嘘吐きの羊飼い
「オオカミがきたぞ!」
彼は言った。
だが誰もがそれを信じなかった。
「オオカミがきたぞ!」
彼は心から叫んだ。
だが誰もがそれを鼻で笑った。
「オオカミが、オオカミが!」
彼は嘘吐きだった。
嘘を吐いて吐いて吐き続けて……誰もが彼を信じなくなっていた。
そして嘘吐きな羊飼いの羊は、オオカミに全て食べられてしまいました。
「当たり前じゃない」
一体、誰がこんな本を部屋に置いたのか!
まるで私を嘲笑うかのように!
羊飼いを笑う、笑う、嘲笑う村人達!
バンッと音を立てて本を閉じる。
馬鹿な話し。
愚かな話し。
最後のそれが真実であったのだとしても……嘘を吐き続けた男の言葉など誰も信じなくなってしまったという、今更意味のない教訓。
「嘘つきなあなたのことなんて誰も信じるわけないじゃない」
少し間抜けに、滑稽に書かれた表紙の羊飼いに吐き捨てる。
「そう、嘘つきで特別じゃないあなたのことなんて……」
だから私は特別であるべきなのだ。
特別にならなければならないのだ。
村人でも羊飼いでもない、私は特別に。
机の上に置かれた絵本、そしてその隣にある小さな布袋。
絵本をゴミ箱へと捨てた彼女はその布袋を握り締めて、事実を捨てた真実を見るための覚悟を決めたのだった。




