ロンドの証言①
「一体どういうつもりなのでしょうか!父の追悼の場であのような発言をなさるとは!今頃、記者等が面白可笑しく記事を書いていますぞ!」
ヘンディングスに案内され客間へと入ってきた途端、声を荒げるロンド。
クリスティアの地位に対する配慮もあり、激昂ではなく怒りを滲ませた程度の不機嫌な声音ではあるものの、それは十分な憤りを表していた。
それもそのはず。
故人を悼む場で殺人犯人の肩を持つような発言をクリスティアはしたのだ。
ロンドからすれば面白くはないだろうし、この身にどれだけの不幸が訪れたのかを示すために彼が呼んでいた記者達は、今やすっかりこの対決を面白がっていた。
思惑とは違う方向へと進んでいくことに苛立たしげにクリスティアの向かい側に座ったロンドを見て、クリスティアの隣に座ったヘンディングスは疲れたように肩を落とす。
客間に向かう道すがらもロンドはずっと、ヘンディングスに文句を言っていたのだ。
「お怒りになるのはご尤もですわロンド卿。ですが皆様がお集まりになる場というのは、こうしてお話しをお聞きするにはとても、都合が良い場だと思ったのです」
それはそちらにとっては都合が良いことだろうが!
こちらにとっては都合が悪いにもほどがある!
ロンドが呼んだ記者達だけが居たのならば、後から記事を書くなと忠告することも出来たのだろうが。
あの場には呼びもしないのに訪れて、聞き耳を立てた話しをあることないことを誇張して、世間へと発信する碌でもない記者達も少なからず居たのだ。
それらが一体、これからどんな記事を書くのか……。
無知な少女のように悪びれないクリスティアの態度に、ロンドの右足は苛立ちに揺れる。
「ご息女の評判に傷が付き、ご両親を大いに失望させないことを祈りますよ。それで?一体なにを根拠に世間を騒がせる悪女の無実を信じていらっしゃるのですか?」
「口が過ぎますよロンド卿。それにアーテはまだ被疑者です。犯してもいない罪を責められ苦しむ彼女を憐れに思わないんですか?いいですか、すぐにクリスティーとこの僕が彼女の無実を解き明かし、あの薄暗い牢獄から救い出して……」
「ヘイスティングス」
解き明かすのは100%クリスティア頼みであるのだが、英雄を気取り、自身に酔いしれるヘンディングスに、クリスティアから咎める声と視線を向けられる。
それに小声でヘンディングスですっと呟くと大人しく口を閉じる。
「申し訳ございません、彼はアーテと親しくしているものですから。一つ言えるのは、わたくしとてアーテという女を信じているわけではございません。ただアーテという女を理解しているのです。ディゴリア男爵の死は、彼女の手によるもにではございませんわ」
「ハッ!ですがご息女、あなたは彼女の罪を暴くことが出来なかったとそう申していたではありませんか!でしたら彼女の手とやらも、正確にはご存じないのでは?」
罪を暴くことが出来なかったと先程、自らが口にしていたことを忘れてしまったのか。
そんなクリスティアがアーテの一体なにを知っているというのか。
ただただ殺人者の妄言に踊らされて、追悼の場を穢すとはどうかしているとロンドは更に怒りたつ。
「わたくしは彼女に暴かれるべき罪はなかったというお話しをしただけですわ。それがどういった行動だったにせよ……彼女はただ夫達を愛していただけですから。ロンド卿、少なくとも皆様よりかは、わたくしはアーテのことを知っております。なによりも彼女に関わって亡くなったのは全て夫であり、ディゴリア男爵のように彼女の友人ではございませんわ」
アーテはいつだって夫を愛している。
だから人々の噂になるのは、新聞の紙面を踊るのは、いつだってアーテの夫達の死なのだ。
それが友人や知人であったことは一度もない。
新聞記者と関わりを持っているのならばそれを知らないはずはないだろう。
そう緋色の眼差しで訴えれば、確かにそれはそうだがと口を濁すように黙ったロンドを見て、クリスティアは早速本題へと入る。
「ロンド卿は現在、領地にお住まいだとお聞きしましたが事実でしょうか?」
「えぇ、男爵家の跡継ぎとして研鑽を積むために領地経営を学んでいるのです。領地に住んでいる者達から直接話しを聞くことがその領地を経営していく者としての役目ですから」
「どれほどお住まいに?」
「もう8年ほどです」
「それはディゴリア男爵の意思で?」
「……勿論です」
ロンドの頷きに少し間があったのはそれが事実とは異なるからだ。
ロンドは首都が好きで、元々首都を離れるつもりはなかった。
田舎が嫌いだったのだ。
だが彼はとある投資で、いずれ自分のモノになるからという安易な考えから、男爵という地位を利用した出資をした結果、騙されてしまい多額の負債を抱えてしまったのだ。
地位を悪用し、負債を出したことはノーホスにとってはロンドに対して失望をする大きなきっかけであった。
ノーホスは負債を肩代わりをするかわりに、ロンドを領地へと追いやったのだ。
肩代わりした負債を返すまでは帰ってこなくていい、領地でしっかり働いて返せと言って。




