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オーバルカットのトパーズ①

「お前が呪われているという話しが生徒達の間で噂になっているが……事実なのか?」


 お昼休みに入ってすぐの学園内のサロン。

 クリスティアの向かい側に座り、切れ長の水色の瞳を更に鋭く尖らせて、威嚇するような視線を彼女に向けているのはロバート・アスノット。


「まぁ、ロバート様ったら呪いなど本当にあると信じておりますの?意外と可愛らしいところがございますのね」

「信じているわけないだろう!ただ万が一、小指の爪の欠片程度だとしても!フランになにかあってはいけないと心配なだけだ!」

「ロ、ロバート様」


 そんな非現実なことを騎士のロバートが信じているだなんて。

 からかうようなクリスティアの態度に。茶色のオールバックの髪の毛を逆立ててますますロバートは彼女を威嚇する。


 そんな彼の隣に座り、橙色の瞳を困ったように下げて自分を引き合いに出されて少し恥ずかしそうにしながら、両手を胸まで上げてロバートを落ち着かせようとしているのは、肩までのクリーム色の髪に花のカチューシャを身に付けた、友人のフラン・ローウェン。


 クリスティアは昼食前にこのサロンへとフラン一人だけを呼び出したのであって、ロバートは呼んでいない。

 彼はフランが心配で勝手に付いてきただけ、なのに偉そうである。


 シャロンのときもそうだが、一途な男性というのはどうしてこうも相手に付き纏うのか。

 呼び出したクリスティアを悪魔かなにかの邪悪な者だとでも思っているのか、一様に警戒した様子を見せているので不思議に思う。


「ではご安心下さいロバート様。呪いがあったのだとしても、今回はわたくしにもフランさんにもなんの害にもならない呪いですから」

「ではなんらかの呪いが本当にあるのですかクリスティー様?」


 本当に害が無いのか疑いの眼差しを向けていたロバートは、フランが少し怯えた様子を見せると、眉間の皺を更に深くする。

 ロバートのその険のある眼差しのほうが、呪われそうである。


「そうですわね。呪いなのか事件なのか……それは定かではございませんが、なにかが隠されていることは確かです。なので本日、フランさんをお呼びしたのはこちらの宝石のことをお聞きしたいのです」


 そういってルーシーが机の上に置いたのは、一つのジュエリーケース。

 蓋を開けば中に、黄色に輝くトパーズの宝石が輝いている。


「わたくしが呪われているという噂の元凶となっております宝石の一つです。わたくしは今、数ある宝石の中から呪われた宝石を一つ、探し出すという依頼を受けているのです」

「なんという物をフランに見せるんだ貴様は!いいかフラン、なにがあるのか分からないのだから、絶対に触らないように!絶対にだ!」

「は、はい。ロバート様」


 こんなことになるだろうと思ったから、付いてきてよかった!

 いつもいつも、余計なことをフランに持ちかけて!


 呪われている品物をフランに見せるなど言語道断、警戒してがなるロバートに、フランは思わず頷く。

 呪われているかもしれないと聞けば、ロバートとフランの目にそのトパーズは一段と怪しく輝いているように見える。


「あのクリスティー様、私にこちらのトパーズについてなにをお聞きになりたいのでしょうか?」

「ローウェン伯爵家はトパーズが産出する鉱山を多くお持ちだとお聞きしております」

「そうですね。我が家では魔法鉱石を探すため、様々な鉱山を多く所有しております。魔鉱山でない鉱山では宝石の産出が主となりますので、必然的に取り扱いも多くなります」

「このトパーズはあまり良いお品物ではないとお聞き致しました。フランさんから見て、他のトパーズとの違いは一体なんだと思われますか?」

「そうですね」

「フ、フラン!」


 クリスティアに問われて、フランはトパーズの収められたジュエリーケースに触れる。

 それにロバートが慌てふためく。


 触れるなと言ったのに触れるなんて!

 それがケースだとしても、なにが起きるか分かったものではないというのに!


「浄化の加護のあるケースにしか触れませんから、大丈夫ですわロバート様」


 ロバートの心配を余所に、微笑んだフランはジュエリーケースを持ち上げてみせる。

 ケースには百合の花の刺繍が描かれている。

 百合は古来より悪しきモノを打ち払う浄化の能力を持つとされている花だ。


 クリスティアもそれを知っているからこそ、呪われた宝石を収めるジュエリーケースのデザインとして選んだのだ。


「クリスティー様、トパーズといえば黄色を連想する方が多くいらっしゃると思いますが、実はカラーバリエーションが豊富な宝石でもあるのです。中でも一番価値が高いのは赤色です。黄色が悪いというわけではございませんが、産出量が多いのでそういったお品物よりかは価格が低く設定されております。なのでそういった理由から、他のトパーズよりかは価値が低いのだと思います」


 ケースを左右に揺らし、シャンデリアの明かりを借りてじっくりとトパーズを見ていたフランはその価値を見定める。

 そしてそのトパーズの裏面が不自然に切られていることに気付くと小首を傾げる。


「こちらのトパーズは裏面の半分が切断されているようですが、なにか理由でもあるのでしょうか?」

「珍しいのですか?」

「はい。こちらのカットはオーバルカットといって楕円であることが特徴です。指輪に好まれる形で、内側へと丸みのあるフォルムは指を細く長く見せる効果があるのです。なので半分にカットしてしまうと、全体のフォルムが崩れてしまいますから。このように裏だけを切断するようなことはいたしません」


 カット方法によっても宝石の価値というものは決まってくる。

 宝石に見合わないカットをしてしまうと余計に、商品価値は下がってしまう。


「では、どういった理由でこのように宝石を半分に切ることがあるのでしょうか?」

「そうですね。例えばですが、カットしている途中で宝石になんらかの付着物が付いていることに気付き、切らざるを得なかったのだと思います。とはいえ熟練の加工技師ならば途中でそのことに気付いたとしても、宝石の価値を下げることのない他の形にすると思います」


 価値を下げてしまうオーバルカットをわざわざ選んだりはしない。

 原石を最大限に輝かせるために、宝石には色々なカット方法があるのだから。


「なにが付着していたのでしょうか?」

「トパーズでしたら、混じり合う前の魔法鉱石で間違いないかと思います」

「魔法鉱石!」


 大人しく話しを聞いていたロバートが突然、フランが持っていたジュエリーケースを奪い取ると立ち上がる。

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