魔眼の少女①
賑やかな学園の食堂。
日和が良いということで二階のテラス席で昼食を取っていたクリスティアの向かい側には今は学友であり、学園から一歩外に出れば彼女のメイドとなるアリアドネ・フォレストが座っている。
パラソルの下、円形の机に椅子、暖かい日差しにそよぐ風。
テラス席は賑やかな食堂内より随分と静かであった。
「ねぇねぇクリスティー」
「なにかしらアリアドネさん?」
学園に居る間はメイドとしてではなく学友として接していられるので、いつも以上に気安くなるアリアドネ。(とはいえあまり無礼な態度を取るとルーシーから厳しい指導が入る)
食事を終え、クリスティアの紅茶を入れるルーシーを横目に(アリアドネの紅茶は入れてもらえない、一度入れてと強請ったら大量の塩を入れられた)、アリアドネは机に乗せた両手の上に顎に乗せてその身を前へと出すと、好奇心に輝かせた眼差しをクリスティアへと向ける。
「一体、どうやって天馬様を攻略したの?天馬様、URキャラなんだよ!」
「UR?」
聞き覚えの無い単語に小首を傾げるクリスティアに、アリアドネは興奮したように頷くと続ける。
「ウルトラレアってこと!アリアドネの糸で出てる攻略者にはレア度があってね、ユーリ殿下がSSRだからURはその上の攻略対象者なの!難易度も最高レベルだったし、どのルートでどう出てくるのか分からない完全ランダムの攻略キャラ!しかも追加コンテンツだから課金しないと絶対出てこない無課金勢には非情なキャラ!それが天馬様!」
「まぁ、そうなのですか?」
「無課金勢からの支持があるから人気はユーリ殿下には敵わなかったけど、課金勢からは天馬様もすっっっごく人気だったんだよ!」
無課金になればそれこそユーリの人気を追い抜くのではないかと言われていた。
そんなレアキャラを生で見られて嬉しそうなアリアドネと、難易度やら課金やらと言われても……ゲームには疎いクリスティアはよく分かってはいないものの、一からそのゲームの話しを聞くのは興味がないので、ただ微笑みを浮かべる。
「雨竜様とは幼少の頃に王国でお会いして、最近では黄龍国で再会を果たしました。わたくしが家出をしたときのことです」
「家出!?」
雨竜のレアなご尊顔を思い出して浮かれていたアリアドネの脳裏に嫌な記憶が甦る。
クリスティアがユーリとの婚約の破棄をしてアリアドネを新しい婚約者にするのではないかという事実無根の噂を広めて、傷心の家出という体裁を取り、事件の解決をしに黄龍国へと旅立ったのがついこの間の出来事。
アリアドネはその間、この学園で、いや、王国内で随分と酷い目にあっていた。
まずクリスティアと共通の友人達には冷めた眼差しを向けられ避けに避けられて。
仲良くなっていたランポール家の使用人達からはどことなく距離を置かれるようになった。
一番に厄介だったのは、突如として始まった見知らぬご令嬢達からの数々の嫌がらせで。
教科書を隠すような、これぞまさしくヒロインが受けるような典型的な虐めが何故か始まったのだ。
最初こそちょっとテンションが上がり、その嫌がらせを楽しんでいたアリアドネだったが……日を追うごとに陰湿さが増していくそれについには怒りが爆発して、何故こんなことをするのかと目に付いたご令嬢を取っ捕まえて問い質したのだ。
曰く、クリスティアが家出をする前に出席したパーティーでアリアドネがユーリと共に登場したことが世間から意味深長に受け取られているのだと。
貴族は結婚に社会的繋がりを求めることが大いにあるので婚約者と恋人が違うことはよくあるということ。
そして婚約者ではない相手を特定のパーティーのパートナーとして出席させることは、この人は婚約者公認の恋人であると公言することなのだと。
あくまでも許された公認の仲であるとの宣言。
だがそれが許されるのは貴族社会でのみのこと。(それも今は恥ずべき行いだという風潮が強くなっている)
世間一般からすれば恥知らずな行為として嫌煙されるその行いを民の模範となるべき王太子殿下であるユーリがするはずはなく。
なので近いうちにクリスティアとの婚約を破棄して、アリアドネと新たに婚約を結び直すのかもしれないという噂が広まっているのだと教えられた。
そして、平民の子女ならば自分達の相手にもならないと考えた地位あるご令嬢達は、彼女に牙を向けたのだと。
そんな意味を持つとは知らなかったアリアドネはそれを聞いて愕然とし、漸くクリスティアに嵌められたのだと気付いたのだ。
デザイナーの新作のドレスをお披露目したいから一緒にパーティーに出席して欲しいと頼んできたのはクリスティアであった。
パーティーには慣れていないアリアドネのパートナーをユーリにお願いしようと提案してきたのもクリスティアであった。
それなのに何故!?
平民がドレスを着てパーティーに出席する機会なんてないので、確かにアリアドネは浮かれていた。
推しの隣を歩けることに舞い上がってもいた。
注がれる視線に緊張しながらもパリコレを歩くモデル気分。
自分が断崖絶壁のランウェイを歩いているなんて知らずに有頂天だった。
全ては策略だったのだと知ったときには時既に遅し。
学園の全ての生徒達がすっかり敵となっていたのである。




