
オカルトクラブを正規のクラブに引き上げられれば、活動の幅を広げられるのだ。
今まで指をくわえて見ているだけしか出来なかった高額の調査用機材が買え、念願の部室を与えられる。
クラブの認知度が増えれば部員も増えるかもしれない。
日陰に住まう我らクラブが日の目を見る姿を想像したレイテはニヤけると、頷くように咳払いをする。
想像するのは勝手だが、ユーリはこんな怪しげなクラブを認めるつもりは毛頭無いが。
「オカルトクラブは一体なにをするクラブなのでしょうか?」
「リュカオン様の力の片鱗を探すために、学園内外で起きている超自然的な事象を調べておるのです!学園内ではもっぱら、七不思議の調査をしております!生徒達が恐れる事象を解き明かし、それがリュカオン様のお力であるのか判断する!嘆かわしいことに偽の噂もあるものですから。我らオカルトクラブの調査は恐怖に慄くこの学園に平穏をもたらすものなのです!そしていずれ!リュカオン様のそのお力を示せたとき!我がオカルトクラブはこの学園に君臨するのです!」
「まぁ!」
わははははっ!と両手を腰に当てて豪快に笑い、自身に酔いしれるレイテ。
冷めた眼差しのユーリー、雨竜、エル。
アリアドネは前世でもあった学校の怪談と似た話に懐かしさを覚え、少し興味をそそられているよう。
そしてクリスティアは、興味深そうに両手を合わせて微笑みを深くする。
「とても素晴らしい活動だと思います。不勉強で申し訳ないのですが、わたくし学園の七不思議というものを存じ上げないのですけれど。一体どのような不思議があるのでしょうか?」
「我らが特に力を入れて調査をしておるのが、初等部のトイレに出没するレディ・フラワーという幽霊の話しです!放課後に扉を三回ノックして、遊びましょうと声をかけるとトイレの中に引きずり込まれるのです!我らはそこがリュカオン様の住まう世界への道しるべであると確信し、どうにか我らを引きずり込んでくれないかと何度もチャレンジをしておるのですが、今だ叶わず!フラワーは恥ずかしがり屋なのです!」
随分と物騒な道しるべである。
活動に興味を持たれて嬉しいのか、レイテは興奮したように、自らが行っていた活動を饒舌に語り始める。




