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公爵令嬢はミステリーがお好き  作者: 古城家康
リネット・ロレンス殺人事件
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刑事の手帳③

「でもお別れしているからといって犯人候補から除外するのは些か短絡的ではございません?それに三ヶ月という期間になにか意味がございますの?」

「そうだな。まぁ、今のところ有力な容疑者からは外してるってだけでなにか疑う要素があればすぐに嫌疑者に戻る。それと殺された動機どころであろう事項がこの三ヶ月にかかっている」

「それは一体なんですのニール?」


 ニールがソファーの背もたれに身を寄せて言うべきか言わざるべきか一瞬悩むような表情を浮かべるけれども、このまま黙っていたとしてもすぐに真実を見つけ出すだろうクリスティアには無意味な沈黙でしかないので重い口を開く。


「リネットの腹に子供が居た」


 ニールの言葉に緊張感を持った静寂が訪れる。


 ラックが暗く憂鬱な顔をし、クリスティアの眉がピクリと動き、ユーリが嫌悪を込めて眉を顰め……ゆっくりと口を開く。


「……なんという。彼女自身はそのことを知っていたのか?」

「解剖の結果は妊娠三ヶ月。ロレンス卿のこともあったからな、早急に邸を調べたところ病院での診察記録も出て来た。リネット自身も妊娠の事実は知っていたんだろう」


 ニールは忌々しげに顔を歪ませて、その事実の不愉快さに頭が痛むというようにこめかみを押さえる。

 既婚者で子供もいるせいか子供が関わる事件にニールは感情的になりやすい。

 長年の刑事としての矜持からその感情を抑えてはいるものの漏れる声は暗く深い嫌悪を抱いている。


「刺し傷は腹に集中していた。執拗に腹を狙っていたのはそれが殺す動機だったからだろう。よってこの三ヶ月の間に関係があった奴が有力な容疑者だ」

「お可哀想なリネットさん」


 本当に可哀想。


 痛ましい事実にリネットの安息を願い瞼を閉じたクリスティアは彼女と初めて会ったお茶会のことを思い出す。

 場の雰囲気に馴染めなかったのか一人で噴水近くのベンチに腰掛け所在なげにしていたリネット。

 たまたま庭を散歩していたクリスティアが声を掛ければ慌てて立ち上がり、怯えた子羊のように震え戸惑いながらも時々灰色の瞳を細めてはにかんだ笑みを浮かべ……時が経つ毎にどんどんと懐いてくる姿が可愛らしかったことを曖昧にでも思い出す。


 赤毛の髪が風に揺れる彼女とあの時なにを話したのだったかしらとクリスティアは考えようとして止める。


 今はそんな過去のことを考えてもなんの手がかりにもならないことが分かっているのでそれよりも目の前の、事件の事実に目を向けなければとクリスティアは瞼を開く。


「二人の人を殺めた殺人犯人を必ず見つけ出さねばなりませんね」


 例え法律上お腹に居る子は人として認めらずその罪に問うことが出来なかったとしても、二人とも紛れもなく生きていたことはこのクリスティア・ランポールが知っているのだから……。


 その命を奪った残虐な殺人犯人を。


 クリスティアに罪を擦り付けて安心しきっているであろう殺人犯人を。


 必ずその安寧の時から引き摺りだしてやり報いを受けさせることを固く誓う。


 そんなクリスティアの誓いを聞いてこの場に居る全ての人物は思う。

 必ずこの殺人犯人は後悔するだろう、クリスティアに短剣を握らせてこの事件に巻き込んだことを。

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