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あるメイドの死①

「なんで私が……」

「文句を言ったって仕方がないでしょう。ほら、さっさと行きましょう。早く事件を解決してアーテを救い出さなければならないんですから」

「私は別に救いたいだなんて思ってないし。っていうかあの女が犯人だと思っているし」


 メイドであるミダの話しを改めて聞きたいので連れてくるように……というクリスティアの命を受けて、平民街の比較的高級なマンションが立ち並ぶ場所へと訪れたアリアドネとヘンディングス。

 途中まではルーシーも一緒だったのだが、ディゴリア邸の執事でもあるルアゴからも話しを聞きたいと言っていたので(こちらは平民の中間層が住む場所に家がある)、分かれ道から別行動となっていた。


 ルーシーはなにか問題が起きても一人でも対処が出来るが、アリアドネにはまだ一人では難しいだろう。

 なので一人にならぬようにヘンディングスが護衛のためにアリアドネに付き添うことになったのだが……頼りない護衛にアリアドネの不満と文句が止まらない。


 何故だか分からないけれどアリアドネはヘンディングスが嫌いなのだ。

 こう精神的な域で、明確な理由は説明できないけれども、嫌いなのだ。


「あれ?」

「ちょっと!急に止まんないでよ!」

「いや、あれはエニコディオ卿ですよね?」


 不満を表情と口に表しながら、ヘンディングスと人一人分の距離を開けて後ろを歩いていたアリアドネ。

 ミダが住んでいるというマンション前で不意に立ち止まったヘンディングスに、地面を見ながらぶつくさ文句を言っていたせいでその背中に危うくぶつかりかけたアリアドネは、咎めるような声を上げる。


 だがヘンディングスはその声を聞いていないようにマンションの入り口を指差す。

 そこから見知った人物が飛び出してきて馬車に乗って去って行く姿を見たからだ。

 一瞬だったので、アリアドネがヘンディングスの背中から指差す方向を覗いて見たときには走り去っていく馬車の姿しか見えなかったが。

 ヘンディングスの目には確かに、アロン・エニコディオの姿が映ったのだ。


「エニコディオ卿もミダ夫人になにか用事があったんですかね?」

「さぁ、私には見えなかったけど……そうなのかもね。そんなことよりもクリスティーだって待ってるんだからさっさと用事を済ませましょう」

「ずっと思ってたけど、君ってメイドなのに偉そうだよね」


 わざわざ足を止めたヘンディングスを促して3階にあるミダの部屋へと向かうために、二人はマンションを見上げる。

 10階建てのこのマンションは最近建てられた高級マンションだ。

 中へと入れば広く綺麗なエントランスの奥にエレベーター。

 こんな所に住めるなんて、ディゴリア邸のメイドの給料は随分と良かったらしい。


 アリアドネはエレベーターのボタンを押しながらこの世界へと転生して、前世でいう中世の頃の不便さと近代の頃の便利さが入り交じって共存する世界にいつも不思議さを感じる。

 発展しているものとしていないものとの差がなんだか分からないが、近代の記憶がある者として、いっそ自分が便利な物を開発していくのはどうだろうかと思う。


 前世で便利だったものはこの世界でも絶対に便利であるはずだ。

 知識を活かしてそういった物を開発して、ガッポガッポと儲けるのだ。

 それで借金を返済して、メイド家業ともおさらば。

 最高のライフプランニングではないか。


 ヘンディングスと二人っきりでエレベーターに乗ることで感じる理不尽な苛立ちを誤魔化すように、成功した自分がこのマンションの屋上で悠々自適に暮らす姿を思い描いていれば、ガタンという少し不安な停止音と共にエレベーターの扉が開く。


 ミダの部屋は左奥の角部屋だ。

 エレベーターを降りて廊下の奥まで歩いていけば、ミダの部屋であろうその扉が何故だか少し開いていた。


「扉が開いてる」

「扉が開いてますね」


 口に出した事実にアリアドネとヘンディングスは顔を見合わせる。


 一体何故、扉が開いているのか。

 空気の入れ換えでもしているのか。


 オートロックの開発されていないこの世界で、随分と不用心だと思いながら、アリアドネは玄関の横にある呼び鈴へと視線を向ける。

 開いているからといって図々しくも扉を開けて声を掛けるのは憚られる。

 人差し指を上げてその呼び鈴をアリアドネが押せば、ジリリリリという音が開いた扉の中から響く。


 だが返事はない。

 訝しみながら再度呼び鈴を押す。

 ジリリリリ。

 やはり返事はない。


「誰も……いないのかな?」

「扉が開いているのに?不用心すぎるでしょう」


 駄目押しでもう一度、呼び鈴を押してみるも結果は変わらない。

 ミダは外出しているのだろうか。


 部屋の主が戻ってくるまで待つか、それとも一度帰ろうかどうしようかと迷うアリアドネに、ヘンディングスは少し開いている扉から中を覗き込むように見た後、躊躇わずにドアノブを掴んで中へと入ろうとする。

 どうやら扉を閉めずに邪魔をしていたのはミダの靴のようで、ヒールの高い赤い靴がコロリと外へと転がり出てくる。

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