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オーバルカットのトパーズ②

「ロバート様?」

「宝石に混ざった魔法鉱石は危険だと聞いたことがある!」


 頭上へとケースを持ち上げて、フランから距離を取るように壁へと向かうロバート。

 そしてその身を丸めるようにして、ケースを胸へと抱き締める。

 爆発でも起きたら一番に被害に遭うであろうその体勢に、困ったように眉尻を下げるフランと、対称的にクリスティアは可笑しそうに口角を上げる。


「あの、ロバート様。トパーズの魔法鉱石は……」

「まぁ、ロバート様ったら。宝石と混ざり合う魔法鉱石が危険だと、どうしてご存じなのでしょう?」

「魔法鉱石について調べたんだ!ローウェン家は魔法道具を扱う家系なのだから、調べて当然だろう!」

「フランさんの為に勉強をなさっているのですね?」

「当たり前だ!フランに釣り合う男になるべく俺だって努力をしているんだ!」


 剣術を磨くだけでは足りない、知識も磨いてフランに相応しい男にならなければ!

 出会った頃よりかは気を許してもらってはいるが、それはあくまで友人としてでしかない。

 ロバートの目標はフランとの婚約、そして先々には結婚。

 彼女に選ばれる男になるのだと、真っ直ぐに声高々に宣言したロバートがフランを見れば、彼女は恥ずかげに俯き頬を押さえている。


 その姿にハッとする。

 自分は今、なにを言っているのか。

 なにを言わされたのか。


 小賢しくもこの事態を誘導したクリスティアを見ればニコニコと微笑ましげな笑みを浮かべているので、ロバートは文句を言おうと口を開くが。

 己の口から出た言葉は全て事実ではあるので、なにも言うことは出来ず、すぐに閉じる。


「あの、そちらのトパーズと混じり合った魔法鉱石は安全ですわロバート様」


 淡く赤く頬を染めて、大丈夫だと伝えるフランに、言葉を失したロバートは己が爆発でもしそうなほどに顔を真っ赤にして、ジュエリーケースを机の上に戻すとそろそろとフランの隣へと座る。

 少し開いた距離間に、二人の間で気まずい雰囲気が流れる。

 それを変えるように、フランが少しだけ上擦った声を上げる。


「あの、トパーズはとても特殊な宝石で魔鉱山で多く産出される宝石となります。なので我が家での取り扱いが多いのです」

「宝石鉱山で産出された魔法鉱石は危険だとお伺いしたのですが、魔鉱山で産出されたトパーズは危険ではないのですか?」

「えぇ、トパーズに関しては魔法鉱石を吸収する性質があるのです。本来、無色透明なトパーズがこのように色付くのは魔法鉱石を吸収したからなんです。混じり合った二つの鉱物は不思議なことに魔力に対しての反応が無くなり、宝石となるのです」


 なので魔力を注いでも問題ないと、フランが試しにトパーズへと手を掲げ魔力を注いでみるが、特別な反応はない。

 ハラハラとその状況を見ていたロバートは自分の知識不足に肩を落とす。

 もっと勉強をしなければと。


「宝石にも色々とありますのね」

「そうですね。お父様が常々、魔法鉱石も宝石のように加工できれば良いのにと頭を悩ませております。見た目は宝石と変わりないですから、美しく加工出来れば装飾の幅が広がるのにと」


 宝石より輝きは劣るとしても。

 色とりどりの魔法鉱石も宝石と同じように扱えれば、もっともっと色々な物を作れそうなのにと、職人気質なフランの父はいつだって残念がっているのだ。


「魔法鉱石は装飾品には不向きだと聞いたことがあります」

「はい。既存の方法以外で加工するとその鉱石の能力の低下を招きますから、魔法道具としての利用が難しくなってしまうのです。宝石としての価値もなく、魔法鉱石としての価値もなくなれば、それは路傍の石と変わりありませんから。とはいえ今、一部ではその能力の低下を逆手に取ろうという研究もあるそうですが……あまり良い結果にはなっていないようです。ですので結局は宝石は宝石、魔法鉱石は魔法鉱石で互いを領分を侵さずにいられるのです」


 対立して争うよりかは距離を保っていられるほうが平和的だ。

 実にフランらしい争いを避ける優しさに、ロバートも強く頷く。


「では、フランさんがもしこの宝石に呪いをかけるのだとしたら。どういった呪いをおかけになりますか?」

「呪い……ですか?」

「馬鹿馬鹿しい」


 なんてことを聞くのだ。

 淑女の鏡であるフランが他者に呪いをかけるだなんて……考えられんとロバートが鼻で笑う。

 だが当のフランは考えるように、視線をそのトパーズへと向ける。


「トパーズは希望や誠実というように、未来の輝かしさや人との関係性を表している宝石です。ですので私でしたら、呪いたい相手の信頼が全て裏切られるようにと願います。それによってその方はきっと誠実さを失い、未来への輝きを失くすでしょうから」

「まぁ」

「フ、フラン……」


 思っている以上にしっかりと、恐ろしい答えを告げるフランに、ロバートは頬を引き攣らせて分かりやすく動揺する。

 だがその考えたのもまた、フランの一部なのだ。

 どんな彼女でも受け入れると手を握り締めたロバートは、空気を吸い込むとゴクリと飲み込む。


 と同時にお腹が鳴る。

 その音に慌ててお腹を押さえるロバートに、フランとクリスティアは微笑む。


「殿下も後程参りますが、このまま昼食をご一緒にいかがですか?」

「いえ、その……」

「俺達はいい。天気が良いからな、食堂のテラスで共に昼食を取る約束をしているんだ」

「まぁ、そうなのですね。でしたらお時間を頂戴してしまったお詫びに、香りの良い茶葉をお贈りいたします。食後にお楽しみください。ルーシー、手配をしてさしあげて」

「畏まりました」

「ありがとうございますクリスティー様」


 二人きりの昼食に、ふんっと勝ち誇ったように立ち上がるロバートの差し出された手を、フランも恥ずかしげに頷いて取る。

 そんな二人の邪魔をするつもりはなく。

 すっかりぎこちなさのなくなったエスコートを受けて去る二人を、クリスティアは見送った。

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