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呪われた宝石①

「改めてましてファニキア嬢。わたくしのことは親しく、クリスティーとお呼びになってね?」

「アスター・ファニキアです。アスターで構いません」


 アリアドネが場所を譲りクリスティアの前へと座ったアスター。

 改めての自己紹介を交わしたところで、クリスティアはファニキア家のことを思い出す。


「ファニキア家といえば宝石商でしたわね。前に皇女の誕生日に献上なされた月桂樹と雫のティアラはとても繊細で素晴らしい作品でしたわ」

「あ、ありがとうございます。宝石のカットとデザインは兄がしたんです」


 ファニキア家は代々宝石商の家系だ。

 ラビュリントス王国では商家として一番有名な一族はホーム家だが、宝石だけはファニキア家がホーム家と並び立つかそれ以上だと言われている。

 そしてファニキア家がホーム家と違うのは、彼らは宝石のために男爵という爵位を進んで手に入れたこと。

 爵位を持っていればより、貴族が持つ鉱山からの宝石を入手しやすいという理由で三代前の当主が娘しか居ない没落寸前の男爵位との婚姻を結び、その地位を手にいれたのだ。


 宝石を手に入れるためならば手段を選ばないファニキア家は、宝石に呪われた一族だと社交界では有名で。

 商人達からはその異常なまでの執着心を嫌われ、貴族達からも……商人風情が貴族の真似事をしていると嫌われている。

 だがその嫌っている誰もがファニキア家の宝石を見る眼を疑わない。

 呪われていると蔑みながら彼らが持つ宝石を求める。

 ファニキア家を輝かせているのは宝石だが、宝石もまたファニキア家が輝かせているのだ。


 公爵家の令嬢ならばファニキア家の宝石を知らぬことはないだろうと思っていたが。

 宝石自体ではなく、作品の全体を褒められて嬉しそうにはにかむアスターだったがすぐに、耳障りの良い褒め言葉に騙されないぞとでもいうかのように唇を結ぶ。


「ではアスター嬢、わたくしの力を試すとのことでしたけれど。一体、なんの力をどうやって試すつもりなのかしら?」


 警戒を崩さないのであればさっそく、本題に入るほうが筋であろう。

 緋色の瞳でアスターをじっと見つめれば、少し気圧されたように彼女は息を詰めるが、すぐに真っ直ぐとその瞳を見返す。


「あなたが世間で赤い悪魔とか呼ばれて難解な事件を数多く解決したという噂をお聞きいたしました。あたしにこの魔眼を授けて下さったのはリュカオン様です。そのリュカオン様は一緒に神託も下されたのです。あなたが本当に悪魔と契約をしているのかを見定めなければならない、もし契約をしているのであれば相応の罰を下さねばならないと。そしてもし契約をしていないのであれば……新しい契約者としてあなたに特別な力を授けたいとおっしゃられたのです!」


 それがまるで光栄なことであるかのように。

 スポットライトに当たる役者のように胸を張り告げるアスターに、クリスティアはニコニコと話しを聞いている。


 そのクリスティアとは対称的に、雨竜はすっかり呆れた表情である。


「リュカオンってなに?」

「聖女譚の一つに出てくる聖獣の名です。聖女が助けたオオカミは神から名と力を与えられ彼女を守る聖獣になったと。一説には神の化身であったともされているので、彼女の魔眼は神より授かった能力だと言っているのでしょう」

「へぇ……知らなかった」


 アスターの言っていることが理解できず、コソコソと小声でどういうことか隣のルーシーに問うアリアドネ。

 聖女譚とはこの世界でいう聖書のようなもので、無秩序であったこの世界に神の代弁者たる証を持つ聖女が現れ、秩序を正し救っていくという物語だ。


 アリアドネはこの世界でいう証を持つ聖女であるので、ある意味当事者なのだが。

 ルーシーにそんなことも知らないのかという顔をされるが、ゲームにはそういった歴史的背景は一切語られていなかったのだ。

 というか自分が死なないように聖女というワードはなるべく避けて生きてきたので知ろうともしなかった。

 厨二病としての設定はしっかりと作り込んでいるんだなとアリアドネが感心していれば、大人しく話しを聞いていたクリスティアが口を開く。


「まぁ、そうなのですね。ですがわたくしの別称は世間の方が親しみを持って付けてくださった愛称であって、本当のことではございませんわ。よって悪魔に魅入られているなんてことはないのですけれども……それにわたくしはわたくしのこの瞳を気に入っておりますので、眼帯で隠さなければならないような能力は少し、困ってしまうのですけれど」


 赤い悪魔というクリスティアの別称を誰も親しみを込めて呼んでいるわけではないのだが……。

 その赤を示すこの瞳が眼帯で隠れてしまうのは困ると、頬に手を置いて小首を傾げるクリスティアに、アスターは慌てたように立ち上がる。

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