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宝石眼①

「初めまして、ランポール公爵令嬢。アリッサ・アンセスと申します」


 ガラスケースに収められた幾つもの価値ある美術品が飾られた、木目調の落ち着きのある一室。

 ここは商業街の一等地に建つホーム商会の4階位置するシャロンの執務室。

 中央にあるシンプルな布張りのソファーに座るクリスティアへと向かってまず口を開いたのは、机を挟んで対面に同じく座るシャロンの隣に立つ女性であった。


 首と腰にリボンの巻かれたオフホワイト色のプレーリードレスを身に纏った20歳前半の女性。

 黄土色の髪を一つの三つ編みにして左肩に流し、エメラルドのように煌びやかな緑色の瞳を分厚い眼鏡で隠し、礼儀正しく頭を垂れる。

 少し褐色気味の肌は、彼女が南からの移民の血筋であることが知れた。


「よろしくね。アリッサと呼んでもいいかしら?わたくしのことはクリスティーとお呼びになってね」

「勿論です。光栄でございます、クリスティー様」


 公爵家のご令嬢の前ということもあり緊張しているのだろう、笑みの形を作られた口角が少し震えている。

 その緊張が少しでも和らぐように……柔らかく微笑みを浮かべて手を差し出したクリスティアに、アリッサは慌てたようにその手を握る。


 アリッサの伸ばされたその腕、ドレスの袖から真新しい包帯が手首に巻かれているのが見えた。


「本日はシャロンより、宝石鑑定のご依頼があるとお伺いいたしました。私でお役に立てるかが心配ですが……」

「アリッサはね、凄いのよクリスティー!宝石眼を持っている鑑定士なの!」

「宝石眼?」

「止めてシャロン、恥ずかしいわ。あの、皆が勝手にそう言っているだけのことですから気になされないでください」

「どうしてよ、誇るべき能力だわ!アリッサはね、宝石を見ただけでその宝石の価値が分かるの!」


 クリスティアの暖かい掌に少し緊張感は和らいだようで。

 交わした握手を離し、ソファーへと座るように促せば漸く、腰が下ろされる。


 上々の二人の挨拶を見て、惚れ惚れする能力なのだと力説するシャロンに、アリッサは恥ずかしげに俯くと頬を赤く染める。


「シャロンがこのようにお認めになるだなんて、とても素晴らしい能力をお持ちなのですねアリッサさん」

「いいえ、そんな。好きこそものの上手なれと申しますか……他の人よりただ、目が良かったというだけのことですわ」

「もう、すぐ謙遜するんだから。アリッサの悪いところよ」

「いいからシャロン。あの一体どのような宝石の鑑定をすればよろしいのでしょうか?」


 褒められることに慣れていないのか、照れくさそうに話を逸らしたアリッサにシャロンが怒ったように頬を膨らませる。

 人の価値を見出すシャロンにとってアリッサは、とても大きなお宝のようだ。


「ふふっ、ではこちらの宝石の鑑定をお願いいたします」


 二人の仲の良さに笑みを溢してクリスティアが手を上げれば、待機していたルーシーとアリアドネが机の上に金で縁取りされた白百合の花が刺繍された10個のジュエリーケースを置くとその蓋を開く。


 それぞれのジュエリーケースの中から現れたのはアスターより預かった10粒の宝石。

 ケースはクリスティアが特注したものだ。

 アリッサは並べられた宝石を、興味深そうに身を乗り出して見つめる。


「どれも素晴らしいお品物ですね。近くで拝見しても構いませんか?」

「えぇ、勿論」


 眼鏡を外したアリッサはポケットから宝石鑑定用ルーペを取り出すと、並べられた10粒の宝石を一つ一つじっくりと見ていく。

 静かになった空間で、時計の秒針の音だけが時の経過を告げている。


 その心眼を邪魔せぬように。

 クリスティアは特に急かしたりすることもなく、ルーシーに入れてもらった紅茶を飲み、時折シャロンととりとめの無い会話をして、ただ待つ。

 そうして数十分後、10粒の宝石鑑定を全て終えたアリッサはルーペを眼鏡に付け替えるとまず4粒のジュエリーケースをクリスティアのほうへと押し出す。


「こちらの宝石の中ではこの4粒が良いお品物のように見受けられます。特にこちらのグリーンダイヤは神聖国が原産地で、流出量からみても価値があるお品物となります。ダイヤモンドはレッド、ブルーに次いでグリーンが人気のカラーですから」

「まぁ、アリッサさんは宝石を見ただけで原産地がお分かりになられますの?」

「全てというわけではございませんが。カラーダイヤは神聖国での産出が多いダイヤですし、グリーンダイヤは神聖国でのみの産出となりますから。他の宝石より分かりやすいんです。ご存じの通り神聖国は宗教上の理由で宝石の流通量を制限しております。富める物は全て悪、宝石が流通するときは大体が教会の大きな修繕や、年に一度開催される聖女降臨祭のための資金集めが目的です。それ以外の理由で宝石が流通することはございませんので、珍しさを考えてもクリスティー様にお似合いになられると思います」


 アリッサの宝石鑑定技術にシャロンが、ほらほら凄いでしょ?と言わんばかりのキラキラとした眼差しを向けている。

 その熱い眼差しに、ハリーがこの場に居れば嫉妬の炎を燃やしたことだろう。


 そしてアリッサは今度は残された6粒の中のうち紫色のアメジスト、黄色のトパーズ、緑色のエメラルドの3粒を自分の方へと引き寄せる。

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