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宝石の鑑定①

 その日の放課後、クリスティアはアスターから預かった宝石の入った小袋を持って学園内にあるサロンにいた。


 クリスティアの横には銀灰色のポニーテールの長い髪を後ろで縛ったシャロン・ホームが黄色の瞳をクリスティアへと向けてべったりとくっついており、向かい側には茶色の髪を後ろに撫でつけたハリー・ウエストが羨ましげな焦げ茶色の瞳で二人というかシャロンを見つめている。

 ハリーの隣には呪われた宝石というものに興味を持ったらしい雨竜が座り、入り口の近くにはアリアドネとルーシーが待機している。


「商会の仕事は最近お忙しくはなくってシャロン?」

「ぜーーんぜん!たとえ忙しくたってクリスティーに呼ばれたら世界の裏側にいてもすぐに駆けつけちゃう!」

「まぁ、シャロンったら」

「折角同じ学年になれたのにクラスが別になっちゃって、ほんと残念だわ」

「こればかりは仕方がないわ。わたくしもシャロンと離れ離れになって寂しいのよ?」

「だよね!あたしも寂しい!」


 拗ねたように唇を尖らせて腕に絡みつくように抱きつくシャロンの子供っぽさに、クスクスと笑うクリスティア。

 一つ上の学年だったシャロンが、両親の経営するホーム商会の仕事の手伝いを理由に一年休学して留年したのはクリスティアと同じ学年にどうしてもなりたかったからだ。


 以心伝心。

 相思相愛。


 クリスティアと同じ気持ちなのだと狂喜乱舞するシャロンに、ハリーの羨ましさを込めた眼差しが鋭くなる。


「それでクリスティー?一体、この小袋の宝石達はどうしたんだ?」


 二人の仲の良さに嫉妬心を隠しもせず眉間に皺を寄せたハリーが、いい加減に本題に入れと机に置かれた呼び出された理由を指差す。

 呼び出されて不服だと言わんばかりの態度だが、クリスティアが呼び出したのはシャロンだけであってハリーは呼んでいない。

 彼は勝手に付いてきたのだ。


 一時期はシャロンに愛想を尽かされ、距離を置かれていたハリーだったが今はすっかり仲直りをしたらしく。

 ハリーが示す口の開かれた小袋を興味深そうに覗き込み、中の宝石を一粒取ろうと伸ばしたシャロンの腕には、ハリーお手製の新しいバンクルが付けられていた。


「実はファニキア家のご令嬢であるアスター嬢からご依頼を受けまして……」

「ファニキア家!やだっ!これファニキアの宝石!?呪われた宝石じゃない!」


 クリスティアがその名前を口にした途端、シャロンは宝石を掴もうとしていた手を慌てて引っ込める。


「呪われた宝石?」

「うん!商人の間では有名な話しなの!ファニキア家はその昔、繁栄を条件に悪魔と取引をした呪われた一族だって言われてて。宝石に異常に執着するのもその呪いのせいだって。あっ、雨竜様もご存じのはずですよ、ほら龍の瞳を見たがっていた一族です」

「龍の瞳?」

「あぁ、何処かで聞いた名だと思っていたら……龍の瞳とは黄龍国で産出された大粒のルビーのことですクリスティー様。皇室に献上された品なので滅多とお披露目することはないのですが……それを一度、見せて欲しいと願い出てきていた商家がいたのです」

「それがファニキア家。宝石の噂を耳にすれば古今東西、駆けずり回って見に行くの。例えその宝石に誰もが嫌がるような曰くがあったとしても、それすらも魅力に感じる一族なのよ。一度目を付けたらどんな手を使ってでも手に入れようとするんだから、あいつらは強欲な悪魔そのものよ」

「龍の瞳は国の宝ですが特段、隠している物ではなかったので。取引を有利に進めるためにお見せいたしました。それで十分に満足はされたようで、特になにかトラブルがあったという記憶はございません。まぁ、売る気はないかとしつこく交渉をしようとはされていましたが。黄龍国はファニキア家とはそれなりに良い関係を築いていると聞いています」

「俺もファニキア家の当主とは何度か話したことがあるけど、悪い人じゃなかったよ?」

「皆んな騙されてるのよ!宝石に関係無いことにはもの凄くシビアで冷酷なんだから!あたし達の取引だって何度邪魔されたことか!」


 息巻くシャロンのファニキア家嫌いには、どうやら多分に私怨が含まれているようだ。


「一体どんな依頼を受けたのクリスティー?絶対、碌な事にならないんだからすぐに断ったほうがいいわ!危険よ危険!」

「ですがシャロン。もうご依頼はお受けしてしまったのだから、今更お断りなんてできないわ」

「もぉーークリスティーったらぁーー」


 事件となればなんでもかんでもすぐに食いつくんだから!

 シャロンの不満の雄叫びがサロンに響く。


「ふふっ。依頼主であるアスター嬢はわたくしに、呪いをかけた宝石を探し出して欲しいらしいの。わたくしに呪いがかかるようなモノではないとのことでしたから、危険な目に遭うこともないわ。心配しないで」

「ん?呪いをかけたってなに?」

「彼女は魔眼の持ち主だそうで、その魔眼でこの中の宝石のどれかに呪いをかけたそうなの」


 楽しそうに依頼内容を話すクリスティアがなにを言っているのか理解出来ない。

 呪い?魔眼?一体なんの夢物語なのか。

 現実味のない言葉が右から左へと耳を流れていく。


 シャロンとハリーはまるでうつらうつらと眠りそうな中で聞かされている絵本のように、脳へと届かない話の内容に唖然と黙り込み。

 一度話を聞いたはずの雨竜でさえ、やはり理解はできないと難しい顔をしている。

 この中でアスターの荒唐無稽な話を理解して、飲み込んでいるのはクリスティアだけである。

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