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ドロシアの証言②

「クリスティー様、大人達は問題だらけでした……勿論、子供達だって。伯父様達は領地に追いやられながらも、お爺様のお金をいつだって欲しがっていましたし。伯母様達はドクの件で揉めていました。ドクは可愛い甥っ子です。私に懐いてくれていたのに……今はギスギスした雰囲気のせいで、表だって遊ぶこともできません。母は詐欺師に騙されてなにも考えずに馬鹿なことばかりしているし。お爺様は家族に疲れていました。疲れきった結果、愛想を尽かせたんです。そして拠り所を求めて、あの人に救いを求めたんです。私だって……」


 そのノーホスの拠り所がアーテだった。

 決して良い相手ではなかったが、そうなるのも仕方のないことだったのだと。

 問題だらけの家族の不満を吐き出すように勢いよく語っていたドロシアだったが、不意に口を噤む。


「いいえ、なんでもないです。それよりも事件の話をしましょう」


 瞼を伏せて噤んだ口の中で、吐き出せなかった言葉を飲み込んだドロシア。

 胃の奥深くまで飲み込まれたそれはもう、吐き出すことはしないはずだとクリスティアは思う。


「では、事件の当日はなにをなさっていましたか?」

「……朝から出掛けていました。お爺様にお渡しするプレゼントを買い、夕方頃に戻ってきて、母はどうせ寝ているだろうと部屋に声を掛けにいき、一緒に誕生日パーティーに出席いたしました。戻ったときに厨房の前の廊下に、あのワインのボトルが冷やされているのを見ました」


 サービスワゴンの上のワインクーラーで冷やされるボトル。

 何故こんな所にワインがあるのかと訝しむドロシアに、お客様からの特別なワインの贈り物ですと執事のルアゴが告げたのだ。

 それに毒が入っているなんて思いもせずにドロシアは、いやらしい女だと眉を顰めた。


「事件のときはどちらにお座りに」

「母の隣です」


 指を差したのはアークの隣。

 向かい側にはアーテが座っていた。


「ではアーテが向かい側に座っていたのですね」

「えぇ、そうです」

「なにか変わったことや、気になったことはございませんでしたか?」

「警察の方にも言いましたけど、なにも分かりませんでした。やたらと構ってくる人で……」

「馴れ馴れしいとお思いになりました?」

「えぇ、そうですね」


 ドロシアは苦笑い気味に頷き、同意する。


 半年間、邸で会えば挨拶程度は交わしていたが立ち止まって話をすることはなかった。

 ドロシアが避けていたからだ。

 だからなのか、アーテはここぞとばかりにドロシアに話し掛けてきたのだ。

 なにが好きなのかとか、学校ではどういう授業を受けているのかだとか。


 母親ですら聞かないことをあれこれと聞かれて鬱陶しかった。

 鬱陶しかったけど……誰かに興味を持ってもらえることが少しだけ、嬉しかった。


「男爵がお倒れになられたときはさぞ、驚かれたことでしょう」

「はい。急に苦しみだしたかと思ったらそのまま倒れて……私はなにが起きたのか分からずに茫然としていたのですが、母が悲鳴を上げたのでそれに驚いて正気に戻りました。伯父様達がお爺様の側に駆け寄り、医者や警察を呼べと騒ぐ中で私はなるべくお爺様のほうは見ないようにして、ショックを受ける母の背中をずっと擦っていました」


 暫くして警察と医者が来て、現場の保存が必要だからと客間に移動させられた。


「あの、お爺様は一体なんの毒で亡くなったのですか?」


 丁度そのとき、客間の扉からノックの音が響く。

 ドロシアの質問は一旦置かれ、誰だろうかと皆が視線をそちらに向ければ居間にいたはずのユーリの声が外から響く。


「クリスティア、良いか?対人警察が来ているんだが……」

「警察が?えぇ、どうぞお入りになられて」


 許可を出せばすぐに扉は開かれ、ニール・グラドとラック・ヘイルズが入ってくる。

 その表情は随分と険しい。


「ドロシア・ディゴリア。男爵が亡くなった原因である毒物の件について聞きたいことがあるので、署までご同行を願う」

「ちょっと!どういうことよ!私の娘が一体なにしたっているの!」


 威圧感のある声音で告げるニールに、ドロシアは真っ青な顔をして体を震わせる。


 一体どういうことなのか、クリスティアが口を開こうとすればその前にアークが金切り声を上げて、部屋へと入ってくる。


「あくまで任意同行です、落ち着いてくださいお母様」

「落ち着けるわけないでしょう!ドロシア、行かなくていいわ!あなた達、警察ったらいつもそう!無実の人間を捕まえては違法な取り調べをして、罪をでっちあげるんだから!」

「止めてお母さん!」


 興奮して怒鳴り声を上げるアークを、そんなことはしていませんと困ったように制するラック。

 そんな違法な取り調べをしたら人権団体から即クレームが入るというのに、今の対人警察はコンプライアンスに随分と厳しいのだ。


 だが聞く耳を持たないアークはラックの髪の毛を引っ張り、断固阻止の構えを見せる。

 そのあまりの剣幕に、さてどう制しようかと皆が困っていれば、ドロシアが一際大きな声を上げて立ち上がる。


 辺りには一瞬、沈黙が広がる。


「……クリスティー様、一つお伝えしなければならないことがあります」

「えぇ、お聞きいたしましょう」

「もし、もしお爺様が死んだ毒物が魔法鉱石によるものなのでしたら……私、私が……私が隠していた毒物の小瓶によってお爺様が死んだのかもしれません」


 今、混乱するこの客間の中で一番に冷静だったドロシアは、泣き出しそうに顔を歪めながらハッキリとした声で告げる。


 それは紛れもなく、罪の告白であった。

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