刑事の手帳①
「まず、リネット・ロレンスの行動からだ」
クリスティアの暴走を容認するよりかは致し方なしとニールが己の手帳を開き、それに釣られてラックはタブレットを起動させる。
ニールに顎で促されてまずラックが口を開く。
「リネット・ロレンス23歳。夜会が始まる19時にエスコート役であるヒューゴ・クインリイ令息と来場されたのを主催であるクレイソン卿の夫人が覚えていました。招待に対する感謝の挨拶をされたそうです」
「クインリイ家か……」
「クインの名を拝しているということは遠縁の王族の血筋になりますの殿下?」
「いや、クインリイ家の血筋はラビュリントス建国の折りに多大なる貢献をした庶民だったはずだ。功績を称えてクインの名を拝したと聞いている」
「クリスティーがロレンス卿を連れて到着したのが19時30分頃で間違いはなかったか?」
「正確な時間は分かりかねますけれどもロレンス卿のことで殿下のお小言をいただいたり夜会の会場で皆さんと歓談をしたことを考えますと到着はそのくらいだったのだと思います。ゲストルームに入ったのが20時を少し過ぎておりましたので」
睡眠薬でぼんやりとしながらもあの二階の廊下の先にあった大きな柱時計の時間をクリスティアは覚えていた。
「時間に関しては間違いないだろう。クリスティアが中々来ないので私は時計を何度か見たからな」
あんなことになるのならばユーリが直接ランポール邸へとクリスティアを迎えに行き共に夜会へと向かえば良かったとつくづく後悔している。
そうしていればギャゼの見出しも少しはマシなものになっただろう。
「なら馬車での事件があって自分の父親が母親を殺した犯人として逮捕される姿を夜会に来ていたリネットは目撃したんだろう。それ以降、会場でリネットの姿を目撃した者達は一様に苛立たしくし人の視線を避けるようにしていたので皆近寄らなかったと証言している。それと一部証言からクインリイと言い争いをしていた姿も目撃されている。そして21時に遺体の発見だ」
20時になる前はホールに居たようだがそれ以降、遺体となるまでのリネットの行動は一切不明だとニール。
夜会の始まりは丁度人が多い時間帯でもあるので帰るに帰れなかったのだろう。
人目を避けるようにホールの端で華やかな夜会の音楽を聴きながらリネットは一体なにを思ったのだろうか。
もしかしたら見当違いな憤激をクリスティアに募らせていったのかもしれない。
「リネットさんはどのような方だったかお調べになりましたの?」
「あぁ」
ニールが再び促すようにラックを見ればタブレットを操作しリネット・ロレンスの項目を出す。
「随分と多情な子だったみたいです。僕が調べた限りでは10人以上の令息や商家の子息などと関係があったみたいですね。結婚を急いでいたという話もあり、その中でも今現在特に親しくしていた男性が三名居ました」
机の上に置いたタブレットに表示されるリネットの項目をスクロールすればそこに表示される令息達の名前。
ラックはまず最初にと一人の名前をタップする。