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アークの証言②

「では二日前にご長男であるロンド様がこちらにいらしてから、なにか気になることはございませんでしたでしょうか?」

「特に変わったことは無かったわ。私と娘のドロシアはいつも通りに過ごしていたし、お兄様は相変わらずお父様に融資をお願いしてて……断られてイライラしてたけど。それとこっちに戻ってきたいって言ってたみたいだけれど、私がいるから必要ないって断られてたわ」


 そういうときだけは自分を利用することに、アークが可笑しそうに肩を竦ませる。


「誕生日の前日にはお姉様もいらしたわ。お兄様と同じように苛立っていて……息子のドクの件でお父様と揉めていたみたい。酷い話だわ。血の繋がりがなくっても家に向かい入れたのならば立派な家族なのに……私ね、慈善活動に力を入れているの。今は悠久の輪っていうグループに所属しているんだけれど、ご存じかしら?私達が渡した寄付金を国内や外国の恵まれない子供達の支援に使われていてね、毎週この子を支援しましたってお礼の手紙が届くのよ。本当に素晴らしい活動で私、凄く力を入れて参加しているの」

「……そうなのですね。ではアークが男爵と事件の前日にお話しになられたのは、悠久の輪についてなのですか?」


 素晴らしい活動なのですね、興味があるのでもっとお話しを聞かせてくださるかしら?


 そんな言葉をアークは期待したのだろうが、クリスティアが興味を示した様子はない。

 悠久の輪とは慈善活動を謳い、寄付金を騙し取る有名な詐欺グループだとクリスティアは知っているからだ。

 対人警察が目を付けており、近いうちに大規模な捜査が行われると……比較的世間でも話題になっているし有名な話しなのだが、どうやらアークはそれを知らないらしい。


 前日のノーホスに呼び出された件を知られていることに、ビクリと肩を震わせる。


「え、えぇ。お姉様がおっしゃったの?そうなの。お父様ったら離婚して塞ぎ込みがちだった私のことを心配していて……輪の集まりに参加するようになってからは外出も増えたから、喜んでいらしたの。集まりにも興味を見せくださっていたのよ」


 笑みを引き攣らせて逸らされたアークの視線。

 その脳裏に浮かぶのは呼び出されたときに見せられたノーホスの呆れた表情だった。


 愚かな詐欺師に騙されおって。

 お前はどうしてそう、子供のままなのだ。

 ドロシアが可哀想だと思わないのか?


 呆れて、失望して、諦めた……そんな表情。

 ノーホスはいつだってそうだ。

 いつだってなにをしたって……アークに対して一度も期待などしていなかった。

 アークはそれが、憎くて憎くて仕方がなかった。


「事件の日はどうお過ごしに?」

「あの日はそうね、昼前頃にデリアの吠える声で目を覚ましたわ。二日酔いで頭が痛くって。厨房でスープを貰って一息吐いていたら、階段を怒った様子でアロン卿が降りてきていたわ。きっとまたお父様に嫌味を言われたのね」


 足踏みする音が頭に響いて眉を顰めたことをアークは思い出す。


「で、お父様も降りていらしたから寝過ぎだなんだと八つ当たりでもされたら嫌だから、部屋に戻って二度寝をしたわ。ドロシアが私を起こしに来て、時計を見たらパーティーの時間だったから慌てて着替えて食堂に行ったの。ほとんど皆集まってて驚いちゃった」

「席はどちらに?」

「ここ」


 アークが指を差したのはアンの隣。

 最初はタシアの隣に座ろうとした、常ならばそこがアークの席であったから。

 だがアロンに睨まれて、座れなかったのだ。


「パーティーの最中、なにか気になることはございませんでしたか?」

「特に無かったわ。あの捕まった女。子供が好きなのかドロシアにやたらと話かけたり、ドクの世話を焼いていたりしていて……アロン卿ったらあからさまに嫌そうにしているのに、お父様が優しいだのなんだのと褒めそやすから強く言えなくって」


 その様がまた面白かったのだとアークはクスクス笑う。

 アロンはいつだってアークのことを軽蔑したような眼差しで見ていたから、ざまーみろと心の中で舌を出したのだ。


「では事件が起きたときなにか感じたことはございませんでしたか?」


 アークは少し考えるように沈黙したが、すぐに唇を開く。


「いいえ、なにも……お父様が倒れてそれでお兄様が駆け寄って、お医者様を呼べとアロン卿が叫んで、お姉様が部屋を出て行って、ドロシアも怯えていて……混乱していたわ。混乱していて、私、お父様は病気一つしていなかったのにお医者様を呼ぶだなんて、変だと思ったの。だってお医者を呼んだらもしかすると、最悪なことになるかもしれないって……」


 まるで夢の中にいるようだった。

 頭がクラクラ、フワフワと揺れて幻想の中を漂っているかのよう。


 アークは自分はまだベッドの上で夢を見ているに違いないとそう思いたかった。

 医者という診断を下す者に現実を突きつけられ、幻想が正気に戻りが現実になることが恐ろしくて仕方がなかった。

 だが現実は容赦なく、訪れた警察によって突きつけられることとなった。


「そのようなお気持ちになるのも無理はございませんわ。では男爵が倒れられたあとに、あの女が殺したのだとアークが叫んだのですか?」

「えっ?誰がそんなことを言ったの?私じゃないわ。私はただ、ただ、怖くって……なにも耳に入らなくって。あの女が笑ってる姿を見て恐ろしくなって、でも私が言ったのかしら?覚えてないわ……覚えて……ああ!」


 唐突に両手で顔を覆ったアークは声を上げて泣き出す。


「お父様が亡くなって私、私どうすればいいのかもう分からないわ!この邸もお金も全部、全部あの女の物になってしまう!私とドロシアはこれからどうすればいいの!」


 わんわんと泣いてそれ以上、話にはならず。

 ヘンディングスに支えられたアークは、客間から退場することとなった。

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