オカルトクラブ①
フランとロバートが退出して入れ替わるようにして入ってきたのは、ユーリと雨竜そしてエルであった。
お腹が鳴りはしていないが、昼食の時間である。
サロンでの賑やかな昼食を終え、まず最初に口を開いたのはエルであった。
「やはり今も変わった子として有名人でしたよ、アスター・ファニキア」
早速アスターのことを調べてくれたらしいエルが、食後の紅茶を飲みながら語る。
「そうなの?」
「えぇ、今は輪を掛けて。どうやらオカルトクラブに所属しているようです」
「オカルトクラブ?」
「そんなクラブあっただろうか?」
小首を傾げるクリスティアと、聞き覚えのないクラブ名にユーリが訝しむ。
「正規のクラブではなく勝手に集まって、空き教室で集会を開いているそうです。とはいえ部員はファニキア令嬢を含めた5名だけで、そのどれもが変わり者として有名です。部長と名乗っているのは高等部のレイテ・デラオノスという子爵家の令嬢です。ご存じですか?」
「デラオノス家は聞いたことはあるけれど……ご令嬢はいらっしゃったかしら?」
「年上ですし、社交も全くしていないようですからね。幸いにもうちのクラスにオカルトクラブに所属している者が一人居ましたので、義姉さんが話しを聞きたいかと思い脅し……お願いをしてその人経由で呼び出してもらってます」
絶対、脅してるじゃん。
昼食後に扉の入り口で待機して話しを聞いていたアリアドネは、エルの隠しきれていない事実にどん引く。
丁度そのとき、コンコンと扉がノックされる音が響く。
ナイスタイミングだと自慢気に胸を張るエルに、クリスティアが感嘆する。
脅されて、差し出された子羊が来たのだ。
「まぁエル。あなたってばなんて気が利くのかしら。ありがとう」
「いいえ、義姉さんの為ですから。どうぞ入ってください」
クリスティアに褒められて、ユーリと雨竜を自慢気に見たエルはご機嫌に声を弾ませて扉に向かって声を上げる。
扉の先の子羊を憐れに思いながらアリアドネがその扉を開けば、意を決したように一つ深呼吸をした少女が入ってくる。
白色のリボンを編み込むように一つ結びにした明るい茶色の髪が頭上で跳ね、前髪が簾のように目元まで下り、表情を覆っている。
俯き加減というか、ほぼ地面しか見ていない前屈みの少女は、ソファーの背を視界の端に捕らえると、ぶつかる前にピタリと立ち止まる。
制服にはじゃらじゃらと、よく分からない文字の書かれたお札のブローチが身につけられ、首からは虹色に輝く親指大のネックレスがぶら下がっている。
「下級生如きが我を呼び出すとは一体何用ぞ!ひゃわぁーー!」
随分と尊大な態度である。
勢いよく上げた視線の先で、力強くも怯えを宿した白銀の瞳が揺れる前髪から覗いた瞬間、奇っ怪な悲鳴が上がる。
レイテの眼前に広がるのは思っていたのとは違う光景。
てっきり呼び出してきたエルだけが、この場に居るのだと思っていたというのに。
クリスティアとユーリという普段目にすることのない高貴なる面々との覚悟のない対面に圧倒されて、後退りしたレイテは思わず逃げようと後ろを振り返る……が、そこにはアリアドネが立っており、(アリアドネにそんなつもりはなかったのだが)退路を塞がれたのだと絶望する。
「わわわ、我はあの偉大なるリュカオン様の配下であるぞ!手出ししようものならば大いなる不幸が降りかかるのだからな!心せよ!」
逃げられない状況に動揺し、失礼だと分かっているのにクリスティア達に向かって指を差すと震える大声での突然の警告。
大混乱である。
自分がなにを言っているのか分からないのだろう。
クリスティア達も彼女がなにを言っているのか分からない。
だがその中でアリアドネだけは、此処にも厨二病の犠牲者がいるのだと悲しげに、というか苦しげに胸の前で腕を押さえている。
「このような場に突然、呼び出してしまって驚いたことでしょうレイテ嬢。どうぞわたくしのことは親しくクリスティーとお呼びになってね。今日はあなたに、オカルトクラブについてお聞きしたいと思っているのだけれど」
「は、廃部にせよというご下命か!?」
レイテにとってクラブ以外の者、特に自分とは相反する者達(所謂陽キャ)の言葉は全てが攻撃に感じるらしい。
威嚇するように毛を逆立てるレイテに、ユーリが呆れる。
「元々認められたクラブではないのだから、廃部もなにもないだろう。それともなにか廃部になるような怪しい行いでもしているのか?」
「しておりませぬ!我らは至って健全に超自然的な現象の調査をしておるのです!」
「健全?教室を勝手に使っているようだが。なにか怪しい品物を売ったりはしていないだろうな?」
「なにも売っておりませぬ!空き教室を使用する許可も顧問を勤めてくださっているエヴァン・スカーレト先生に得ております!我がクラブを馬鹿にするようであれば、お話しすことはなにもありませんぞ!」
レイテが動くたびに鬱陶しい音を立てて揺れる服に身に付けられた謎の品物を、じろりとユーリは見る。
把握していない謎のクラブにユーリが健全さを見いだせないのは、レイテの身を飾る占い師のようなそれらの奇抜な装飾品が、彼女の怪しさを醸し出しているせいか。
人を不安にさせて効きもしない品物を売るのは占い師の常套手段だ。
だが万人に疑われるような装いであったとしても、活動は清廉潔白であるので。
レイテは心外だと憤る。




