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混乱の居間①

 すっかり消沈したアークが連れ添う形で、ドロシアが警察署へと任意同行されてすぐ。

 クリスティア達は一度取り調べを中断し、経緯の説明をするために皆が集まる居間へと移動していた。

 対人警察が登場したせいか不安そうに、苛立ったように、険悪な雰囲気が居間の中に広がっている。


「一体どういうことなんだ!何故ドロシアは警察に連れて行かれたんだ!」


 クリスティアの姿を見て一際、苛立ったように足を揺すりながらロンドが叫ぶ。

 彼にとってはクリスティアという少女が訪れてから訳の分からないことばかりが起きているのだろう。

 全くの疫病神である。


「詳細はこれから分かることでしょうが、どうやらディゴリア男爵を死に至らしめた毒物はドロシア嬢がお持ちだった毒物のようなのです」


 クリスティアが冷静に告げた言葉に、ざわりっとした動揺の声が広がる。


「では、ではドロシアが父を?」

「いいえ、タシア夫人。彼女はわたくしに自分が準備をした毒物によって死んだ()()しれないとおっしゃっておりました。()()、ということは彼女はそれを断言出来ないということ……つまり彼女がなんらかの意図によって用意をしていた毒物を誰かが持ち去り、男爵へと使用した可能性を示しているのです」

「それは一体誰が……」

「あの女に決まっているだろう!卑しくも我が一族の全てを奪おうとしているあの女!性懲りもなく、罪を人に擦り付けてまだ、財産を狙っているのだ!」


 目に見えて分かることだ!

 なんという浅ましさ!


 ロンドの場を取り仕切るような大きな声が皆の不安を煽る中、ドロシアを疑うよりアーテへの疑いが強くあるせいか、その通りだというような賛同が数名の頷きによって表される。


「誰が毒物を持ち去ったのかは分かっておりませんわ。何故ドロシア嬢が毒物を持っていたのかも……ドロシア嬢が事実を言っているのかさえ、今はまだ分からないのです。そこで使用人の皆様にお聞きしたいのですが、アーテがこちらに訪れるようになったのは半年ほど前からだとお聞きしております。その間、彼女が邸の中を一人で気ままに出歩くことがあったのか、ドロシア嬢の部屋へと入るようなことはあったのか、お心当たりはありますか?」


 クリスティアの緋色の瞳に見つめられて、燕尾服を着た白髪頭の執事のルアゴは薄緑色の瞳を丸い帽子を手に握る赤毛の短髪の男、コックのモーリスへと向け、そのモーリスの垂れた黄色の瞳は横に居るメイドであるミダ夫人へと向かう。


 三人はそれぞれ戸惑ったように顔を見合わせると、まず執事のルアゴが口を開く。


「いいえ、レディ・アーテはいつだって客間でお過ごしになられておりました。客間以外に行くとき、例えば庭への散策などへはいつだってご主人様がエスコートをなされておりましたから……お一人になることも少なかったように思います。それにドロシアお嬢様のお部屋は二階ですので、お客様が案内なく上がることはまずございません」

「ドロシア譲の部屋に鍵は?」

「内鍵は付いておりますが、外から掛けられる鍵はついておりません。ですがドロシアお嬢様はそれをあまり使用されてはおりませんでした。アーク様が自由に出入り出来るようにしておりましたので」

「でしたら他の方の出入りも、自由に出来たということかしら?」

「難しくは無かったかもしれませんが。わたくしが知る限りではアーク様以外には誰も、そのようなことはなされておりません。ドロシアお嬢様は邸にいらっしゃるときは部屋に籠もっておられることが多く、アーク様以外の出入りを嫌がっておられました。外へとお出掛けになる際は、誰も入らないようにときつく言われておりましたので。掃除はいつもお嬢様がいらっしゃるときにだけ行っておりましたし」

「ドロシア嬢が毒物を持っているということを、アーテが知ることが出来た可能性は?」

「正直、難しいかと思います。ドロシアお嬢様はレディ・アーテを避けておられましたので」


 それはもう分かりやすく避けていたのだ。

 挨拶さえ、まともにしないくらいに。


「お二人も、アーテが一人で居る姿を見かけたことはなかったかしら?」

「俺はコックなので……厨房より外のことは知りませんが、あの捕まった人が厨房に来たことはありませんでしたよ。言伝されたお礼を受け取ったことはありますが……」

「ではミダ夫人は?」

「えぇ、記憶にはございませんが……ですが全ての行動を見ていたわけではありませんので確実とは言えませんわ。あぁ、ですが事件の日には厨房の近くまでいらしていたお姿を見たような……」

「馬鹿なことを。あの女は食事中、一度も席を立たなかったぞ」

「そうですよミダ夫人。ワインボトルをお預かりして、一度手洗い場には行かれましたが……ご主人様とそのまま客間に向かわれて、お一人になられた際も客間からはお出になられていませんし、夕時にはご主人様と共に食堂へと現れたではありませんか」

「あら、では私の勘違いのようです。手洗い場に行かれたときに見たお姿と勘違いしたのかしら?そうだわ、パーティーのときにドク坊ちゃまが厨房のお近くまでいらしたので、その時の記憶と混乱しているようですわ」

「おいおい耄碌したのかミダ夫人。俺は厨房の窓から廊下を見ていたが、誰も通ったりはしなかったぞ」

「ちょっと、失礼だわモーリス」

「あのようなことが起こったのですから、色々と記憶の混乱もありましょう。皆様、少し落ち着かれてください」


 食堂から客間は比較的に見えやすい位置にあるし、パーティーの準備で厨房から食堂に忙しく出入りをしていたルアゴに気付かれずにアーテが厨房まで来れるはずがない。

 ミダ夫人の見間違いであろう。


 ずっとドクに纏わり付いていた姿を覚えているアロンに睨まれ、ルアゴに否定されて、ミダはそれで思い出したように訂正するが、それすらもモーリスに否定され、不愉快そうに顔を顰める。


 誰もが覚えている。

 パーティーが始まってから悲劇に終わるまで、アーテが席を立たなかったことを。

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