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呪われた宝石②

「リュ、リュカオン様からの直々のお申し出をお断りすることは出来ません!だからいいですか!あなたはあたしが出す試練を乗り越えないと、えっと、ほら、大いなる不幸が訪れるのです!」

「まぁ!」


 クリスティアを指差して恐怖心を煽るアスターだが、言い淀んでいる時点でこの場にいる誰もがその言葉に恐怖心を抱いていない。

 クリスティアとて両手で唇を隠して怖がって見せているが、その隠された唇は上げられており……眼差しは可愛いモノを見る暖かい眼差しである。


「それは困ってしまったわ。でも一体どうして、リュカオン様はわたくしをお選びになられたのかしら?正直言うと、理由が分からなければ試練を与えられても戸惑うばかりというか……自信もないですし。高潔なるリュカオン様に選ばれるべき方は他にいらっしゃるのではないのかしら?それにあなたという魔眼を授けた契約者が既にいるのですから、新しい契約者が本当に必要なのかも疑問なのです」

「あ、あたしは……あたしはダメなんです。私は……羊飼いだから」


 ぼそりと呟くように漏らされたアスターの言葉。

 諦めた、自嘲気味の声音だったそれはすぐに自らが張り上げた声で掻き消す。


「とにかく!リュカオン様はあなたの噂に興味を持ったんです!絶対に事件を解決するその慧眼に期待をしているんです!」

「何故、事件を解決する慧眼が必要なの?」

「それは!新しい聖女の降臨があるとのお告げがあったのです!」


 途端、クリスティアの眼差しが強く、鋭くなる。


 聖女降臨の噂は時折、巷で広がることはあるがそういったときは大抵、病が流行ったり国際情勢に不安があったりしたときだけだ。

 だが今、王国にそういった不安はない。

 しかも聖女は既に降臨している。

 クリスティアのメイドとして働くアリアドネがその聖女だ。


 だが、それは一部の者にしか知られていない事実である。

 誰かに自分が聖女であることを話したのかという疑うような視線を一瞬、アリアドネへと向けるクリスティア。

 その視線を受け慌てたように頭を左右に振る。

 アリアドネは自分が聖女であることを誰かに話した覚えはない。

 知っているのはクリスティアとルーシーだけだ。


「聖女様はこれから数多くの事件に巻き込まれる運命にあるのです!その脅威からお守りするために、リュカオン様はあなたを守護者としてお選びになり、その能力を見定めるために試練をお与えになるのです!」


 聖女降臨などと、アスターが口から出任せを言っているのかもしれない。

 だが何故、聖女なのか。


 クリスティアは特別に聖女信仰をしているわけではない。

 むしろ信仰心が薄いことは周知の事実。

 もしアスターがなんらかの理由で巻き込まれた事件の解決を願っているのであれば、事件の内容をクリスティアにただ伝えればいいだけだというのに何故、試練などというこんな回りくどいことをしているのか。


「何故、リュカオン様はわたくしに直接話しかけてくださらなかったのでしょう?」

「リュカオン様のお声を聞くにはリュカオン様を信じる気持ちが大切なのです!あたしは特に熱心な信奉者だから、こうして魔眼も授けられたんです!」


 まるでそれが王家の紋章でもあるかのように、自らの眼帯を示すアスター。

 少し考える素振りを見せたクリスティアは立ち上がっているアスターを見ると、ニッコリと笑む。


「理由を知るには、アスター嬢のおっしゃるその試練とやらをお受けするのが一番なのでしょう。ではわたくしは、一体どのような試練をお受けすればよろしいのでしょうか?」

「分かればいいんです!」


 その結果、この緋色の瞳が眼帯に覆われることになったとしても……目の前に転がる謎を捨て置くことは出来ない。

 クリスティアの返答にホッと安堵したように椅子に再度座り直したアスターは、ショルダーバッグを中を漁り始めると、中から黄色の巾着袋を取り出す。


「これを見てください」


 袋の口を広げて中身を机の上に取り出す。

 ジャラジャラジャラと音を立てて小袋から出て来たのは大小様々な10粒の宝石。

 色とりどりで形も様々な多くの宝石が無造作に飛び出てきて、クリスティアは眉を顰める。

 このような場には似つかわしくない、転がり出た宝石の中には一級品も混じっている。


「……とても良い宝石もあるように見えますが、これは?」

「我が家で取り扱う宝石達です!そしてこの中にはあたしがこの魔眼で呪いをかけた宝石を混ぜています!あなたにはそれをこの中から探し出してもらうことが試練となります!」

「まぁ、呪いですか?」

「そうです!恐ろしい呪いです!」

「……公爵家のご令嬢に恐ろしい呪いがかけられた品物を触れさせるつもりなのですか?随分と危険なことをなさるのですねファニキア令嬢?」

「あっ!」


 驚いたように両掌を唇に当てて宝石を見つめるクリスティアに意気揚々と胸を張るアスター。

 だが隣の雨竜が険のある突っ込みをしたことで、アスターはハッとしたように瞼を見開くと宝石とクリスティアを交互に見る。


 もしクリスティアに呪いがかかった日には、ランポール家が総力を挙げてファニキア家を潰すはずだ。

 婚約関係のある王家だって、黙っているはずはない。

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