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プリンセスカットのルビー②

「そ、それとこちらは鉱物なので問題はないのですが、宝石鉱山で見付かる魔法鉱石は取り扱いに十分、注意をしなければなりません」

「宝石鉱山で魔法鉱石が見付かるのですか?魔法鉱石は魔鉱山でしか産出されないと聞いているのですが」

「ごく稀にそういったこともあるそうです。一般的には知られていないそうなのですが。そういった魔法鉱石は宝石と混じり合っていることが多く、一見して宝石との見分けが付かないそうです。しかも通常の魔法鉱石よりも魔力に敏感だそうで。宝石の加工中に起きる事故の大半は、その魔法鉱石が加工用の魔法道具に反応して起こしているそうです。魔法鉱石が宝石と混じり合う原因は分かっていません、なので質の良い宝石を見付けたら加工職人はまず、それに魔法鉱石が混ざっていないかを確かめるのだと言っていました」

「そうなのですね。雨竜様は博識でいらっしゃいますね」

「いえ、そんな……私はお役に立てましたか?」

「えぇ、十分に。感謝いたします雨竜様」


 クリスティアは頷くとその身を雨竜から離す。

 実はクリスティアへと贈る宝石を選ぶために自ら色々な鉱山を巡り、宝石のことについて調べたのだとは言えずに。

 雨竜はモゴモゴと口籠もらせながら、役に立てた喜びを噛み締める。


「それにしても鉱物が交じっているからといって、価値が下がってしまうのは勿体無いですわね。一見しただけでは分からぬほどに綺麗にカットをされておりますし。もし雨竜様がこのルビーをアクセサリーにするとしたら、どのようなお品物になさいますか?」

「私がですか?私でしたら、ネックレスにすると思います。プリンセスカットは宝石をより輝かせて見せてくれるカット方法ですから、胸元に良く映えると思いますし。それにネックレスだと贈った私からもよく見えます」


 髪に隠れるイヤリングより、仕草がなければ気が付かない指輪より、ネックレスはその胸元でただ存在を主張し続け、彼女が一体誰のモノであるのかを訴える(見せびらかす)のだ。

 自身が贈ったプリンセスカットのルビーのネックレスを身に付けたクリスティアを想像し、その美しさに胸をときめかせている雨竜の隣で、その掌の中にあったルビーを持ち上げたクリスティアは同じ色に輝く瞳の前へと持ち上げる。


「では呪いをかけるのだとしたら、どういった類の呪いをおかけになりましか?」

「えっ?あっ、呪い?そうか、そうですね……ルビーは古来より自らの力を高めてくれると言われていますから、その力が弱まるようにと呪いをかけるでしょう」


 美しき幻想に囚われていた意識を現実へと引き戻し、雨竜は慌てたように考える。


 太い幹の大樹の根に少しずつ毒を垂らしていき、徐々に内側から腐らせていく。

 葉が枯れ、枝が折れ。

 何かがおかしいと気付いた頃には手遅れになっている、そんな呪い。

 クリスティアの手の中にある美しき宝石に、そのような呪いがかけられているのだとしたら。


 平然と触れる、呪いなどなんら恐れていないクリスティア。

 いや、呪われることを望んでいるような……そんな輝く眼差しに雨竜は急に、言い知れぬ不安に襲われる。


「クリスティー様も十分にお気を付けください。呪いが誠であれ偽りであれ、その先にはなにかの大きな謀が待ち受けている可能性があるのですから」

「えぇ、勿論ですわ雨竜様」


 真っ直ぐに、心配の眼差しを向ける雨竜。

 そんな心配は杞憂であるとでも言うように。


 笑みを浮かべてルビーをジュエリーケースへと戻したクリスティアは、呪いなど信じていないかのように呆気なく、その蓋を閉じた。

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